ひとりのサポーターが生まれた名も無き一夜~ウノゼロ流サッカー観戦記 2025年1月19日イングランド・プレミアリーグマンチェスターユナイテッド-ブライトン戦前半~

こんばんは。昨年末に無事転職が決まり、これでやっと安定した収入と理想的な生活が手に入る! と思ったら、年末に体調を崩したところからずるずるとメンタルまで壊してしまい、只今絶賛休職中の新田河です(どうしてこうなった)。

さて、今日は昨晩行われましたマンチェスターユナイテッド-ブライトン戦を取り扱っていきます。
個人的にはこの試合、まだサポーターとして応援していないリーグながら、唯一生観戦したことのあるプレミアのクラブ(ユナイテッド)と今一番気になってるプレミアのクラブ(ブライトン)の一戦という俺得な試合だったわけですが、結論から先に言います。俺、今日からブライトンのサポーターになってもいいですか?!

フォーメーションから整理です。ユナイテッドは3-4-2-1という最近流行り気味の布陣。流石は世界的クラブということで各ポジションに世界一級の国の代表選手を揃えてきました。
それに対するブライトンは4-2-3-1といういろいろな使い方ができる便利な布陣。1トップにはかつてユナイテッドでプレーしたウェルベックがスタメン復帰してブーイングを受けまくるんだろうな……と心配しましたが、そうはならなかったところに安心して私はゲームを見始めました(笑)。

開始早々ゲームは動きます。中盤奥深くで持ったレフティーのバレバが前線左ハーフスペースにロングフィード。その先には相手WBが中途半端な動きをしていたのを見逃さなかった我らが日本代表・三笘薫が。見事なトラップから相手DFを置き去りにすると、GKと1対1になった状況から教科書通りのクロスを供給し、ミンテのゴールをお膳立てしました。最近は実力差が拮抗している両クラブの戦いで先制したのはイギリス南部のチームでした。

このシーンを細かく分析していきます。ユナイテッドはなぜ失点したのかという点から見ていこうと思うのですが、まずブライトンのバレバがボールを持ったところは合格点ではないものの赤点を付けるのも値しない、決して悪くないプレーでした。
ただし厳しいことを言わせてもらえば、プレミアという世界最高峰のリーグにおいて、全選手の気力体力が充実しているあの時間帯においてはやや持たせすぎな一面はあったかと思います。それこそバレバがかつてのイングランドの心臓であるスティーブン・ジェラードだったら、あのシーンは一目散にチェックに行かなくてはならないと全イギリス人は思うでしょうから。ただそれ以上に次のシーンが痛かった。

それはユナイテッドのRWBにしてモロッコ代表のサイドを締めるマズラウィの精彩を欠いたプレーでした。きっと彼は対峙する三笘をオフサイドを取れるとタカをくくっていたところはあったのかもしれません。その証拠に彼は所謂すっぽんマークのような動きはしていませんでした。
これはサッカーやフットサルをする人(特にサッカーで前線のプレーをする方)にはよく覚えていてほしいのですが、この時の三笘のような相手DFから一旦斜め後ろ向きに離れてから弧を描くように前線へ急加速する『衛星の動き』というものはアタッカーにとって非常に有効です。なぜならサッカーにおいてはオフサイド、フットサルにおいては狭いスペースを気にしながらボールを受ける際はああいう動きをすると面白い具合にボールをもらえるからです。今悩まれてるアタッカーの方は是非参考になさってください。

少々脱線しましたが、そういった王道にして有効なプレーを仕掛けられたとはいえ、マズラウィのディフェンスは評価に値しないプレーであることは間違いないことです。
それをするならもっとコミュニケーションを取ってオフサイドを狙いに行くなり、体をぶつけられる位置取りをしてプロフェッショナルファール(カード覚悟でファールすること)をしに行くという選択肢も取れるからです。
前半開始早々にプロフェッショナルファールをするのはかなり勇気のあることですが、ここウノゼロ流という『イタリアの基準でサッカーを語る場』においてはそういったプレーをするのは必要なことと私は思っています。とにもかくにもここで抜かれた時点でスピードと技術を持った三笘薫がボールホルダーなわけですから勝負はほぼ決まっていました。

もう一点。「なんで三笘はシュートを打たなかったの? 俺ならあそこ狙いに行くんだけどな」という方がいそうなので私の意見を言っておきます。
結論から言えば『ブライトンの一点目はブライトンというチームの歯車が完全に噛み合って生まれた、チームスポーツであるサッカーの良さが非常に良く詰まった素晴らしいゴールだから、そこは問題にしなくてもいいと思うよ』ということです。これについても解説を。

まず最初の起点がレフティーのバレバだったという点です。あそこが右利きの選手だったらああいった素晴らしいパスはまず生まれていませんでした。アマチュアから見ればそのような選手を用意できたという点がまずすごいことです(当然あの距離を完璧にコントロールできる彼の左足もすごいのですが)。

それを受けた三笘の技術も素晴らしかった。三笘が右利きなのは皆さん周知の事実かと思いますが、普通ボールホルダーというのは相手DFより離れた位置の足を使うべきものなのです。
それを三笘薫という選手はどんな状況においても右足に拘り続け結果を出すという、なかなかにスペシャルな男というのはもっと知られてもいいのではないでしょうか。実際日本で子どもをサッカースクールに通わせると、両足を使えるようになることと相手が飛び込めない位置でプレーすることは口酸っぱく教え込まれます。それが常識の日本において育った元サッカー少年が、右利きの左ウインガーという肩書で右足ばかり使って世界の舞台で結果を出し続けるのは20年前の日本ではまず考えられなかったことです。
世界の常識はそうではないとはいえ、今後も三笘のような素晴らしい日本人を出し続けるという意味では日本のサッカー指導者たちはここ数年で自身の知識をブラッシュアップし続けないといけないのではないか、と思わせるくらいにスペシャルなトラップを三笘は聖地オールド・トラッフォードで魅せつけました。

さて、問題のシーンです。「何故三笘薫はシュートを打たなかったのか」。
これは完全に『三笘薫が自身をフィニッシャーだと思っていないから』に尽きると思います。言葉で言えばそれだけですが、それがブライトンの素晴らしさにどう繋がるのか、もう少々お時間をください。

あのシーンはトラップが決まった時点でハイになるわけですから、調子に乗った選手が「俺はフィニッシャーじゃないけどあれ、今日イケるんじゃね?」と思うことも容易に想像できます。
それが良くも悪くもなるのは残酷ながら結果論でしかないわけですが、三笘は打たないことを選択しました。よく見ればわかりますが、生粋の点取り屋でない選手があのシーンを決めるのは決して容易ではないですからね。そのくらいユナイテッドGKのオナナは素晴らしいプレーを披露していました。

突っ込んできたミンテが足が早めのウインガーだったのも結果的には好材料でした。ユナイテッドのDFはついていけなかったのですから。ただしあのシーンは同時にオフサイドの不安もあったという事実を忘れてはいけません。

「じゃあミンテが気を使って減速すればいいじゃん」。そういう声も聞こえてきそうです。私には判別できませんが、実際ミンテは自身のスプリントを多少は調整したものと思います。
ただあそこで①早く行きすぎる前提で最後オフサイドを気にしてブレーキをかける ②そのまま突っ込んだほうがいいシュートを打てるから最高速度で飛ばす ③オフサイドが気になるからはじめチョロチョロ中パッパで急加速する という選択肢を取ったのならば先制点は幻のものとなっていたでしょう。ミンテは最高のスプリントをしたから最後余裕をもってフィニッシュできたのです。

それに加えCFのウェルベックが後ろ目にポジションを取っていたことで両ウイングが入ってこれるスペースが最前線に空いていた、という事実も見逃せません。見方によってはユナイテッドはこんなにも素晴らしいベテランの選手を彼の若き時に手放したのが仇となって帰ってきた、と見ることもできるでしょうか(苦笑)。私の知り合いが「ウェルベックはみんなを見守るイケおじだから推せる」と言っていますが、あそこで無暗に動かないウェルベックのプレーというのも素人目線から見ればなかなかにすごいことなんですよね、実は。そのような点を決める人とお膳立てする人が共存した、チームとしての素晴らしさが詰まった先制点をブライトンは挙げました。

ただしユナイテッドも指をくわえながら黙りこくっていたわけではありません。いくらホームでこの相手に2連敗中とはいえ、これ以上は負けられない元王者は反撃の時を見計らっていました。それが前半20分になろうかというところでひとつの頂点を迎えます。

あのシーンを振り返れば、流れはユナイテッド側にあったのでああいうイレギュラーなPKを獲得するというのも十分想定できました。話は若干変わって私はウノゼロ(イタリア語で1-0のこと)が理想のスコアとイタリア人共々主張していますが、これは理想主義者的側面とマゾヒストな一面を持ち合わせていると告白すべきなのかもしれません。
なぜなら現代サッカーにおいて、アンタッチャブルで起こりうる不慮の失点を想定したうえでゲームを進めないチームには勝利は遠いものになってしまうからです。
現代サッカーのチームが毎試合勝ち点3を積み重ねるには、最低1点は失うこと前提で2点以上積めるチーム作りをしないと安定したチームは作れないでしょう。それがこの試合の前半20分に起きました。

実はこれ、私としては「このレフェリーは笛を吹かないからこういうシーンは遠かれ近かれ起こりうるな」と前半10分の時点で予測はしていました。もしこの試合のレフェリーが止まるごとに笛を吹く人だったなら、試合はもっとプツプツと止まったつまらないものとなっていたでしょう。
それを面白いゲームに変えたのはひとえにこの審判のおかげもあってのことだと思うのですが、そんなおおらかな男でも先制点の起点になったバレバのプレーは見逃せないものだったようです。

このシーンをバレバ本人のせいだけにするべきかどうか。これについて私の意見は『智者ユナイテッドがバレバのプレーを誘発した、非常に賢く素晴らしい一連の動きだった』と評価します。解説を。

まずこのシーンはユナイテッドが攻め込んでいたところをデリフトのパスミスからボールロストしたところからはじまります。これを嘆いたユナイテッドサポーターは多かったものと存じます。
デリフトはCBの一角ですから、彼が相手陣内とはいえボールを失ったことはユナイテッドが勝負を決められてしまうことに繋がってもおかしくはないはずです。もちろんそれをさせないためのマネジメントをユナイテッドはするわけですが、個人的には相手をスカウティングしきっての反撃に持ち込んだのは流石は世界一流のリーグの試合だなぁと思わずにはいられませんでした。

それはブライトンのLSB・エストゥピニャンを『ハメる』動きをしたことからも明らかです。あのシーン、ユナイテッドはエストゥピニャンまで持たせることを計画していた動きを見せました。
エストゥピニャンはご存じの通り左利きの選手です。左利きというのは希少な選手ですから、彼や彼女が活きるポジションを用意されることが多いのですが、逆に言えばそれは左利きを矯正しなくても良いという状況を生み出すことに繋がっています。
恥ずかしながら私はエストゥピニャンという選手をカタールW杯のオープニングマッチで初めて知りました。そこでカタールの鉄壁の5-3-2に穴を開けるプレーをしたクレバーな男、という目で見ており大変尊敬しているのですが、その素晴らしい左足はこの日は失点の一因となってしまいました。

ユナイテッドはエストゥピニャンにボールを持たせたうえで、彼が左足で出せないような守備をしていたのです。結果、エストゥピニャンは無理をせずにバックパスを出すことを選択します。それ自身は決して悪いプレーではないのですが、最終的にボールを受けたブライトンGK・フェルブルッヘンが見たものは決して良い風景ではありませんでした。
ユナイテッドのDF陣はガチガチの守りを敷きながら徐々にプレスをかけてきている。相手の機動力があるCF(ザークツィー)はちょこまかと動いていて危険だ。ならばさっさとパスを出してしまおう。そう思ったフェルブルッヘンは相手のマークが薄めの味方DH・アヤリにボールを預けました。

ところがこの時のアヤリは危機管理能力が若干欠けていた。後ろからプレスを受けて安易にボールロストすると、CBはボールの受け手と出し手になるべくサイドに散っているわけですから一気にピンチとなります。
そんな状況でもブライトンに希望はありました。この日のレフェリーであるピーター・バンクスの甘いジャッジがそれです。それを知っていた驚異的な身体能力の持ち主のブライトンDH・バレバはファールすれすれのプレーでチームを救おうとペナルティエリア内で勇気を見せました。若干遅れてきた未来はユナイテッドのPKという結末。結果的にユナイテッドのゴールが生まれました。

タイトルを除けば今の時点で5400字超えというなかなかの量になってしまったので、この試合の前半と後半で文章を分けることとします。
ユナイテッド対ブライトンという今シーズンの王者は関わらないであろう一戦。そこにはこんなにもレベルの高い攻防が詰まっていたのです。

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