GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #9
夕食は翌朝のレースパフォーマンスに関わる重要なものだが、僕たちは当然のようにバーベキューを選択し、エンポーリアからの帰路を遠回りして森本がチェックしていたバーベキューショップに潜り込んだ。そこは駐車場が広大で客席数と釣り合わないように思ったが、自動車大国アメリカではこれぐらいスペースは必要かもしれないし、広大なグレートプレーンズでは土地が余り気味なのかもしれない。席に通されるとすぐにメニューを熟読し、僕はビールとプルドチキンとビーフスライスのバーベキューにカットされた食パンとコールスローサラダがセットになったプレートを注文した。テーブルの担当は愛嬌ある白人女性で、アルコール注文時のID確認で僕のパスポートを見て「は?見た目それで1978年生まれとか超ウケる」「日本から何しに来たの?自転車のレース?マジクレイジーだわ」と笑いながら接客してくれた。僕は英語が得意ではないが、こうして会話をしてれるのは嬉しいし、旅の醍醐味というものだ。運ばれてきたプレートはパンこそ小学校給食のそれだったがバーベキューはやはり美味で、付け合わせのピクルスとコールスローサラダをあわせてサンドイッチにして食べると、スパイシーかつジューシーな肉の旨味と、サラダのマヨネーズまたはピクルスの酸味が口内で完全に調和した。それは朴訥なマリアージュで、僕はカンザスの農村にある小さな教会から若い白人の新婚夫婦とコンバーチブルのフォード・ムスタング(もちろん初代のポニー・カーだ)が多くの空き缶を引っ張りながら教会を後にする様を思い浮かべた。その新婦はもちろんウェイトレスの彼女だった。
心地いい満腹感と美しいマジックアワーに包まれてモーテルに到着するとスマートフォンが示す時刻はもう21時だった。明日は早朝の出発なので今晩のうちに準備を終わらせる必要があった。僕は缶ビールを飲みながら装備をひとつひとつチェックした。使い慣れたRaphaのカーゴ・ビブショーツとエクスプロア・シューズ。トップスは試走時の日差しの強さから日焼け対策としてPatagoniaのキャプリーン・クール・ライトウェイトのロングスリーブを選択し、さらにレースエントリー時にノベルティとして貰った速乾素材のスヌードも装備することにした。路面はスムーズだったのでグローブは不要。補給食は以前SDA王滝マウンテンバイクマラソン100kmを走った際、終盤には疲労と振動で胃が固形物を受け付けなくなった経験から、前半はグミや焼き菓子など固形物を中心に、後半に向けて羊羹やエネルギージェルなどソフトなものを摂るように考え日本で揃えて持ち込んだものを ──あたり前田から補給食として開発されたハイプロテインクッキーWAY TO GOも忘れず── フレームバッグに入れていった。チューブレス用のパンク修理キットを持っていたが、レギュレーションで2本の予備チューブを持つ必要があったのでサドルバッグとフレームバッグにそれぞれ入れ、合わせて義務付けられていた前後のライトの装着も確認した。準備が完了すると、あと僕に必要なのはもう十分な睡眠だけとなった。
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