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【カラマーゾフの兄弟 読破の道_15】3時間だけのインスタント映画館

10/2(水)

 世の中は台風休みなのに、締切が近いため、みんなして休日を返上して働いている。台風休みにするなら、締切も延ばしてほしいものだ。世の中、やるべきときは、やらなければならないのだ、と言い聞かせて黙々と働く。

 お昼頃に先輩が「5時くらいから、外で映画上映会をしないか?」と誘ってきた。聞いた瞬間に、めちゃくちゃ面白そう!と思ったけれど、もう一度言うが、本日世間は台風休み、外は大雨強風である。

「仕事もしないとだし、ちょっと厳しいんじゃないですか?」と言ったら、
「まだ3時間もあるぞ」との返事。

そうか、一日仕事場に引きこもってだらだらやるよりは、3時間で全力で仕事をし、残りの時間を映画に当てた方がいい。この先輩のこういうところをすごく尊敬している。

 事務所の横には文化遺構(日本軍が当時建造した掩体壕)があり、その空間を使って映画を流す作戦らしい。下見してくる、と言った発起人の彼が帰ってきて言うには「電源の一つもなかった」「道もまともに整備されていない」「雨がめっちゃ降り込む」とのこと。普通だったらここで諦めると思うのだけれど、彼は持ち前のリーダーシップで恐るべきスピードで色々と手配を始めた。

 皆に声をかけ力を合わせて、テイクアウトの晩御飯を電話予約して、(電気がないので)発電機を借りに行く部隊を作り、プロジェクターとスピーカーを持ち込むためにゴミ袋で防水し、(Wi-Fiもないため)映画を予めダウンロードし、(座る場所もないので)スタックできる小さな椅子を持ち込み、(物を置く場所さえないので)板を2枚持ち込み、ついでに犬まで一匹(その先輩の飼い犬)持ち込んで、なんと突然、世界で一番不便な映画館が完成した。

 脚を泥だらけにして、髪を濡らしながら、なんでこうまでして台風の中ニキータを見ているんだろう、と思うけれど、今までの様々な映画体験の中でも、とても楽しかったし記憶に残るものだった気がする。田んぼの畦道を踏み締めて、重すぎる発電機を9人くらいで囲んだことは、なかなか忘れそうにない体験だ。

 普通だったら辞めてしまうような、突拍子もなさそうに見えるアイデアを、ちゃんと実現してしまう実行力と団結力が本当に素晴らしい。仕事も遊びも全速力、という言葉がよく似合う人たちだと思う。

 さて、カラ兄は日常でも非日常でも、ちゃんと読み続けられている。あまりにも生活に馴染みすぎて、このような特別な日を過ごした後に読むと、生活の中にカラ兄が入ってくるというよりも、カラ兄の中に生活が入り込んでいくような錯覚を覚える。カラ兄こそが僕の基本的な生活で、台風の中映画を見るなんてことは、まるで小説みたいじゃないか。
 なぜこんなふうに感じるのだろうか、それは多分、カラ兄が扱う範囲が膨大だからだ。ちょっと前まではミステリー小説だったのに、今は裁判小説になっている。ミステリーになる前は、不条理だったり恋愛だったり信仰だったり、それぞれが立派な長編小説になりそうなほど、さまざまなテーマをたっぷりと含んでいる。カラ兄が扱う範囲は、あるいは、僕らの人生の豊かさを超えているかもしれない。人生よりもぶ厚いかもしれない物語。

インスタント映画館

進捗

上巻:■■■■■■■■■■ 100%
中巻:■■■■■■■■■■ 100%
下巻:■■■■■■■■□□ 79%

カラ兄読破まで、あと7.0%
(ついに残り一割を切りました!)

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