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【カラマーゾフの兄弟 読破の道_5】お前の体には、血が流れているか?

7/20(土)

 台湾の離島、澎湖列島に遊びに来た。台北の松山空港から1時間で来られる。オンシーズンなので飛行機代がまあまあ高かったけれど、友達がちょうど澎湖に滞在中で誘ってくれたので、奮発して来てみた。飛行機の待ち時間で、三毛という台湾作家のエッセイを集中して読んだ。というわけでカラマーゾフはやはりなかなか進まない。台湾の離島で、台湾人がサハラ人について書いた本を、日本人が中国語で読んでいる、という状況がなかなか不思議だ。外国に暮らしながら、外国の離島で、第3外国語で原文を読むなんて、なりたかった大人になれているような気もする。それに、もう一方で読み進めているのは、あのカラマーゾフなのだ。拝啓 中学生だった頃のあなたへ。僕はなかなかかっこいい大人になれているかもしれません。

 カラマーゾフ家の召使い長であるグリゴーリイさんの養子スメルジャコフが、グリゴーリイさんに対して、本名で呼び続けるという煽り方をする場面に笑ってしまった。息子にこんなふうに言われたら、確かに頭に血が昇ってしまいそうだ。

「自分で考えてごらんなさいよ、グリゴーリイ・ワシーリエウィチ」勝利を意識しながら、敗れた相手を寛大に扱うといった感じで、まじめくさって淀みなくスメルジャコフがつづけた。「自分で考えてごらんなさい、グリゴーリイ・ワシーリエウィチ。聖書にだって書いてあるでしょうに。(中略)どうですか、グリゴーリイ・ワシーリエウィチ、(中略)これはつまり、グリゴーリイ・ワシーリエウィチ、あなただって本当の意味では信仰しておらずに、ほかの者をなんだかんだと叱りとばしているだけだってことじゃありませんか。」

「第一部、第三編、第七章:論争」より

 ちなみに引用したのは、ほんの一部であり、こんな調子で、父親グリゴーリイ・ワシーリエウィチへの煽りは続く。グリゴーリイ・ワシーリエウィチは、そんな息子の態度に耐えきれず、怒鳴り散らかしてしまう。しかし、僕にはこのスメルジャコフの言っていることは一理あるように思えた。また、一理あるからこそ、グリゴーリイ・ワシーリエウィチにはキレるという手段しか残されていなかったのだろう。口喧嘩においては、キレたら駄目なのだ。

 先週は、グリゴーリイ・ワシーリエウィチのことを好きになったと書いたけれど、今週読んだ内容で、普通に嫌いになった。簡単にキレるし、息子のことを下に見過ぎているし、あまりにも狭い価値観で生きている。

7/24(水)

 台風が僕の住んでいる場所を直撃して、仕事が休みになった。どうやら明日も休みなようだ。仕方がないので、揺れる木を横目にカラ兄を読み進める。カテリーナとグルーシェニカという二人の美女が登場して、物語に大きく動きが生まれた。やはりどの文学作品にも男女関係のいざこざはつきものだ。それに付随して、長男が父親を殴り倒して出血するし、走り出したり怒鳴ったり、今までにはなかった刺激がすごい。それにしても、父親が恋敵という状況を登場人物たちが普通に受け入れていて、感動する。カラマーゾフ家には常識が通用しない。

 長男ドミートリイの以下の言葉にすごく感動した。たぶん、多くの人にとっては、感動するのではなく呆れる場面なのだけれど。

俺にとって、これまでの生涯に醜い女なんて存在しなかったよ、これが俺の主義なんだ!お前たちにこれがわかるかい? わかるはずはないさな。お前らはまだ、血の代りにオッパイが流れているんだし、殻が取りきれてないんだから! 俺の主義から言や、どんな女にだって、ほかの女には見いだせないような、畜生、度はずれにおもしろいところがみいだせるもんなんだぜ

「第一部、第三編、第八章:コニャックを飲みながら」より(太字引用者)

 なぜ感動したかというと、僕も常々、そんなようなことを考えているからだ。僕は何もドミートリイのような女好きではないし、モテないし、そういった経験も少ない。ただ、本当に小さな頃から、同級生たちのいう「この子は可愛い/あの子は醜い」という価値判断が理解できなかった。どんな子も、話したら素敵だなと思うところが必ず見つかる。今まで生きてきて、そのことに気づいていない男性が本当に多いと思っていたので、よくぞ言ってくれた、という気持ちになった。さらにそこに、「血の代りにオッパイが流れている」という表現を用いるのも最高だ。僕の体には、ちゃんと血が流れているようだ。

進捗

上巻:■■■■■■□□□□ 61%
中巻:□□□□□□□□□□ 0%
下巻:□□□□□□□□□□ 0%

カラ兄読破まで、あと79.7%
(忙しくて更新が遅れてしまった)

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