無題
最初に。長いです。
そして結末はありません。
こういうのに名前を付けられないので
なんて言っていいか分かりませんが
とにかく最初にごめんなさい。
男 ジュン
女 カナコ
男 サトシ
◇ ジュン
カナコと出逢って1年。僕が数日で辞めたバイト先にいた同じ歳の彼女とは、なぜかバイトを辞めても電話をしたり飲みにいったりしていた。カナコはバイト先ではリーダー的存在で、いつもテキパキと仕事をこなしていた。元々「できる女子」感の強い女子は苦手だったけど、カナコには他の人をあたたかく包み込む才能があって、他人のどんなミスにも笑顔で対処し、その人がその場にいてもいいと思える空間を作る天才だった。そんなカナコとこんな関係になるなんて、、、いや、なるべくしてなった。この世界で意味のないものなんて実のところ無いのだと思う。大袈裟な気持ちじゃなく、そう思うけど。
◇ カナコ
ジュンはバイト先では「 やる気のない男 」だった。入ってきて早々「僕は辞めるかもしれないな」と言われた時、やっぱりなと思った。仕事ができないわけじゃないのに必要最低限しかそれをしない。もっともっと という欲がない。正直、何を考えているのか分からない人。そう思っていたのに、なぜかいつの間にかこんな関係になっている。きっとどちらも最初は「嫌いじゃない程度」だったんだと思うけど、きっと私の方が先にどんどん彼にハマっていった。
◇ サトシ
人間関係が面倒くさくて、基本的に誰とも一緒にいたいと思っていない。もう自分は一生そうなんだろうと、それが悲しくも寂しくもなく、夏に泣き喚く蝉の方がまだ必死に生を全うしてるなと思うほどに、自分とは違う生き物たちをみても何も思わない程に生きている。感情がないと言われ、他人がそう思うならそうなのだろうと敢えて否定もせずにここまでとりあえず生きている。
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◇ ジュン
カナコと付き合うようになって、いつもと違う自分がいることに気がついた10月の夜。喫茶店のバイトを辞めてからも転々と仕事を変え、今の仕事に落ち着いたのは梅雨の時期だった。この仕事は意外にも嫌いじゃなく、頼まれた事を頼まれた様にやるだけで「助かった、ありがとう」と言ってもらえるから僕には向いている気がする。お前が福祉の仕事につくなんてと周りは驚いているけれど、実は自分が1番驚いている。人ってわからないもんだよなと他人事のように自分を見つめる。カナコの仕事の時間と僕の仕事の時間が余りにもすれ違いを生み、一緒に暮らそうかという話が出てきた。どうだろ、どうかな。自分でも正直分からない。自分のテリトリーのバランスを崩したくない気持ちが強い僕は今はまだそんな気持ちになれないのが正直なところ。
◇ カナコ
ジュンはここんとこ、福祉の仕事を続けてる。私は相変わらず喫茶店で忙しく働いている。リーダーとして認めてもらえて来年からは社員になることが決まった。元々接客業は好きだし、なにより将来は自分でお店を出したいなと思っているから、もっともっと経験を積みたいと思ってる。ジュンとのすれ違いが多い日々に彼はなんにも言わないから私の方から一緒に住まないかと誘った。一瞬顔が曇った様な気がしたけど、彼は「それもいいね」と言ったから、私は部屋探しの最中だ。結婚するかどうかは分からないけれど、そんな未来もあるかもなと思いながら。
◇ サトシ
ジュンと知り合ったのは3年前。6歳年下のジュンは臨時のバイトとして短期間一緒に働いた。グラフィックデザイナーという仕事に興味はなさそうだったが、必要以上にプライベートに入ってこないし余計な話はしないので、とても気に入っていた。誰かと一緒の空間にいて面倒に思うことも気にすることもなくいられたのは久しぶりの感覚で、自分としてはとても楽だった。ジュンのバイトの最終日に初めて2人で飲みに行った。相変わらず話は弾まなかったけれど帰り際に奴から「また行ってもいいですか?」と言われて断らなかった自分が不思議だ。そこから雇い主とバイトという関係から、俺とジュンという関係になった。
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◇ ジュン
カナコが嫌いなわけじゃない。カナコは好きだ。でも僕はサトシさん、、、そう、サトシさんも好きだ。好きという気持ちって1つじゃなきゃダメだって誰が決めたんだろう。なぜ僕の住む世界ではそうなっているのだろう。男と女がいて、なぜこんな縛りがあるのだろう。この縛りの中に縛りきることができない自分の気持ちはどうしたらいいのか、誰も教えてくれない。性とかセックスとかそんなものでしか語られない。愛とか恋とか家族とか恋人とか、一体それを誰が決めて誰が正しくて誰が間違ってて、、、体の関係?心が繋がっている?分からない、答えなんてないんだよ、そもそも僕の中に。なのに勝手に決まった「正解」が存在する。「いいんだよ、好きに生きて」という人もいる。そんな言葉じゃ救われない。救いが欲しいのか、僕は。それすらも分からない、今は。
◇ カナコ
1人のベットは冷たすぎて自分の体温では温められない。そんな時に誰かいたらと思う私は甘えてるの?何に?
ジュンに言われた。「カナコが好きだよ、でも・・・」え?でも・・・って?初めてサトシさんの名前が出た。なに?なんなのこれ?え?どういうこと?ジュンの吐露。聞きたくなかった。聞きたくなかったけど、知らないままでは何も進まないことに気がつくまでに3日以上掛かった。私とセックスできるのに?私とあんなキスもできるのに?ああ、いわゆるバイセクシャルってこと?じゃあ私でもいいんじゃないの?私を選べばいいんじゃないの?それならサトシさんを辞めて私の物だけになればいいんじゃないの?だって、どっちでもいいんでしょ?私のこと、好きなんでしょ?愛してるって、、、そうね、あなたは愛してるって言葉は使わないね。絶対に言わない。サトシさんには言うの?言わないんだ、、、じゃあどっちか選べっていったらどうするの?分からない、、、分からないって、貴方の気持ちを聞いてるんでしょ!私は別れない、私を嫌いだと言わない貴方とは絶対に別れない!
◇ サトシ
ジュンに彼女ができた。うん、良いんじゃないかと俺は言った。本心かと聞かれれば本心だ。でも、、、そう、でも。俺はジュンが好きだ。きっと男とか女とかじゃなく、人としてジュンが好きなんだと思う。愛おしく思う。大切に思う。守ってあげたいとも、幸せになって欲しいとも思う。一緒にいて、とても自然体でいられて、そんな時の自分の事も好きでいられる。もしそういう感情を「愛」と呼ぶならば、俺はジュンを愛しているのだと思う。愛がないセックスとか愛のあるセックスとか、いちいちそれに定義を唱えなくても俺はそれでいい。大事なのは自分が今、誰と繋がりたいか だから。それでも何故未来を考えて生きなくてはいけないのか。この先の話をしなくてはいけないのか。今が続けばいい、、、そう思うのは間違っているのか。
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◇ ジュン
カナコに今の自分の気持ちを伝えた。予想通り大喧嘩になった。大事に思う気持ちだけじゃダメなのか。親もカナコも友達も「お前が変わってくれれば」って思ってるけど、なんでそっちが変わらないんだよ。僕だって誰かを悲しませたいわけじゃない。辛いよ、そんなふうに思われていることも、カナコや母親に泣かれることも。お前たちはいつもそうやって自分と同じにしようとするけれど、じゃあ僕が変わったとして、お前らが望む僕になったとして、それで僕が泣くことは気にしないのかよ。なぁ、教えてくれよ。消えたくなるんだよ、こういうことが続くと。もういいやって思うんだよ。誰にも泣いて欲しくないなんて、無理な話なのか。
◇ カナコ
もうどうしたらいいのか分からない。ジュンはどうしたいわけ?私の気持ちは決まってる。愛されている自覚はある。でも、え?これって愛されているの?サトシさんとは体の関係だけじゃないとジュンは言うけど、私ともそうだと言ってた。これってどういうこと?私とサトシさんとでジュンをシェアすれば、誰も悲しまないのかな?そうなのかな?でも私は、、、私は嫌だ。自分だけをみて欲しい。結婚は?子供は?将来はどうなる?どんな未来が待ってるの?
◇ サトシ
俺と別れて彼女の元に行けよとジュンに言おうとしたけれど、言えなかった。なぜ言えないんだろう。これから俺はどうするのだろう。面倒に思う前に去ろうか。あんなに穏やかな日を俺は忘れることができるのか?後悔はしないのか?今思うように動いたところで、その後に上手くいくとも限らない。ジュンの気持ちが半分半分なら、その結果だって半分半分だ。ならジュンが決めればいい、、、って1番苦しい選択をアイツだけに委ねて、俺は卑怯なのか。どうなのか。羨ましいよ、全ての人に祝福を受け、たった1人を愛し続けることができる人が。そこに惰性はないのか。後悔はないのか。
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誰も悪くなくて、でも誰も泣かない結果って難しい。自分の気持ちと相手の想いと他の人の考えと、全部並べたら何も選べない。その中で「自分は自分」と自分の気持ちを最上級にする人、出来る人と、そうじゃない人がいて、また長い年月を過ぎてみたら何が正解だったかなんて結局分からない。今は良くても後で後悔したり、逆に自分の意に沿わない結果でも後であれでよかったと思えたり。泣いたり悔しがったりすることを「そういう行為は嫌い」と思って、ある意味で自分と向き合うのを避けることが間違いなわけでもない。
分かって欲しいと望むことは傲慢なのか。分からないことを分かったというのは嘘つきなのか。どこまでが「相手を想う」でどこまで自分を通していいのか。
でも、それでも人は「正解を探す」。
誰にとって?自分にとって。「自分」だけじゃない、「周りも含む自分」にとって。
ワタシはいつも「正解」を探したい傾向がある。でも見つからない時がある。沢山ある。モヤモヤっと終わるよりも、ハッキリと形が見えていた方が安心する。ただそれが正しいことだと思っているわけじゃない。
ドラマでも小説でも文章でも、見て、読んで、グググゥーーーと自分の周りの照明が一瞬消えて真っ暗になるような気持ちになるもの。それでもそれを見たくて読みたくて、何か「答え」を見つけたくなる。でも見つからない。例えば「私を離さないで」というドラマ。見ることが苦しいのに見た。忘れられないシーンもある。でも最後まであのドラマの意味が分からなかった。「永遠の仔」というドラマ。どちらもどこまでも救いがない。救いがないのは辛すぎる。
でもそこに少しだけ私にも見える「美しいもの」の正体はなんだろう?
小説を書きたかったわけでもなくて、そもそも人様に見せるレベルのものじゃないことは重々承知の上で書いた。3人それぞれの違う気持ちと想いと、そんな中でも共通する何か。綺麗な話じゃなくて、リアルにある話。今年に入って何ヶ月も感じていたことをここ1週間くらい、少しずつ書いてみたけれど、やっぱり中途半端だな。