社外高度人材に対するストックオプションの税制優遇について

これまで社内の一定の人材に対するストックオプション交付についてのみ認められていた税制優遇(いわゆる「税制適格ストックオプション」)が、経産省による認定を受けることによって、一定の要件の下で、社外の人材に対するストックオプション交付にも適用されるようになった。
そこで、社外人材に対するストックオプションの税制優遇について、その効果と要件をまとめてみたい。

1. 効果

後述する各種要件を満たすことで、当該企業が社外高度人材に発行するストックオプションについて、税制適格ストックオプションと同様の税制優遇を受けることができる

すなわち、
① 通常のストックオプションの場合、権利行使により株式を取得した時点において、収益が認識され、給与所得等として課税の対象となるが、税制優遇により、これが繰り延べられる(すなわち行使時点では、非課税)
② 通常のストックオプションの場合、株式譲渡時には、「譲渡収入-行使時の株式時価」について、譲渡所得として課税されるが、税制優遇措置が適用になる場合は「譲渡収入―行使価格」について、譲渡所得として課税されることになる。

このように、税制優遇を受けられた場合、譲渡時における課税額は税制非優遇に比べて高くなる可能性はあるも、権利行使時、すなわち「まだキャッシュ化していない段階」における課税を繰り延べることができる、という大きな特長がある。

2. 要件

それでは、社外人材がこのような税制優遇を受けるための要件について見ていきたい。

(1) 企業が、経産省の定める「社外高度人材活用新事業分野開拓計画(以下「本制度」)の認定」を受けること。

ここにいう、「社外高度人材活用新事業分野開拓」とは、「新規中小企業者等」が、新事業活動に係る「投資及び指導」を新規中小企業者等に対して行うことを業とする者(省令での指定あり)から投資及び指導を受け、「社外高度人材」を活用して、新事業活動を行うことにより、新たな事業分野の開拓を図ることをいう、とされている(改正中小企業等経営強化法第2条第8項)。

社外人材に対するストックオプションについて、上記のような税制優遇を適用するためには、発行する企業において、本制度についての認定を受けなければならない。
以下では、認定を受けるための要件について、それぞれ確認しておこう。
なお、各要件ともに、そのすべてをこの中で記載するのは叶わないほどに細かく規定されているため、制度の概要把握というこの記事の趣旨から、若干抽象化して記載する。

① 認定を受けられる主体

認定を受けられる主体は、法文上「新規中小企業者等」とされている。
これに何が含まれるか、については、以下のとおり。

・ 以下の区分のうちのいずれかに該当すること。

・ 設立から一定期間(5年、10年のバー)が経過していないこと
・ VC又はCVCから資金調達を受けていること
・ 最初にVC又はCVCから出資を受けた際の資本金額が、5億円未満、かつ常勤従業員の数が900人以下であったこと

これらの要件を見るに、おそらく、スタートアップの多くは、業種としては「サービス業」に該当するのではないかと思われる。


そうすると、資本金要件として5000万円以下、という要件が課せられることになるが、設立時資本金を考慮すると、1億円の資金調達をした段階ですでにこの要件を満たさないことになる。

したがって、この認定を受けようとすれば、創業から、遅くともシリーズA前までには、手続を行う必要があろう。

② 社外高度人材の範囲

こちらも、施行規則により細かく規定されているが、主に利用用途が高そうな人材は以下のとおり。


・ 国家資格を有し、3年以上の実務経験がある者
・ 博士の学位を有し、研究等に関する3年以上の実務経験がある者
・ 上場会社の役員として3年以上の実務経験がある者
・ 高度専門職の在留資格により在留し、3年以上の実務経験がある者

これにより、例えば、
・弁護士、社労士、司法書士、といった資格に基づくアドバイザーや、
・大手企業の元役員といった戦略アドバイザー
などをメンターや顧問に据える場合の報酬として、この税制優遇措置を利用することが可能となる。

なお、この社外高度人材は、その要件から個人を想定していると思われるため、法人に対する交付は、適用対象外と考えられる。

③ 認定申請のための各種書類の提出

本制度の認定を受けるためには、そのための申請書を提出する必要がある。
詳細は、経産省の資料に譲るとし、本稿では割愛するが、内容としてもかなり細かい記載が要求されるほか、添付書類も、社外高度人材から提供を受ける必要があるものもある。

このように書類作成や書類集めにハイカロリーを要することから、できれば初期に、済ませておくことが望ましいのだろうとは思う。


ただ一方で、弁護士や社労士などの外部アドバイザーについては、企業が一定程度成長した段階で必要となるケースもあると思われる。


前記のとおり、資金調達との関係でのタイムリミットもあることから、多少工数はかかっても、集中して申請手続は済ませておきたい。

④ 認定後の手続

本制度の認定を受けた場合、制度活用期間中の事業年度終了後3か月以内に、主務大臣に報告を行わなければならない。
但しこの報告書も、フォーマットが用意されており、チェックボックスにチェックを入れるのみの仕様となっているため、特段手間ということではない。
問題は、簡素な手続きであるが故に、手続を失念してしまうことなので、スケジューラーにあらかじめ入れておくなど、工夫が必要となる。

(2) 発行するストックオプションについて、(人材要件以外の)税制適格要件を満たすこと。

この点は、看過してはならない要件である。
あくまで本制度によって、税制適格ストックオプションの発行対象が広がったにすぎず、それ以外の要件は緩和されていないので、注意が必要である。

3. 雑感

このように、ストックオプションによる報酬支払の可能性が広がったことには一定の価値があると思われる。
アドバイザーとしても、ストックオプションと顧問料をセットにすることで、スタートアップ支援においても経済合理性のとれた業務を提供することができるようになるかもしれない。
一方で、あくまで個人に対する報酬支払としての利用が想定されているため、法人単位でのアドバイザリー業務には利用ができない(もしくは個人に交付されたストックオプションを法人に還元する工夫をする必要がある)という使い勝手の悪さはあるのかもしれない。

<参考資料>

経済産業省「社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大」

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