GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #5
カンザスはバーベキューや。調べたけどバーベキューしかあらへん。そう言うと森本は、販売台数世界首位に返り咲いた日本企業が海外で展開するSUVの運転席に乗り込んだ。たしかにカンザスと言われても思い浮かぶのはオズの魔法使いぐらいしかないし、禁酒法時代、大物フィクサーの影響で酒が飲めたことによってジャズやブルースの歴史の中で大きな意味を持つ街として名前を見かけることもあるが、僕のイメージではそれらのルーツの南部とは異なりアメリカの田舎の代名詞で、それはバーベキューのイメージともマッチする。否が応でも期待も高まるというものである。
森本が目をつけていたバーベキューショップはいくつかあったようだが営業時間を短縮しているところが多く、20時間を超える移動の疲れもあったので、僕たちはバーベキューをテイクアウトしてスーパーマーケットで必要なものを買い、宿泊先で夕食をとることにした。カンザスシティからUNBOUND Gravelの開催地エンポーリアまでは120マイルほどあり、その中間地点のオタワという街のモーテルを森本が予約してくれていた。道中にあったテイクアウトに対応する高評価のバーベキューショップは行列ができていたが、並んでいる客どころか窓口対応しているスタッフまで、ほとんどの人がマスクをしていなかったことに驚いた。2021年6月、カンザス州ではワクチン接種率が高くマスクの着用義務が無かった(感染者数はその頃の日本よりずっと多いが)ようだ。ほんの数年前は日常だった光景だが、正直面食らった。落ち着かない気持ちでディスタンスを保ちながら順番待ちをして、ビーフとチキンのバーベキューとポテトを注文した。
車内をバーベキューの香ばしい香りで充満させながらオタワに到着した頃にはもうすっかり夜中で、開店しているのはロンドンのサイクリングアパレルブランドを買収した一族が所有するスーパーマーケットぐらいだったが、そこは僕たちが宿泊するモーテルの隣にあったので都合が良かった。僕たちは飲料水とパンとインスタントコーヒー、カンザスのブルワリーが醸造するビールを購入するとすぐさまチェックインをして、2つのベッドの間にテーブルを移動させ、すこし冷めたビーフとチキンのバーベキューとポテトを囲んでビールで乾杯した。黒く焼かれたそれは僕がいつも目にする肉よりも肉肉しく、スパイシーでパンチが効いており、これまでにあまり食べたことにない風味は美味だったし、ワンダーラストという名のレッド・エールは長い旅を経てここに到着した僕たちに相応しかった。
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