あの時に戻ってハグをさせて
恋人ではない。
いわゆる仕事先の人。
同い年の男の子。
明るくみえたし、とても社交的にみえた彼。
フットサルが得意で、キャンプも好きだと言っていた。
とても綺麗な字を書いた。
いつでもとびきりの笑顔で接してくれた。
仕入れに来る私たちにとても好意的だった。
ある日。
なかなかタイミングが合わなくて、その日は久し振りに会うことができた。
沢山の人がいる、その会社の大きな部屋の中に入ると
ちょっと離れた場所に彼の姿があった。
私たちが目に入った途端、彼の顔にはいつものように笑顔が溢れ、
両手をいっぱいに広げ、少しずつ歩み寄ってきてくれた。
ん?あ、ハグか。
え?ここで?
んーーーーーっ
一瞬でそう思ってしまった。
きっと一瞬、顔にも出ていたのだろう。
彼の両手は降ろされた。
本当は嬉しかった。
私もハグしたかった。
でも周りの目が気になって出来なかった。意気地なし。
その後、彼が実はそんなに明るい性格でもなく、
その会社にめちゃめちゃ溶け込んでいるようでもなかったことを知る。
ある時、会社の駐車場の車の中で、お昼ご飯を食べていた彼を見かけた。
声を掛けて話をしてみると「ここにいると落ち着く」と言っていた。
意外だった。
いつも笑顔を絶やさない、どちらかというと陽の人だと思っていたから。
私はずっと後悔している。
あの時に戻れるなら間違いなくハグをしたい。
同じくらい、180度両手を広げてしっかりとハグしたい。
恋人ではない。恋愛対象でもない。
それでもその気持ちと好意を私が無いことにした。ごめんなさい。
もし、未だに私はひっそりと祈っているのだけれど
もし、また会うことができたら
今度は私が同じことをして彼を迎えよう。
笑顔で両手を広げて、ハグをしよう、最上級の。
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