ひとりのサポーターが生まれた名も無き一夜~ウノゼロ流サッカー観戦記 2025年1月19日イングランド・プレミアリーグマンチェスターユナイテッド-ブライトン後半~

引き続き私の文章にお付き合いいただき感謝申し上げます。
いきなりで恐縮なのですが、「まだまだ文章読める体力あるよ~」という方は私が以前に書いたこちらの記事をお読みいただければと思います。もちろん読まなくても支障が出ない文章を綴ってはいきます。
https://note.com/attakc2niida8/n/n27183d65a5ab

上の記事ではフォーメーション論について語りましたが、いくら4バックが全盛を極めていたからといって3バックが完全無視されていたわけではありません。その証拠に4-4-2(4-2-2-2)が全盛の時代に突如彗星のごとく現れたアンチフットボールなフォーメーションが存在したからです。

それは長らくの間日本サッカーファンを楽しませてきた3-5-2(3-4-1-2)という布陣です。
別記事では書きませんでしたが実はこの布陣、4-2-2-2の対策として生まれてきたという経緯があります。

ここからは簡単な図解を入れます。4-2-2-2(〇)と3-4-1-2(×)を盤上で表記すると以下の通りになります。

〇  〇  〇  〇
   ×  ×
   〇  〇
     ×
〇        〇
×  ×  ×  ×
   〇  〇
  ×  ×  ×

ここで見てほしいのは守備においてのそれぞれの人員配置です。ディフェンスの基本は最終ラインは最低1枚は余らせること、つまりはCBは相手FWよりも1枚は多くあるべきという鉄則が存在します。
それは現代サッカーにおいて多少破られている感はあるものの、だからといって相手の3トップに対してこちらが2バックを敷くのは自殺行為だと思うのは当然の心理かと思います(余談ですが元日本代表監督のイビチャ・オシムは、中盤を制する者がゲームを制すの時代の残り香がまだあったこともあり、自身の『考えて走るサッカー』の極限化として2-6-2(2-4-2-2)という2バックを敷いていたことはありました。これは大雑把に言えば中盤の6枚がとにかく動きまくることでスペースを埋め相手に優位を取り、DFの少なさを感じさせないとする未完の戦術ですが詳しいことはまたいずれか……)。

そういう意味において3-4-1-2は4-2-2-2に優位です。なぜなら相手の2CBにこちらは2CFを当てたうえで、こちらの3CBは相手の2CFを抑えられるからです。それに加えて相手の2DHをトップ下で牽制しつつ、こちらは相手の空白である2DHが自由にゲームを組み立てられるというおまけ付き。
それはこの時点では完全に余りものポジションのSBが攻撃参加するという革命によって立場が逆転するわけですが、3-4-1-2の出現は現代においても最も安定した布陣の4-2-2-2を大いに揺るがす大事件でした。

話は2025年に戻り、この試合の布陣を図で振り返っていきます(ユナイテッド→〇 ブライトン→×)。

基本は
   〇 〇 〇
     ×
〇  〇  〇  〇
×     ×     ×
   〇  〇
   ×  ×
     〇
×  ×  ×  ×
の布陣ですね(ユナイテッド3-4-2-1 ブライトン4-2-3-1)。ただしこれがお互い守備をする際には
〇  〇 〇 〇  〇
   ×  ×
   〇  〇
×        ×
〇        〇
   ×  ×
       〇
×  ×  ×  ×
のユナイテッド5-2-2-1 ブライトン4-2-2-2となっていました。

私の文章を詳しく読んでくださってる方ならこう思うかもしれません。「こうなったら布陣上はユナイテッドのほうが有利だ! この試合はユナイテッドが支配する!」と。ところがどっこい、そうはならないのがサッカーという世界一の競技人口を誇るスポーツの魅力なのです。
この試合の敗者となったユナイテッドに欠けていたもの。それは『何が何でも勝ちたいと思う強い気持ち』だったと思います。そのプロとして最低限のものが足りない様はプレーにも見て取れました。

私が注目したのは後半1分の三笘のプレーです。ここで三笘は右サイドから流れてきたボールに対してクサビを受けたかのような落としを見せました。

普通LWGの三笘なら、クサビは2トップ気味に動いているウェルベックかジョアン・ペドロに任せて自身はサイドから切り裂く役目に徹するのがセオリーです。ところがこの試合はこのように不思議なシーンが多々見られました。その鍵を紐解くのが『勝ちたいと思う気持ち』だと思うのです。

結論から言いましょう。三笘がこのように中に絞れたのを戦術的に言えば、『ユナイテッドのDHの守備意識が甘いのとWBの攻撃意識が足りていなかったミスマッチが起きていたから』となるでしょうか。しつこいですが〇×を使った図解を。

三笘の侵入を理論上の図解をすれば
   〇 〇 〇
     ×
〇  ×   〇  〇
  〇  ×   ×
   〇  〇
   ×  ×
     〇
×  ×  ×  ×
となります(本来なら〇が4つ並んでいるところに侵入している×が三笘)。この試合だけで判断するわけにはいかないですが、ユナイテッドは「俺たちは鉄壁の5バックで守ることができる。ならば守備はDFに任せて中盤は高い位置を取ろう。同時に最終ラインも高く敷き、それで生まれたコンパクトな布陣の中にCBの攻撃参加をもって鉄壁の守備と効果力を両立しよう」というコンセプトだったのかもしれません。
私はこれを面白いとは思うのですが、大事なところが一点抜けています。もうひとつの守備の大原則な『バイタルエリアのケア』です。

バイタルエリアとはあくまでも概念なので世界全体の意見一致は得られないのですが、『CBとDHの間の長方形なエリア』と思ってもらっていいかと思います。そこで自由にプレーするというのは現代サッカーの攻撃においては最重要課題なのです。
その証拠にバイタルエリアを一枚抜けたら相手ゴール前にはGKしかいません。真ん中というボールを自由自在に出せる位置ですからここからボールを出されると致命傷にも繋がります。サッカーを一言で表せば『11人対11人で行う陣取り合戦』と表現できますが、その要石が常に眠る位置こそバイタルエリアなのです。

以上を踏まえればユナイテッドが異常であることは明白です。要は「DFだけで守ってやるよ。バイタル? そんなの相手にくれてやる」と言ってるようなものですから。実際にはこんなに単純な話ではなく、5バックを3+2の二重構造気味にするというアイデアも散見されましたが、この試合においては三笘薫というアジア最高のウインガーとガンビアの若き才能、ヤンクバ・ミンテが相手の+2をサイドに張り付かせる意識づけをさせつつ、+2がいなくなったスペースに自由に侵入してユナイテッドのDFを混乱させていました。

ユナイテッドが冷や汗をかくシーンが後半早々訪れます。ジョアン・ペドロの幻のゴールです。
このシーンに繋がるウェルベックへのファールを見ればわかりますが、ユナイテッドは少々安易にバイタルへ侵入させてしまう悪癖がこの試合は多く見られました。
ウェルベックの進入時には5-2-2-1で守れているなど枚数自体は足りているのですが、なんというか勝利への執念が薄いのかユナイテッドの守備は怠慢さが目立っていた。だからウェルベックがボールを受けるのを易々と許すし、ここでのユナイテッドのRDH(ウガルテ)は背負うものが無いのにウェルベックに抜かれるのを見越すポジショニングが少々甘い。

これは元日本代表の内田篤人さんが口を酸っぱくして言ってることですが、「最後は気持ち」らしいのです。内田さんが現時点でのシャルケの最後の輝きを見せていた時代の最強イレブンに名を連ね、ドイツ最強を本気で狙っていたことを考えるとその言葉は真実味があると私は思います。そういったユナイテッドの気持ちの弱さは本物の悲劇としてすぐに具現化します。三笘薫の日本人プレミア最多得点のメモリアルゴールです。
この場面の大前提として『ユナイテッドのDHがポジションを疎かにするから、ブライトンDHのアヤリが勇気をもって侵入した』ということは見逃せないかと思います。これはブライトン側のスカウティングあってのことです。

こういうシーンがとにかくこの試合は多かった。個人的な趣味の話にはなりますが、アヤリやバレバのような『剥がせるボランチ』というのに私は期待しています。
普通DH(ボランチ)というのはバイタルの門番ですから、ボールを持ちすぎると奪われてピンチを招くというのが通説です。なので一般的にはボランチの名前が連呼されている試合はそのチームはあまり良い状態ではないことが多いです(名前を呼ばれる=ボールを持っているため)。
ただし彼らがマラドーナやメッシまではいかなくとも、相手を1枚確実に剥がせる(抜ける)選手だとすれば。それは即ち相手バイタルの門をこじ開けることに繋がりうるわけですから確率が高いなら挑戦する価値はあるはずです。脱線してしまいましたがブライトンのDHが多く行っていることは実はこれでもあるのです。

ユナイテッドの門がガラガラということもあり(もちろんそれを招いたのはブライトンの努力もあってのこと)、ブライトンの守備時の中盤の4枚は自由にバイタルに入る権限を有していました。ユナイテッドは5-1-3-1という非常に気持ち悪い布陣に陥っていたのです。

そうなれば得点の香りがするのは圧倒的にブライトンです。三笘の執念が無事実り、ブライトンは勝ち越しに成功しました。
ただしここで終わらないのが今季のブライトンです。それは悪い意味で、今シーズンのブライトンはとにかく追いつかれて勝ち点を失う試合が多いということです。

それはこの日においては完全なる杞憂だったようです。その決定的瞬間が訪れた時も同じくフリーマンになったアヤリは、まずバイタルに侵入したうえで活躍の場を右サイドに定めました。
交代して入ってきたブライトンRWGのマーチが奪われる形には一旦なるのですが、すぐさまボールを奪ったブライトンは先ほどミスをした右サイドのマーチにボールを託します。

そのマーチが選択したのはDHというポジションながらRWGの位置を取っていたアヤリへのパスでした。これは切り抜き動画で見れば不思議な現象ではあるのですが、試合をじっくり見た人とこの文章をお読みの方ならその心配はいらないですね。アヤリは利き足の右足をゴール前に向かって振りぬくと、ブライトンにとってはラッキー、ユナイテッドにしてみれば悪夢な形のオナナのファンブルが生まれました。

このシーン、GKのオナナを悪く言うのは当然の心理かと思います。だって彼がボールをきちんと収めればこの失点はないわけですし、ボールもそこまで強烈ではなかったように見えますから。
ただし私に言わせてもらえばこのシーンを誘発したのも『ユナイテッドの勝ちたいと思う気持ちの弱さから生まれたDHの守備意識の甘さ』と言わざるを得ません。そもそもアヤリを封じてればオナナは仕事に立ち向かわなくてよかったのですからね。FT。ユナイテッド1-3ブライトン。

反省点ですが、ユナイテッドはまずは勝ちたいと思う気持ちを表現して誇りを取り戻すところ、からでしょうか。途中にアルゼンチンの期待の若手・ガルナチョをLWBという位置に置いて捨て身の攻撃を見せてきた努力は認めますが、代わりにDHを担ったブルーノ・フェルナンデスが当初はOHで使われていたことを考えると守備を大切にしたうえで世界的な才能を自由自在に弾けさせるべきと思います。

ブライトンは非常に素晴らしいゲームを見せてくれました。完璧な一日といっていいでしょう。
私が特筆したいプレーを戦術面含めて語らせてもらえば、ウェルベックに替わって入ってきたリュテルがゴールを決めるわけですが、ここではこの試合の幻のスコアラーでもあるジョアン・ペドロに預けて彼に魔法をかけさせてゴールを狙うという選択肢もありました。
リュテルもジョアン・ペドロも所謂ターゲットマンではないですが、彼らは180cm超えと空中戦を戦えないことはないサイズを持っています。そこに加わるは、185cmのスペックからは想像できないスピードをかつては誇ったイングランド代表幻の点取り屋にして空陸兼用のCF・ウェルベックです。

この試合の守備時のブライトンの布陣は4-4-2(4-2-2-2)とは前に言いましたが、へそ曲がりな私はこのありふれた布陣を甘く見ていたようです。「なにその古臭いやつ。イングランド人が勝手にやってればいいじゃん」そう思っていたところがあると素直に告白します。

ところがこの日ブライトンが見せた4-4-2は、サイドの優位を取れる3トップにして私の好む戦術のシャドーも完備、さらにはオシムが最後まで理想として私もロマンを持っている『動けるWタワー』という攻撃においての理想を全て持ち合わせたものでした。
それに加え守備でも4バックで蓋をしつつ、状況に合わせてバレバがCBの間に降りてきて疑似3バックを敷いたり、変化自在のSBが片方だけ偽SBを位置取った3バックないし2バックの一面も併せ持った、攻撃に主眼を置いた主体的な守備を敷いてるというのも私が心を奪われたポイントです。
私は21世紀を生きる身ですから、相手を待ち構えて跳ね返し続ければタナボタの神風が吹くという時代遅れはあまり好きではありません。私にとってウノゼロとは『意図をもって成し遂げる最高の芸術』なのです。

その芸術の一種の完成形を私はこの日のブライトンに見ました。今日の連続投稿の前書きでメンタルを崩したと書きましたが、この試合を見て倒れる以前以上の元気を得るために私は倒れたのだとさえ思えてきます。
私の好きな歌の歌詞を借りれば『はじめて ちゃんと言』いましょう。「私は2025年1月をもってブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンのサポーターになります」と。

このような決意を与えてくれた素敵な戦士をはじめとする、今日も素晴らしい試合を魅せてくれたフットボーラーに乾杯を! 今シーズン中にブライトンのユニフォームを絶対買うぞ!!

いいなと思ったら応援しよう!