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【場所 #9】


もう…
ずいぶん前の話です。

つき合って…
3ヶ月ぐらい経った頃でしょうか。

その日の二人は、
週末のデートを楽しむはずでした。


いつものように、
彼女が待つ家に車を走らせ…
ドライブを楽しむはずでした。


家の前には、
いつものように…
先に待っててくれていました。


彼女を助手席に乗せ…
いつもと変わらぬ二人でした。


突然…
彼女が友人の話を切り出したんです。

私も知る…
共通の友人の話です。


すると…
その友人への思いや、
友人に対する考え方で、
二人には大きな隔たりが生じていました。

その差異が…

口論のきっかけとなるのに、
時間はそれほどかかりませんでした。


つき合い始めた頃には、
こんなことぐらいで、
喧嘩になるはずもなかったのに…


よくもって3ヶ月…
いつものパターンかと…
そんな思いがよぎっていました。

「何だか…変わったな。」

こう思うと止まらない…
負の連鎖。

「車を止めて!もう降りるから!」

彼女はせきを切ったように…
そう声を荒げました。

私は、
車を路肩に寄せて…
まるでサイドブレーキに気持ちをぶつけるように思いっきり…

彼女は少しためらいながら…
車から降りていきました。


私も…
彼女を呼び止めることはしませんでした。

一瞬で…
心が離れていったような…
そんな感じでした。


立ちつくす彼女を、
そのままそこに残し…
アクセルを強く踏みこんで…


バックミラーを確認することなく…
もう冷静さを感情が押し潰したように…


私は、もう…
終わったと思いました。


あっけなく…
感じました。


好きなのに…
自分から嫌いになろうとしている…

悪い方へ…
悪い方へ…
自分を追い込んでいきました。


ちょっとしたことを…
包み込むことすらできない、
そんな小さい私でした。


車を走らせる目的も、
そして、
喜びもなくした私は…
ある場所に向かっていました。


浜辺へ…


二人の場所に…
行きたくって…


一人浜辺で、
真っ赤な夕日を…
ずっと、
眺めていました。


何度も…
バイトの帰りに、
彼女と一緒に…
肩を寄り添って、
眺めていたこの海を…


いつもと変わらぬその光景に…
もう彼女の影はありませんでした。


眩しい笑顔も…
透き通る肌も…


急に涙があふれて…
止まりませんでした。

「ごめんな…」

あらためて…
彼女の存在の大きさを知ったんです。


抱きしめたかった…
もう一度、
この場所で…。

(カチン!)


私の座る横に、
突然!
小石が飛んできた…


振り返るとそこには…
堤防の上に座って、
彼女が微笑んでいました。


真っ赤な夕映えに染まる…
彼女の姿はきれいでした…
そして、
愛しかった。

車から降ろされた彼女は、
1時間ほど歩いて家に戻り、
すぐに私の実家に電話をしたんだとか…

(車を降りたことを、後でかなり後悔したと…笑)


しかし、
私は家には戻っていなかった…

それを知った彼女は、
すぐにピンときたようです。


あの場所にちがいないと…


二人の場所だから…
大切な場所だから…


一つまた…
二人はハードルを越えました。

今となっては、
懐かしくも、
笑える話です。


いや、
今…私たちがあるのは、
この場所のおかげかもしれません。


戻れる場所があったことに…
感謝してます。

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