4種類のパスタから学ぶ | シェフレピ編集後記 | 2021/08
はじめに
こんにちは、シェフレピを運営しているefoo株式会社の山本です。
シェフの動画が学べる"スタディ型"ミールキット「シェフレピ」ではできる限り家庭での再現性が高くなるように意識しながら情報を整理し、お届けしています。
シェフレピでの学びの整理として編集後記という形で発信していこうと思いこのnoteを書いています。
シェフレピの撮影やレシピ起こし、試食やシェフとのやりとりを通して感じたちょっとした学びについてまとめていきます。
シェフレピを利用されていない人でも楽しい内容になるように書いていますので是非読んでいただけますと幸いです。
パスタは様々な変数でニュアンスが変わる
そもそもパスタってどんな定義?と調べてみるとこのように出てきます。
パスタ(伊: pasta)はイタリア語でマカロニ、ペンネ、スパゲッティ、ラザニア、などの食品の総称である。イタリア料理の主要な要素のひとつ。主な原料は小麦粉(特にデュラム小麦)で、他に水、塩、鶏卵などが用いられる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
小麦粉 + 水分 + オプション(ex:シャラティエッリで言うバジルやチーズetc)
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このように割とシンプルな構成のパスタですが僕が一番面白いなと思ったのはパスタを練る時の水分の違いです。
・仲本シェフの「ラビオリ」
=>「卵黄のみ」
・清水シェフの「シャラティエッリ」
=>「牛乳、全卵」
・関口シェフの「ニョッケッティ・サルディ」
=>「熱湯」
・表原シェフの「トロフィエ」
=>「ぬるま湯」
加える水分だけでも多種多様、そして食感が変わるということを学びました。
例えば、「卵黄のみ」だと歯切れの良い食感になったり、「全卵と牛乳」をツルッとした食感、「水(熱湯やぬるま湯)」だともちっとした食感になったりとかなり加える材料によっても全然食感が違うので、じゃあ「卵白のみ」とかありなのかな?とか色々考えてしまいました。
出したい食感と作るパスタの形状、合わせるソースによって何通りものパターンの中で最適解を出すというのはとても楽しそうだなと勝手に妄想していました。
そんなことを考えながら、「ラビオリ」で牛ホホ肉のような濃厚なゼラチン質の多いソースと合わせることを考えると「モチっと」というより「サクッと(これは言い過ぎ)」した歯切れのいい食感の方が相性良さそうとか納得感を得ながら食べることができました。
さらに、保存方法でもパスタの食感が変わるということも学びでした。
「シャラティエッリ」や「ニョッケッティ・サルディ」では、成形後、打ち粉をして冷凍庫に入れて乾燥させるようにすると、生パスタの食感と乾燥パスタの食感が同居したような食感になります。
一方で、「ラビオリ」は冷凍するべきかとシェフに尋ねたところ「冷凍すると茹でる時に詰め物が膨張して弾けるからおすすめしない」という回答もありパスタによって保存方法も違うのかと非常に興味深かったです。
成形前のパスタも、「ラビオリ」の生地はまとめた後、成形前に一晩冷蔵庫で寝かすという工程があるのですが、「トロフィエ」の生地は、冷蔵庫で一晩寝かすと途端にゴムみとたいな食感になって良くない(なので常温で30分〜1時間寝かす)という指摘が。
このように作ってみて、何が自分の中で好みなのか、じゃあ自分でオリジナルを作ろうとした時にどのように変数を変えれば美味しいかなども考えながら作れると楽しいかもしれません。
他にも、小麦粉の種類(これはかなりマニアックだなと)や形状によって得られるメリット(なぜその形状がそのソース合うのか)など考えれば考えるほど面白いですね。
ジェノベーゼの考え方
フランス料理にも「ピストゥ(Pistou)」というプロヴァンス地方に同じようなソースがあるので、なんとなく知っているような気持ちでいたのですが、レシピ提供くださっている表原シェフのペスト・ジェノベーゼの作り方がすごく勉強になり、目から鱗でした。(勉強不足でもありますが)
僕は、味の考え方としてバジルペーストにコク出しや風味付けのためにナッツやニンニクなどを加えているという感覚でいました。
一方、表原シェフは「美味しいナッツペースト」にバジルを加えて香りを加えるとおっしゃっていて、たしかにそういう考え方もあるなと勉強になりました。
ブロード(出汁)でトロフィエ(パスタ)を煮るという工程も非常に勉強になりました。
各工程にしっかりとしたシェフの考えが乗っかっているのがレシピからわかるような料理でした。
さらに、ブロード(出汁)でトロフィエ(パスタ)を煮た後、ペスト・ジェノベーゼを加えるときの工程を「煮込みの最終的なトロミ付けにルーやブールマニエを加える時と同じ感覚(大森シェフの「牛ホホ肉の赤ワイン煮込み」の仕上げのような)」とおっしゃっていて確かに液体に油脂分などを加えて濃度をつけるという意味では一緒だなと面白い考えだなと思いました。
※ジェノベーゼは香りが大事なので加えたら必要以上に加熱しない前提で工程が進みますが、小麦粉(ルー※1やブールマニエ※2)は加えてからトロミが付くまでしっかり加熱する必要があります。
※1小麦粉とバター同量を共に加熱したもの
※2小麦粉とバター同量を混ぜたもの
赤ワイン煮込みの違い
ジャガイモの詰め物のラビオリ タレッジョチーズのソース 牛ホホ肉の赤ワイン煮込み
今回、「ristorante NAKAMOTO」の仲本シェフに、ジャガイモの詰め物のラビオリ タレッジョチーズのソース 牛ホホ肉の赤ワイン煮込みのレシピを提供いただいております。
仲本シェフが、レシピとは別に、余ったパスタ生地の活用方法として、様々なパスタの切り方や合うソースも説明してくださり興味深かったです。
ソース二種とラビオリという今回ではパーツとして一番作れる種類も多いので、学びたい人や手の込んだ料理を作りたい人にはかなりおすすめです。
実はシェフレピでは以前にもRestaurant Toyo Tokyoの大森シェフに牛ホホ肉の赤ワイン煮込みのレシピを提供いただいたことがあり、今回赤ワイン煮込みは2回目の登場となっていました。
大森シェフはフレンチシェフ、仲本シェフはイタリアンシェフと専門分野の違いはあれど個人的に同じ赤ワイン煮込みにここまで違いが出るのかという印象を受けました。
・赤ワインに漬け込む?漬け込まない?
フレンチの一般的な作り方では、肉を煮込む前に赤ワインに肉を漬け込むという工程を行います。(一般的には臭み消しのために赤ワインに漬ける工程を入れることが多いです)(大森シェフのレシピも同様)
一方で、仲本シェフのレシピでは肉は漬け込まずにそのまま焼いて煮込んでいきます。
食材の質が良いからそもそも赤ワインで漬け込む必要が無いという考え方もあると思いますが、仲本シェフのレシピは正式には「ぺポーゾ」という名前の煮込み料理で黒胡椒(ホール)と共に煮込むのでそれが臭み消しの役割を担っているのかな?とも思いました。
(煮込みを食べるときに口の中で弾けるコショウが最高に美味しいです)
・トロみ付け方法の違い
フレンチの一般的な作り方では、最終的にトロみ付けを「ブールマニエ」もしくは「ルー」で行います。(大森シェフのレシピも同様)
一方、仲本シェフのレシピではトロみ付けをするという工程が必要ありません。
(そのおかげで限りなく再現性の高い赤ワイン煮込みを実現してくださっています(嬉しい))
もちろん肉を焼く際に小麦粉を付けて焼く時の小麦粉がソースに溶け出てトロミの素になるというのはありますが、その他には肉から出るゼラチン質くらいです。
仲本シェフのレシピでは加えるトマト缶やほぐした肉からでたゼラチン質が旨味だけでなくトロみの役割も担ってくれているのも印象的でした。
・煮込み加減の違い
仲本シェフと大森シェフの赤ワイン煮込みの比較は、
肉を食べさせたいのか?ソースとして美味しくしたいのか?
という目的地の違いから調理工程(煮込み加減)を変えるというのが非常に分かる最たる例だな。と思いました。
仲本シェフはパスタ料理のソースとして、大森シェフは肉料理として、
そもそも赤ワイン煮込み自体をソースにするという発想があまりなかったので面白かったです。
そう考えると牛ホホ肉の赤ワイン煮込みのリエットとか美味しそうだなとか思ってしまいますね。
同じ牛ホホ肉の赤ワイン煮込みという料理でも、目指す目的地(どう食べさせたいのか)というところで大きく料理の内容が変わるという事例を体験できて正直これだけで満足です。
どこがどう違って、何がオリジナリティなのか、なにを求めているかを考えて食べたり作る料理はまた一味違いますね。
魚の片面はソースの旨みに、もう一方はふっくらと
「私は、私がイタリアで見てきた料理を作り続けていきたい」とインタビュー記事でもおっしゃっている清水シェフですが、まさに今回の料理もイタリアらしい料理のレシピを提供くださりました。(僕はイタリアを知らないので勝手にイタリアらしいと思っているだけです)
その中でも面白いと思ったのが、魚を丸ごと火を通すときにポイントとしている「絶対にひっくり返さない」というところです。
魚の片身は、常に蒸気だけでやさしく加熱しふっくらと仕上がり美味しい魚の身要員として活躍。
もう一方の身は、常に身がソースに浸って高熱にさらされているので、身自体は火が入りすぎてボソボソになるのですが、そこから出た旨みはしっかりソースに活かされていてソースの旨み要員として活躍。
魚1尾の中でもちゃんと役割分担をさせ、1尾丸々調理する理由をちゃんと作っているのが思い面白かったです。
魚の頭も全部一緒に煮てできたソースはそりゃ美味しいですよね。
もし実際にシェフレピで作ってくださった方で読んではる方いましたら、パスタを乾燥のショートパスタにしても美味しく食べられるのでご自宅でもう一度作ってみてくださいね!
パスタに使う粉の配合により食感の調整、茹で具合での食感の変化
グアンチャーレからつくるアマトリチャーナ ニョッケッティ・サルディ
関口シェフに提供いただいたレシピが唯一、今回シェフに提供いただいたレシピの中で二種類以上の小麦粉をブレンドするレシピとなっております。
シェフレピの動画のなかでは、小麦粉の種類についてや、なぜその配合のしたのか?など丁寧に説明くださっていてとても勉強になりました。
中でも自分自身でも調べてみてなるほど!となったのがパスタ生地を作る際に熱湯を使用する点です。
デンプンは、水温によって特性が変わるということを今までなんとなく感覚的にはわかっていましたが、ようやくある程度の理解を得ることができました。
デンプンは、冷水に混ぜても、限られた水分だけ(約30%)をゆっくり吸収するだけで底に沈澱してしまいます。
例:水溶き片栗粉のような状態。
水温がある一定以上の温度帯(デンプンの種類によるが50〜60度が一般的)に達すると、デンプンの構造の一部が崩壊し、大量に水分を吸収しデンプンと水が混じり合った構造になるようです[1]。
それで今回はパスタ生地を作るときに熱湯を加えたのか!とより納得感を得ることができました。
そして、グアンチャーレが自宅でも手作りできるレシピを関口シェフが提案してくださったのも個人的にすごく嬉しいなと思っていて、理由としては、このベースの知識(レシピ)さえあれば安全に自分の好みの手作りグアンチャーレが作れるというところにあります。
今月から全てでは無いですが亜硝酸塩など手に入れにくい食材は商品ページの食材リストにリンクを飛べるようにしているのでご自身で食材を集めて重要なポイント(衛生、塩分、重量、亜硝酸塩)はしっかり押さえつつ、自身のオリジナルレシピで例えば山椒を効かせたものを作ろうであったり、もっとスパイシーなものを作ろうとか色々トライしてくれると面白いなと思っています。
時間はかかるけど作り方はシンプルで自分好みにカスタマイズできるレシピは個人的にすごくありがたいですね。
シェフが提案してくださるレシピの中で、どの要素が固定値(亜硝酸塩の割合、塩分濃度、衛生管理、重量の推移)でどの要素が変数(スパイス、ハーブ)になるのかを整理しながらシェフのレシピを料理するとより深く料理を楽しめるとと思いますので、是非トライしてみてください。
そして、前述の粉の配合やグアンチャーレの作り方については動画を見ていただけると学べる内容になるのですが、個人的に学びになったことがニョッケッティ・サルディの茹で具合でどんどん食感が変化していくところです。
ごめんなさい。この食感の変化がなんとも言語化しづらいので是非作った方は茹でる時間を変えてみて食感の違いも楽しんでみてください。
最後に
最後まで、読んで下さりありがとうございます。
料理は深く考えれば深く考えるほど楽しいので色々考えながら作ると上達も早いです。
少しでも料理の楽しさが伝われば嬉しいなと思います。
おわり
あ、一応シェフレピを知らない人向けにシェフレピのリンク貼り付けておきますね。
参考文献
[1] マギーキッチンサイエンス 食材から食卓まで 、Harold McGee、共立出版、p593.
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