『KOMOREBI』~表意文字としての日本語~
私は自然の写真撮影が好きで、撮影対象は花・巨木・昆虫・野鳥といくつかあるが、『木漏れ日』もその一つだ。ただし、木漏れ日と言っても、樹々の葉や葉の間を通して差してくる光の束そのものであったり、光が林床や地面に描く模様であったり、逆に下から上を見上げた時に無数の葉を透かして緑のグラデーションを描く光の様子であったりと幅広く解釈している。
私がよく訪れる白金台の国立科学博物館附属自然教育園での撮影でも、必ず木漏れ日は撮っておいて、後でインスタグラムにアップするときにオープニングやエンディングの一枚に活用している。
さて、私のインスタのフォロワーには海外の方も多いので(多いと言っても3桁だが)、また、そもそもインスタはインターナショナルなツールなので、ハッシュタグ#には必ず英語表記も含めている(以前はキャプションも英語表記でと考えたこともあるが、時間がかかり過ぎるので挫折した)。
問題は『木漏れ日』の英語表記だ。実は直訳がなく、木漏れ日という概念を説明する叙述のようになってしまうのである。例えば……
#sunlightfilteringthroughtrees
容易に分かるのは、他にも説明の仕方は様々あって、このようなハッシュタグをつけてもあまりヒットしない、効果が少ないということだ。木漏れ日の投稿を始めた最初のころ、どうしたものかと思ったものだが、すぐにあることに気付いた。例えば、日本の『もったいない』精神を表す英語表記にあの有名な『MOTTAINAI』があるではないか。日本的な概念をうまく直訳できないのであれば、日本語の発音をそのまま英語にしてしまうという訳だ。
市民権を得たと言える『MOTTAINAI』は、例えば日経新聞電子版にも度々登場している。一例として次の記事を上げておく。
もしやと思い調べてみると、『KOMOREBI』という表記があって、まだ英語化の過程にある段階のようだが、インスタのハッシュタグとしては十分使える。現に#komorebiで検索するとたくさんの投稿がヒットする。
この事実から、私は、特定の複合的な、文化的な深みのある概念を文字として表記する際に持つ、日本語、漢字の表意文字としてのポテンシャルに気付かされた。複合的な、一言で表現出来ないような概念も、表意文字であれば短い文字数で表現できるのだ。
木漏れ日=木+漏れ+日=4文字
⇒(英訳)sunlight+filtering+through+trees=29文字
⇒(英語化)KOMOREBI=8文字
日本的な概念を英語表記するのに、日本語の発音をそのまま英語化するというメソッドはこれからも続いていくだろうし、逆に、海外からの新しい概念を日本語に輸入する際には、日本語には漢字とカタカナという強力な二刀流がある。例えば『innovation』は『新結合』でもいいし『イノベーション』でもいい。日本語には新しい概念を素早く自分ゴト化するポテンシャルがあって、それが日本の競争力の源泉の一つになっている、と言っても良いのではないか。
(インスタグラムhttps://www.instagram.com/angelwingsessay2015/で、主に東京都心で見れる自然の写真を紹介しています。)