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インド・代理出産クリニック・取材日記Vol.2

※この日記は、2014年1月に、インドの代理出産クリニックに取材した様子を記したものを、再掲したものです。

インド取材旅行3日目(2014年1月26日)
インド時間3:30AMに起床。日本時間だと朝7時なので、体内時計が正常に働いていることが確認できたわけだ。起きると、すぐに下痢が始まる。お腹がすごく痛いわけじゃないんだけど、下痢が止まらない(笑) 前の日に食べた、超絶美味いインド料理のせいだろうか?

なんだかインドぽくって楽しくなってきた。

下痢をしたり、また眠ったりを繰り返してる内に、5時間が過ぎ、お腹が空いてきた。さすがに止まらない下痢に焦りを感じ、とにかく出したからにはいれなきゃと、ルームサービスで朝食を頼んだ。正露丸を飲み、食事を済ませたら、下痢は止まった。(後で調べたら、下痢の時には、あまり食べない方がいいらしい)

今日は、インド旅行のメインイベントが待っている。世界一有名な代理出産クリニックに、アポなしで取材に行くという大事な日なのである。というわけで、ホテルに引き篭もっているわけには行かず、「ゲリ帝国の逆襲-The GERI Empire Strikes Back-」に備え、日本から持参したオムツを穿いて、出発することにした。オムツを穿いたのは何年ぶりなんだろう? 前回の記憶はもちろんない。でも、あと50年生きれば再び穿くようになるんだから、いい予行演習である。

ホテルを出るとすぐ、オートリクシャーの兄ちゃんから、「XXXクリニックに行くの?」と声をかけられる。なんでわかるんだ?超能力? インディアンエスパーに敬意を表して、歩きで行くのをやめて、リクシャーで送ってもらうことにした。実は、これがすごいラッキーだったことが後からわかる。
しかし、その辺の事情は書けないので、割愛。

クリニックは驚くほど混んでいた。きっとアポなしの取材なんかOKしてくれないだろうと思えてきた。とにかく、受付の女性に、「自分の名前は鈴木アツトで、日本人で、作家で、代理母の取材をしたくて来た」と、拙い英語で伝えると、中で待つようにと言われた。待合室には、恐らく依頼人であろう、カナダ人の夫婦とインド人の夫婦がいて、カナダ人の奥さんが僕に明るく話しかけてきた。

僕は、ドクターの部屋にすぐに呼ばれ、その有名な女医さんに、事情を説明した。

「あなたは代理出産を、ポジティブに描きたいの?ネガティブに描きたいの?」

その相手からの、最初の質問が特に印象に残っている。僕は、「まだわからない」とだけ答えた。はっきりしない男だと、多分、思われたと思う。
でも、代理母ハウス(代理母が出産まで生活する寮みたいなところ)
を見学する許可が下りる。ただし、通訳はいないとのこと。

クリニックから案内をしてくれる女性が一人付いてきた。彼女は、多少、英語が話せた。リクシャーで郊外の代理母ハウスへ行く。とにかく、代理母たちと話してみたかった。こっちは英語だって拙いし、むこうは英語は喋れないけど、生活が知りたかった。何を考えてるのかを感じたかった。運良く昼食の時間で、昼食を作っているところを見てたら、「もしかして、食べる?」と聞かれて、「うん!食べる」と即答。もちろん、早朝の下痢のことが頭を横切るが、大丈夫。万が一、下痢になっても、僕はオムツを穿いている。というわけで、代理母たちと同じものを食すことに成功する。

途端に、案内の彼女が、とてもフレンドリーになっていく。「この人、同じご飯食べたんだよ」と、みんなに言ってくれるから、みんなもおもしろがって、興味を持ってくる。だからといって、言葉が通じるようになったわけじゃないから、深いインタビューとかはできないんだけどね。

「私、日本人の子供を妊娠してるんだよ」と言ってきた女性がいた。彼女は、クライアントからもらったであろう、お守りを見せてくれた。

今回の旅行は、なんだか、とても不思議な感覚になる。「グローバル・ベイビー・ファクトリー」は、僕が既に書いた物語である。既に書いた物語のために、取材をしていて、自分が書いた物語の中に入り込んで、自分が書いた登場人物たちと話しているような気がするのだ。もちろん、実在のクリニックを元に書いたからなんだけど。江戸川乱歩の「押絵と旅する男」じゃないけど、現実と自分が書いたフィクションが混ざり合う、蜃気楼の中の世界のようだ。

下半身のオムツの感触が、僕を現実に戻す。たった一週間の取材で、この代理出産ビジネスについて、インドについて、インド人について、何がわかると言うのだろう?それに、依頼人側の視点だって、もっと考えて描かなければ。あのクリニックの待合室の雰囲気。妻の表情と夫の表情。国際的な代理出産。その扱うことの難しさを、あらためて思う。

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