GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #20
隣で森本がカメラに向かって話しはじめた。僕は路肩ギリギリの砂利が無いところに座っているが、彼はしっかり砂利の上に座っている。立っているのが辛すぎて砂利の上でも座れる喜びの方が勝っているそうだが、その砂利はそれなりの(こぶしの半分ぐらいもある)大きさだった。これまでも彼は事あるごとにカメラを回していたが、それは走行中だったり少し離れたところだったので、僕が参加することは少なかった。あくまで森本の配信者としての動画なので、僕がしゃあしゃあと出しゃばるのは良くないと考えているところもあったからだ。今は横に並んで座っているのもあって自然と会話するようなかたちになり、この時、僕は自分が思っているよりも感情的になっていて、会話の流れでスタートからこれまでに感じていたことをぽろっと話すと止まらなくなった。
スタート地点、エンポーリアのメインストリートに並んでいた選手は746人だった。僕たちは後方からスタートしたのもあって、周りの選手は仕上がったサイクリストというよりは、まさに老若男女、体型も痩せ型から肥満に近いような人まで本当に様々だった。見渡して、試走時に走った街外れに向かう下り坂にこの人数で突っ込んだら落車が起きるかもな、などと考えていたが、それは杞憂だった。そこからたくさんの選手を抜いていった。単独の落車は2,3度見たが、大きな事故は無かった。パンクをしている選手はしばしば見かけたが、皆、路肩でテキパキと復旧作業を行っていた。こんな多い人数、こんな広い年齢層、性別も関係なく、参加したすべてのライダーがこの100マイルのグラベルレースを完走する走力を有していることに心底感動していた。僕と森本も凡庸なサイクリストだが、それでもクリテリウムやシクロクロスなどの自転車競技に出場していたし、表彰台の真ん中に立った経験だってある。ここにいるすべてのライダー、あの老人も、あの巨漢も、あの女性も、あの若者も、速いとか強いとか、そういう尺度は置いておいて、全員が言わば自立したサイクリストであるという事実、しかも200マイルレースの出走者はもっと多い921人だ。グラベルが世界的に盛り上がっているだとか、UNBOUND Gravelは世界一のグラベルレースだというような上面ではなく、アメリカのグラベル文化、ひいては自転車文化の豊かさを強く実感した。スタートからずっと感じていたことを、この撮影をきっかけにふたりで言語化すると改めて頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。森本は撮影中だったが、言葉を失っていた。
これまでより少し長めの休憩をしてバイクを起こしてまたがると、僕たちはまた、遥か彼方まで白いグラベルが続いているのを見た。何度目の景色か解らないが、僕たちの背中は少しだけまっすぐだった。
>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #21