人間の存在理由
ヒト型ロボットの研究開発で有名な石黒大阪大学教授の登場するTV番組や記事には、どこか引き付けられるものがあって、いつも見入ってしまうのですが、それは、石黒教授ご本人がおっしゃるように、『人を知る』ことが研究の根っこにあるからだと思います。
そもそも、ロボットの定義というのは、時代の流れとともに変化し、いくら調べても曖昧さが残るのですが、ロボットは、産業用ロボットなどのように自動制御された機械と、人間らしさを追求するヒト型ロボットに大別されるようです。
石黒教授の研究分野は後者のヒト型ロボットですから、人間らしさの追求=『人を知る』という事につながり、石黒教授が人というものについて到達した認識、その発言が、とてもクリアなメッセージとして私達の耳に飛び込んでくるのではないでしょうか。
今回の電子版の新聞記事で、私が(ちょっと大げさに言えば)衝撃を受けた部分は、記事の中の動画にあった次の件です。
人間はどうしてこの世に存在しているのか?生きのびたから存在している。それ以外の理由はない。
『人はどうしてこの世に存在しているのか?』、一見哲学的、宗教的、あるいは文学的に深遠な、一生かかっても解けないかに見える問いかけに対して、あっさり明快に、『生きのびたから存在している。それ以外の理由はない。』と答えておられる。進化論的にいって全くその通りで、否定のしようがない。
今まで自分なりに半分分かっていたように思っていたことを、ここまで明快な言説で表明されてみると、まさに目から鱗が落ちた、というのが実感です。
そして、さらに衝撃だったのは、その後の件で、人類が、極端な温暖化や太陽の異変などの環境の激変に対して――
最後まで長く生存し続けようと思うなら、体を機械化することは必然。
――という部分でした。ロシアの企業家ドミトリー・イツコフ氏のアバター計画(人間の脳をアンドロイドに移植する)、最終目的のホログラムタイプのボデイー、というのは聞いたことがありましたが、この石黒教授の発言は、明確に、人間は自分の意思で進化する、と宣言しているように思えます。自然界にあって、進化は偶然の産物ですが、意思のある人間は、生き残るために必然的な進化のコースを自ら選択していく、という事なのです。それは、それが可能な技術があれば実行可能なことであり、生き残るとなれば、何としてもそのような技術は開発されるでしょう。
しかし、『人間の機械化』という究極のイノベーションを前にして、ふと、私は思うのです。
人間の意識・感性・感情といったものは、人間の肉体の中で生成されるもので、肉体と不可分一体のものなのではなかろうか?脳だけを機械に移植して、人間らしい感性とか感情を保持し続けることができるのだろうか?例えば、ちょっとした肉体のふれあい、子供の手を握り締めた時に湧き上がる感情が、アンドロイド化した人間に理解できるのだろうか?……きっと、機械化された人間は、生身の人間とはかけ離れた存在、何を考えているか分からない存在になってしまうのではないか、と……
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26467640S8A200C1966M00/