「吼える」#020
5/12にABCホールにて舞台「吼える」大千穐楽を観劇してきたので、感想などをつらつらと。
余談から始まりますが、スタッフさんが開演前に出てきて、客席のお客さんと同タイミングで電源を切る試みがありました。大事なシーンで携帯が鳴ることが続いたことによる措置らしく、本来はない方がいいのですが、これくらいのやり方でもアリだと思いました。謎の連帯感生まれるし。
この舞台はシージャックを舞台に、命の大切さを伝えるメッセージがあったと思います。病気で余命が残り少ない瀬美が、自らの命を削ってまで、自殺サイトで集まった死にたい乗客(1人は例外ですが)に、生きることの大切さを伝えます。
ABCホールはキャパが300ほどのホールで舞台との距離も近く、かつ先行で取ったチケットが前から二列目のど真ん中。なので演者さんの表情だとか、アドリブ部分だとか、細かいところまでしっかり見ることが出来ましたし、演者さんの「生の音」をより感じることが出来たと思います。舞台装置はサムネの写真の通りです。(珍しいですが、終演後の撮影許可とSNSアップ許可がアナウンスされました)
初めにスクリーンに映像が流れるのですが、これが後の回想シーンに繋がります。瀬美が真心を抱きしめるも姿が消え、シャボン玉が飛んでいく。ちなみに回想シーンではシャボン玉が実際に放たれ、客席までシャボン玉が飛んできました。舞台は実際の時の流れに、瀬美の真心とのやり取り(回想シーン)、及び乗客の過去の回想シーンを挟みつつ進行します。
まずはシージャック開始のシーン。もちろん真の目的を漏らさぬまま舞台は進行するのですが、SEであってもガンの音はビックリしますね(笑)乗客及び船員が人質として座らされ、恐怖に震えているシーン、とても生々しくて最初から印象に残っています。途中何かとつけて部屋の乗客(男)が服を脱ぐシーンがあるのですが、船長(制服)と亀和(ピンクのワンピース?女の子の服)を交換するシーンがスポットライトが当たっていない部分も含めてめっちゃツボでした。もちろん下着はつけてるけど、ほんとに服脱いで交換してるんですよ(笑)んで様子を見に部屋を覗きに来られて、各々脱いでる状況が見つかるという。あと、船長に代わり船を操縦している塩見が戻ってきた際のやり取りもアドリブ含めて面白かったです。そして弍汰璃(ニタリ)の発した「クジラになりたい」の言葉から、展開は大きく動き出します。
弍汰璃は真心のお兄ちゃんだったことが明らかになり、その後回想シーンが本格的に始まります。瀬美と真心は同じ病院の患者でした。真心は耳を含めて体の機能が低下しており、その為「海」を歌うも音程が上手く合っていません。バンドをやっていた瀬美はメンバーを巻き込み、真心に歌を教えることになります。手話やジェスチャーを混じえて真心と会話をする内に二人の距離は縮まっていきます。結婚を申し込み、新婚旅行の話をするも、真心は瀬美が余命あと少しなことを出会う前から知っていました。瀬美が死ぬのは耐えられない真心は「クジラだったら長生き出来たのに」「クジラになりたい」と言い、瀬美は真心に自傷行為をしないで欲しい、生きていて欲しいと伝え、ミサンガを渡します。しかし、真心は首を吊って自ら命を絶ってしまいます。このシーン、真心役の能條さんは話し方や手話やジェスチャーも含め、かなり難しい役どころだったと思います。最後に瀬見に「ありがとう」と伝えるシーン、「バイバイ、またね」と言うシーン、心がキュッとなりました。クジラになりたい、フェリークジラ、クジラの歌、そして舞台の名前「吼える」(=Whale)、真心の言葉につながっていたわけです。1度目のクジラの歌はお酒の場だったこともあり明るめでしたが、この回想を経て聞く2度目のクジラの歌は、とても切なく感じました。
ついに三日目を迎え、乗客達は1列に並べられ、発砲までのカウントダウンが始まります。心臓の音を自分で聞き、「死にたくない」と声が漏れる乗客達。銃声が鳴り響くも、乗客達は生きていました。本当は命の大切さを伝えるために、船長含めてシージャックの振りをしていた訳です。しかし本当に死にたかった鯱は殺してくれと懇願。弍汰璃から貰ったガムのくじが当たりだったら考え直してくれとルカが懇願するも、二人分ともハズレ。しかし、弍汰璃の「ハズレを二本持って言ったら甘いお菓子と交換できる駄菓子屋を二人で始めなさい」という言葉により何とか踏みとどまります。そして瀬美は最初に監禁した女がいると言ったのは嘘であり、真心の形見のミサンガを連れてきたのです。そして重い病であることを告白し、最後のメッセージを伝えます。
この最後のメッセージ、瀬美の長ゼリフは台本でもおおよそ2ページ分もあり、集中を切らさず熱を持って想いを伝え続けた瀬美役の清水一輝さんは本当にすごかったし、一気に引き込まれました。同じように苦しんでいる人を言葉ではなく公道で助けてあげてくれ、自分を大切にしてくれ、目の前で想いを伝える生の音に敏感になってくれ、それを噛み締めて自分のペースで生きてみてくれ、というメッセージが込められていましたが、清水さん自身の舞台という生の音を通じて伝えたかった想い、メッセージでもあったと思います。公演当日が母の日でもあったのもあるし、僕自身生きる意味ってなんだろうって思った経験もあるので、ここの長ゼリフの内容がより一層染みましたね。最後のクジラの鳴き声が「カナサンドー(愛している)」と言っているのではとなるシーン、そして真心とのシーン、涙無しでは見られませんでした。
キャストさんに言葉を伝えるとすれば、清水さん、この題材を届けてくれてありがとう。カテコでも言ってましたが、大阪駅付近で飛び降り自殺が起きた後だけに、より強い思いでこの作品を届けてくれたと思います。能條さん、難しい役どころ、しっかり演じ切っていてすごかった。カテコで挨拶振られて慌ててお、OKという感じ、しっかり能條さんに戻ってて安心しました(笑)崎本さん、めっちゃイケメンでした。田野さん、冷静な演技ぶりが良かったです。宮下さん、ギターすごく上手でした。cheluさん、瀬見に寄り添う優しい感じ、すごく伝わりました。三浦さん、マジモンのそっち系の香りがしたけど、その中にある優しさも伝わりました。寒川さん、めちゃくちゃ綺麗だった。堤さん、女装のめっちゃ笑いました。垣さん、引き下がるところの演技がよかったです。木村さん、カテコの涙が印象に残っています、あとめっちゃかわいい。北出さん、船長ぶるシーンめっちゃ面白かったです。楠さん、マジでお人形さんみたいでした。松田さん、新里さんとの掛け合いのシーン、テンポが良くて良かったです。新里さん、あの沖縄弁の感じ、めっちゃ好きです。
こうやってレポート書いてますけど、やっぱり全て感じたことを説明するのは難しいし、生で見ないと伝わらないことって沢山あると思うんです。一つの作品でも、人によって感じることは違うし、今の時代ライブビューイングも生配信もありますが、やっぱりチケット取って客席で、自分の目で直接、生の芝居を、生の熱を、生の音を感じて欲しいなと、それに勝るものは無いなと思います。是非、劇場に行って、肌で感じてみませんか。
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