『後出しじゃんけん』のビジネス~進化するサイズ計測のテクノロジーは後発優位か~
普通の『じゃんけん』で後出しはルール違反ですが、『後出しじゃんけん』では、親の出した手を見て後出しするのが決まりです。それでも子が負けてしまうのは、瞬時の判断を要求されるからで、その辺りの機微が、ビジネスと大変似ていると思います――先に先進的なサービスを出した企業が、その状況を見て後に続いた後発の企業に勝つ場合=先発優位もあれば、負ける場合=後発優位もあり得るのです――。
ビジネスと言う『後出しじゃんけん』の世界で、先発優位と後発優位を分ける分水嶺はどこにあるのでしょうか?
日経電子版の記事【ZOZOだけじゃない ユニクロやエコー、3D計測始動】は、そんな事を考える格好の事例のような気がします。
ファッション業界におけるサイズ計測サービスのためのテクノロジー開発競争は、単にネット通販同士の競合という範囲を超えて、リアル店舗との競合でもある点に最大の特徴があると思います。サイズを自宅で自分で測るのと、店で測ってもらうのと、どっちがいいか、という事に収斂していくのです。
その際最も重要な事は、そもそもユーザーはサイズ計測サービスに何を求めているか、どのようなUX(ユーザーエクスペリエンス)が期待されているのか、という事ではないでしょうか?――少し考えれば分かる事ですが、それは『簡単で、かつ精確なサイズ計測体験』に違いないと思います。
したがって、サイズ計測テクノロジーのデザイン・コンセプトは、簡便性と信頼性の追求、計測のスピードと精度にあると考えられます。その事から直ちに導き出されるUXは――
▶サイズ計測にまつわるUX
① 自分で測るのは面倒くさい。⇒計測するストレス
② 自分で精確に測れるか自信がない。⇒計測に失敗するかもと
心配になるストレス
③ リアル店舗で本格的な装置で計測してもらう方が、楽だし安心。
⇒顧客満足の向上
④ リアル店舗で本格的な装置で計測してもらえれば、店員さんの
習熟度を心配しないで済む。⇒顧客満足の向上
⑤ リアル店舗に出向くのは面倒は面倒だが、一度精確にサイズ計測して
もらえば、次回からそのデータを使える。⇒納得できる一回限りの面倒
私には、あくまで個人的な見解ですが、最も優位なサイズ計測サービスは、根本的に言って、『リアル店舗での本格的な装置による計測』であると思えます。そうであるとするなら、先発優位と後発優位を分ける分水嶺は――
▶先発優位と後発優位の分水嶺
①【UXの最大化】・・・ユーザーの期待する体験を見極めた方の勝ち。
②【ネットとリアルの融合】・・・ネットとリアルの融合を巧みに使って、
顧客満足度を向上させた方の勝ち。
――何だか当たり前のような結論になりましたが、意外とこの二つが徹底できていないのが現状ではないでしょうか。テクノロジー開発競争におけるアジャイルな手法は、確かに有効である一方で、『拙速』という事と表裏一体です。アジャイル開発は、ユーザーの反応を見ながら少しずつ拡大させていくのが良策というもので、一気の拡大にはリスクが伴います。
そして、忘れてならないのは、今回の考察で分かったもう一つのポイント、リアルに軸足を置いてネットとリアルの融合を推進する企業の圧倒的な優位性です。
ここまで、『後出しじゃんけん』のビジネスという観点で見てきましたが、このようにアパレル業界にとってサイズ計測テクノロジーが重要となってくる、その本質的な理由とは何でしょうか――
▶アパレル業界におけるサイズ計測テクノロジーの重要性
① 第4次産業革命の時代の究極のUXは、カスタマイゼーションによって
達成されると考えられます。より正確には、コストと納期の問題をクリア
したマスカスタマイゼーションです。その傾向は、ファッションの世界
では、より強くなると考えられ、その為には、精確なサイズ計測は
避けて通れない課題のはずです。
② アパレル業界におけるマスカスタマイゼーションのテクノロジーが
確立され、オーダーサービスが広がりを見せることは、アパレル業界の
大量生産→大量廃棄サイクルを断ち切るという意味で、きわめて重要だと
思われます。