GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #12
小一時間ほど走ったところで、休憩いるんやったら止まってもらってええんやで、と森本に言われたので、木陰で少し休憩することにした。とにかくスムーズなグラベルを直線的に進むので、淡々とペダルを回していると、気づけば30分程度は過ぎてしまう。気づいたタイミングで意識してこまめに補給と休憩をすることが良いと思ったが、まだ25kmほどしか走っていなかったので特に疲労もなく、とにかくスケールが桁違いの景色にひたすらにまっすぐなグラベルと非日常のど真ん中だったのもあり、休憩している間もなにかソワソワしてしまい5分ほど立ち話をしてすぐにまたスタートした。
UNBOUND Gravel 100マイルのコースはスタートのエンポーリアをまず50kmほど北上し、南西へ40kmほど走ったカウンシルグローブという人口2,240人の小さな街をチェックポイントとし、そのままさらに南西へ25kmほど、折り返して東へ55kmほど走るとエンポーリアに戻ってゴールとなる。大雑把に言えば、スタートから北向き、南西向き、東向きの三角形のようなコースになっている。もちろんほぼ全てがグラベルで、ところどころあるカーブは直角で、その直線は長いもので20kmほどに及ぶスケールだ。そして今まさに、その最も長い直線を走っている。スタートから35kmほど走り、もはや農耕地でもなく無意味な草原が見渡す限りに広がり、路肩にあった電柱も姿を消した。ライダー以外の人の気配は見渡す限り全くない。
想像してみてほしい。地球が球体であることを認識できるほどの広い広い地平が広がる草原を。空は雲ひとつない、完璧な青だ。視界にはフィフティ・フィフティの天と地。足元には真っ白なグラベル。しかもそれは遥か前方、大地と空が地平線で接するところ、つまり消失点まで続く直線。身体は風を感じ、それを切る音と砂利を踏む音が完璧なアンサンブルを奏でる。その旋律と連動するように、ペダルを回す脚とブラケットを握る手にはグラベルの振動が伝わる。全ての感覚器でグラベルを感じる。横に友人が走っているが、何も交わす言葉はない。そう、これはパーフェクトだ。人生において数少ない純粋無垢なパーフェクトだ。そしてこれはやってきた、ということだ。あの映像を見て、心が突き動かされた場所に。ここを走るためにデザインされた自転車に乗って。
旅をしている、と思った。僕はいま、飛行機雲に乗って地平線の彼方へ消える渡り鳥のように旅をしている。そして、自転車の本質は旅をするということだ。思わず写真を撮ると素晴らしいビジュアルが切り取られたが、それはこの風景の半分だって写してはいないかった。だけど、1200万のピクセルのどれかに僕の思念のようなものが静かに記録されて伝播し、誰かがまた旅に出る理由になればいいと思った。