GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #8

サイクルコンピューターに公式サイトからダウンロードした100マイルレースのコースデータ読み込まれたのを確認してペダルを回した。すぐにパチンと左足のクリートとペダルが噛み合うと、僕たちはエンポーリアの街を北へと自転車を進め、エンポーリア州立大学を横目に下り坂を調子よく飛ばしていく。3kmもしないうちにハイウェイをまたぐと建物はなくなり周辺は農場になった。見えるものは青空と低木と畑だけで北海道や信州などで見る農道のような雰囲気だが、色なのか、空気なのか、明示化できない何かが日本のそれとは異なっていた。すぐに道は緩やかに右へカーブしたがサイクルコンピューターに示されたルートは直進を指している。前方に見えるのは真っ直ぐに数キロにも及んで伸びる白い道で、掛け値なしの極上グラベルだった。森本と僕は、その年最初の夏の海に向かって走り込む海水浴客のように甲高い声を上げながらグラベルにダイブすると、すぐにチューブレス・レディのグラベルキングが砂利を踏む音がした。ブラケットを握る手に心地良い振動を感じて胸が熱くなった。そうだった、これを走る為に20時間もかけてここまで来たんだった。細やかな砂利によって整備された道幅はアメリカサイズの1.5車線程度というところで、ちょうど両側を通行する自動車が左右に寄って走行することによって道の右と左、そして共用する中央に3本の轍が出来上がっている。そのレールに乗るように自転車を走らせるとスムーズで、スピードも乗るので、河川敷のように整備されたグラベルというところだ。それを5kmほど堪能したが、目の前には延々と白いグラベルが続いており、これはこのままどこまでも行ってしまうと思い僕は森本にそろそろ引き返そうかと話して、森本もそれを快諾した。往復10キロ程度のグラベル区間だったが、日本であればこの10キロを走るために50キロほど舗装路を走ってもおかしくないし、その価値があった。途中50マイルレースを走る選手と何人かすれ違ったのだが、湿度は低いが日差しは皆強く疲弊をしているようで、明日のレースのタフさが想像できた。
20キロほどの試走を終えバイクをSUVに収納して着替えた終わった僕たちは、とにかくカラカラに乾いていたので、すぐに目を付けていたブリューパブに早歩きで向かった。1番のタップにはGravel Cityというビールが誇らしく繋がっていて、僕と森本は迷わずにそれを注文した。この日の為に醸造されたビールをチューリップ型のグラスから流し込み、2019年の12月にエントリーして、1年の延期を経て、やっとここに来れたとあらためて思った。どうしようもなく期待がこみ上げてくる。相変わらず誰もマスクをしていなかったが、そんなことはもうどうだって良かった。いよいよ明日、このグラベルに祝福された小さな街から僕たちの100マイルの旅がはじまる。

>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #9


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