【動揺 #11】
「どうして…嘘つくの…」
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(前回の【疑惑】からの続き)
朝…
目が覚めると、
妻はもう起きていた…
いつもと変わらぬ…
コーヒーのいい香り…
(起きてくれてた…)
私は、安心した。
だが…
「おはよう。」
「・・・・・」
返事がなかった…
聞こえなかったんだと思い、
声のトーンを上げて…
「おはよ!」
「………おはよ。」
応答が遅かった…
いつもと同じでない状況は、
すぐに悟った。
私は、
なんとか平静を装い…
食卓へとついた。
新聞へと目をやり…
動揺を隠していた。
(昨晩、帰りが遅くなったことをまずは謝らないと…)
「昨日は、遅くなってごめん。」
「………。」
彼女は、
全く目を合わそうとしなかった。
完全に、
私を避けていた。
何を言っても…
何を聞いても…
会話にならない。
諦めて、
そのまま新聞に目を落とした。
その時…
彼女が突然、
思いつめていたものを吐き出すように…
口火を切った。
「ねえ…本当に電車に乗って帰ってきたの?」
「あ…あぁ…。」
「嘘、言ってないよね。信じていいのね。」
「あぁ…いいよ…。」
私は、
嘘を通すしか術はなかった。
嘘がバレているとも…
思っていなかったし。
でも、
私の答えにも自信のなさが…
にじみ出ていた。
「行ってきます。」
「・・・・・」
何とも気まずい二人…
私は、
早くその場から逃れたかった…
彼女から逃げたかった…
また、
何か聞かれやしないかと…
私は、
小走りに駐輪場の方へ向かった。
そして、
いつもの場所に自転車がないことに気づく…
「あっ!駅に置きっぱなしだ…
今日はバスか…仕方ない。」
すぐに気をとり直して…
「寒いから暖かいバスで。
ゆっくりのんびり行こう。」
もう…
頭には彼女との朝のことは、
すっかりなくなっていた。
バス停に向かう私…
気持ちは仕事へと向いていた。
そんな私の姿を…
バルコニーから彼女は…
じっと見ていた。
おそらく…
涙を浮かべて。
バスが停留所にやってきて、
私は足軽に乗り込んだ。
暖房の効いた車内は、
最高の心地を与えてくれた。
(自転車じゃなく、やっぱり冬はバスがいいな~)
のん気なことを考えていた。
しかし、
そんな気持ちは、
次の瞬間に…
一転する。
奈落の底に…
私の携帯電話に…
メールが届く…
たった3文字に…
凍りつく。
「嘘つき」
(つづく…)
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