【一本の電話 ~ココロノキズ①~】
「ねえ…大丈夫?」
妻のその言葉を聞いて、
私は我に返りました。
日曜日の家族団欒の時間…
夕飯の準備をしてくれて、
ちょうど食卓につこうした午後6時ごろに、
携帯電話のバイブレーションが…
まるで怒っているかの如く激しく。
電話の主は会社の上司からでした。
電話を切った後…
顔から血の気がなくなっていたのかもしれません。
「…何かあった?会社から?」
「ごめん、今から会社行くわ。」
部屋着から慌てて仕事着に着替え、
私は妻と子供の顔を見ることもなく…
いや、見ることもできずに、
家を飛び出していきました。
日曜日の夕刻は、
朝のラッシュ時と違い…
とても空いていました。
家族連れが家路に帰るのでしょう…
一日の楽しい思い出に浸っているようで、
一緒に…
そして同じ場所に帰る家族を横目に、
私はただ揺られて会社に向かいました…
心を家に置いたまま。
地中に潜る電車の窓は、
私の気持ちに追い打ちをかけるように黒く、
車両は沈んでいきました。
駅から徒歩5分程度で着く距離なのに…
もう30分ぐらい歩いたように思います。
帰ろうと思った…
でも、ここで逃げたら…
もう二度と会社には行けなくなることは、
私でも分かっていました。
(続く)
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