男性は女性にデート代を奢らない方が社会のためになるかも知れない
大学のレポートのトピック何について書こうかなーと思っていたとき、ちょうどTwitterで「奢り奢られ論争」が盛り上がっていて、面白いので自分の考えを含めてレポートにまとめてみたいなと思った。で、実際にレポートにしたんですが、せっかく一生懸命書いたので、ブログという形でも公開しようと思った次第です。
結論としては、男性がデート代を奢ることはジェンダー平等を実現していく観点から見ると、望ましくない結果を招く可能性があるため、むしろ奢るべきではない。
個人的な価値観の話
とまあ、それはそれとして、個人的な価値観の話を先にしたい。ぼくは一貫して奢りたくない派なんですけど、「食べたら食べた分を食べた人が支払う」というのが普遍的大原則だと思っている。たぶんここまでは異論ないところだと思う。だとすると、そうでなく負担を肩代わりするのならば、それに対応する合理的な理由が必要ということになる。そうなると考えられる理由は以下のようなものが考えられる。
両親の影響で女性に対して保護し優しくすべきであるという教義を持っている
支払いを引き受けることで、自身の経済力を誇示したい
支払いしている分、女性側にサービスを求めている
1に関しては、そのような教義を受け継いでいない。うちの両親はぼくにそのようなジェンダーバイアスを教え込むような愚かなことはしなかった。2については、経済力を誇示して自身の魅力を誇示する行為は、高年収アピールや高級ブランド品武装などと同様に、恥ずかしい行為だと思っている。3、デートはともに楽しむ場であって、一方的に楽しませてくれることを求めてはいない。
一方、男性は奢るべき派の女性側の主張して代表的なものは、デートにかかる費用、つまり美容院に行ったり、化粧品を買ったり、ネイルサロンに行ったり、また朝早くからデートに向けて準備する時間など、男性に可愛く見せるために、多くの負担を引き受けているのだから、その分に相応するデート代を男性が負担するのが当然である、という考えだ。
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この主張は反論する価値すらない暴論なのでこれまで無反応を貫いてきたが、簡単に述べるなら、自身の利益のために行う努力の負担を他者に肩代わりさせたい、などという主張がまかり通るわけがない。これが通るのならば、男性の努力にかかるコストを女性が肩代わりすることも同様に正当化される。男性の努力の度合いに応じて、女性も男性に奢らなければならないわけだ。が、そんなこと誰もしてない。よって論理が成り立っていないのは火を見るより明らかである。
ということで奢る理由が何一つないのである。
客観的な話
個人的な価値観の話をしたところで、あ、はいそうですか、じゃあ奢らなければよろしいんでは?はい論破ー、で終わってしまうので、客観的な話をしていきたい。
Benevolent Sexism(慈悲的性差別)
「デート代を男性が全て支払うべきである」という価値観の背景にあるものとして、benevolent sexism、慈悲的性差別という概念がある。これは、Susan Fiske氏により提唱された2種類の性差別のうちの一つで、「女性は男性によって保護されるべきである」「女性は弱くて自立していない」のようにみなす、伝統的な思い込みに基づいた行動体系のことを指す。例えば、女性の代わりにドアを開けてあげたり、重い荷物を持ってあげたりという、一般に「レディーファースト」と言われている行動全般がこれに当たる。
一見して、好意的に見えるため、差別だとは捉えられにくいが、無意識・無自覚な差別を助長していると言われている。
性別ごとの奢りに対する意識
Money and SurveyMonkeyの調査によると、回答者(アメリカ国内、4,447人)のうち、「男性がデートの費用は男性が支払うべき」に「Yes」と回答した男性の割合は85%、女性は72%となっている。
また、日本の内閣府の令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果によると「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」に「そう思う」「どちらかと言うとそう思う」と答えた割合は、男性が37.3%、女性が22.1%となっている。
これらの結果から分かることは、アメリカ・日本ともに、実際には女性が男性に支払ってもらうことを望んでいるよりも、むしろ男性自身が支払うべきだという義務感を持っていることが分かる。調査方法が違うので一概には言えないけど、アメリカと日本の数字が50%近く差が出ているのも面白い。
世代別に見ると、どの世代をとっても男性の方が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答している割合が高く、特に世代が上になるほどにその割合が高くなる傾向があり、これは昨今のジェンダー平等の価値観の普及により、男性の役割についての考え方が変化しつつあることを示唆している。
奢り・奢られの意識の背景
ではなぜ男性は支払いを引き受けることを望んでいるのか。冒頭でも少し述べたが、男性自身がデート費用を負担することを肯定する理由して、代表的なものは2つある。一つは、家庭教育として親から女性尊重すべきという価値観を教えられ、それを信条としているもの。もう一つは、デート費用を負担することは経済力を示すための方法であるというものがある。実際に、Janet Leverらの研究の中で、回答者のコメントとして「紳士として育てられ、女性はお姫様のように扱うべきであると教わった。chivalry(女性尊重の礼節)を信じているので、通常は自分が支払うことが多い」や「女性に対して自分が経済的に安定していることを示すことが出来るので、自分が払ったほうが良い」というものが紹介されている。
逆に、冒頭でも述べたが、女性が「男性がデート費用を支払うべき」と考える根拠の代表的なものは、「デートの準備にかかる女性の費用や時間の負担(化粧品など)は男性に比べて大きい。したがって男性はそれを金銭的に肩代わりすべきである」というものである。この、一般に女性の費用負担が高価であることのことはPink Taxと呼ばれている。
一方で、デートで男性に支払ってもらうことに対して否定的な意見としては、Janet Leverらの研究の調査結果によると、18〜65歳の女性のうち、32%が「自身もデートに支払いをした場合に、性的行為の期待へのプレッシャーが軽減される」と回答しているデータがある。これは、支払いを男性側に持たせることによる不公平感の代償として性的行為に結び付けられるリスクを回避したいという意図があることが分かる。性的行為とまでは言及せずとも、ぼくも実際に「おごられることによって借りを作られている感じがイヤだ」という意見は何度か聞いたことがある。
慈悲的性差別がジェンダー平等へ及ぼす悪影響
Vescioらの研究では、社会人求職者と大学生を対象に、就職試験のシミュレーションとして、論理思考パズルのテストを実施した。2つのグループに分け、一方のグループに同僚男性の態度は慈悲的性差別(benevolent sexism)的であることを説明し、もう一方には敵対的性差別(hostile sexism)的であることを説明した。その結果、慈悲的性差別的の説明をしたグループの方が、論理思考パズルのテスト結果が低かった。このことは、男性の慈悲的性差別的な態度が、女性の意欲やタスクパフォーマンスを低下させている可能性があることを示している。
他にもKim Elsesser氏の記事(Who Should Pay For Dates? How Chivalry Contributes To The Gender Pay Gap)で以下のような複数のネガティブな関係性に言及されている。ちなみにこの記事は慈悲的差別と女性の社会進出についてよくまとめられていて、正直これ一本読めばぼくの言いたいことは全部書いてある。ぼくの言うことの信憑性が疑わしければこっちを読んでくれ。
恋人は女性尊重を重んじる男性であるべきだと信じている女性は、そうでない女性に比べて、キャリアに対する願望が低い
慈悲的性差別に晒された女性は、大学で女性教授を増やす請願書に署名をする確率が低くなる
職場で男性マネージャーは女性対して批判的なフィードバックをすることを避ける傾向あり、また難度の高いタスクを女性に振り分けない傾向がある、これらは実力を身につけていきたい女性の妨げになっている
ジェンダーギャップと奢り関する意識の比較
以下の散布図は、Georgetown Institute for Women, Peace and Securityによる米国WPS指数という女性の包摂(経済的、社会的、政治的)、正義(法の保護、差別的な規範)、安全保障(DV、コミュニティ内での安全)など、州別に、いわゆるジェンダーのギャップをスコア化した指標と、EliteSinglesというオンラインデーティングサイトの統計による、「最初のデートでは誰が費用を支払うべきか?」に「男性が支払うべき」と答えた割合をプロットしている。
相関係数は-0.753で、米国WPS指数と「男性が支払うべき」と答えた割合ははっきりとした強い逆の相関を示しており、「男性が支払うべき」という価値観が根強い州ほど、ジェンダー平等の定着が遅れていることを示している。
結論
男性がデート代を支払う行為に代表されるようなレディーファーストの文化、言い換えるなら慈悲的性差別的な行動は、一見して女性にとってメリットのあるものである。しかし、実際には女性の権利や社会進出を妨げる要因になっている可能性があり、大局的・長期的に見ると女性にとって不利益をもたらしているかも知れない。したがって、男性はデート費用を全て負担することで、自身をよく見せようとする願望に捨て、あえてデート費用を分割することが、本当の意味で性差別を減らし、女性を尊重することであると理解し、行動した方がいいかも知れない。
知らんけど。
参考文献
Money and SurveyMonkey, https://money.com/valentines-day-men-pay-first-date/, 2023-02-23
令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果, https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/seibetsu_r03/01.pdf, 2023-02-24
Here’s why men should still pay for the first date, https://www.michigandaily.com/opinion/columns/heres-why-men-should-still-pay-for-the-first-date/, 2023-02-23
Who Pays for Dates? Following Versus Challenging Gender Norms, https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2158244015613107#articleCitationDownloadContainer, 2023-02-24
Gender and Work, https://www.hbs.edu/faculty/Shared%20Documents/conferences/2013-w50-research-symposium/glick.pdf, 2023-02-25
US Index, https://giwps.georgetown.edu/usa-index/, 2023-02-25
New Study: Who Should Pay on a First Date?, https://www.elitesingles.com/mag/relationship-advice/who-should-pay-for-date, 2023-02-25
Who Should Pay For Dates? How Chivalry Contributes To The Gender Pay Gap, https://www.forbes.com/sites/kimelsesser/2020/02/12/who-should-pay-for-dates-how-chivalry-contributes-to-the-gender-pay-gap/?sh=6561ff5e3fa3, 2023-02-25