GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #3

ワイドボディの飛行機にはおそらく50人も搭乗しておらず、窓側の3席すべてをひとりで利用できて非常に快適だ。森本は僕が予約した席から離れた前方の席に座っている。食事も終わり国産プレミアムビールの350mlを2本ほど空にすると、iPadで本を読むのも飽きたので空いた3席で身体を横にして目を閉じた。機内の照明は暗くなっているが、まだ20時ぐらいだ。眠くはない。
ふと僕は、グラベル、とつぶやいて(実際に口に出した訳ではないが)インターネットで見たDirty Kanzaのビジュアルを思い浮かべた。僕がはじめてグラベルという言葉と、その内包する文脈も含めて指す道を走ったのは2013年あたりだと思う。当時、クロスバイクやマウンテンバイクによる林道ツーリングとは異なるアプローチで、ロードバイクでグラベルを走破する行為への関心が局所的に高まっていた。それは黎明期のグランツールへのリスペクトや、舗装の終わりが道の終わりでないというような哲学的、または文化的なものだったと記憶している。僕にとってのグラベルは当初ロードライディングにスパイスのように添えられるもので、多くは山奥のガレた林道だった。そして昨今、自転車業界においてグラベルというワードは、クラフトビール界のヘイジーのように流行語だ。未舗装路という広い範囲を指す言葉ゆえに、アスファルトやコンクリート、石畳などで舗装されていない道はすべてグラベルということになり、それは河川敷の砂利道として整備されたものから、朽ちる寸前の林道まで、人はグラベルを自由に選択する。グラベルライドに参加したらトレイルに連れて行かれた、というのは笑い話だが、実話である。しかし、僕がインターネットの動画共有プラットフォームで見たそれは、地平線の彼方まで続く平原の真ん中にまっすぐに伸びた白い道で、まるで初夏の快晴の空に細くたなびく飛行機雲のようだった。
走りたい。ここを走るためにデザインされたバイクで、飛行機雲に乗って地平線の彼方へ消える渡り鳥のように、どこまでも走ってみたい。それは衝動だった。業界人でもないのでわざわざ海外にトレンドのエッジを見に行く必要もないのだが、この欲求と好奇心が止まらないほどに熱を帯びてしまったことで、僕はこのご時世にカンザスへと向かったんだった。やれやれ。僕は短いため息をつくと起き上がり、フライトアテンダントから3本目のプレミアムビールを受け取った。

>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #4


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