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【世界の健康経営レポート】オランダが掲げる「ポジティブヘルス」とは

こんにちは!アツラエnote編集部、UXプランニングチームの山下です!
今回は「世界の健康経営レポート」と題して、さまざまな分野のビジネス情報に精通する情報コンサルタントとして活躍されている菊池健司さんに、健康経営に関わる世界の最先端情報をお聞きしました。「オランダ」というとチューリップや風車など美しい景観を思い浮かべるかもしれませんが、デジタルを活用したヘルスケア先進国としての側面があります。今回はそんなオランダ発の新しい健康概念「ポジティブヘルス」の動きについてお届けします!


プロフィール

株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク 菊池健二氏


菊池健司

株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク(MDB)でエグゼクティブ・フェローを務める。ラジオNIKKEI「ソウミラ〜相対的未来情報番組」でパーソナリティとしても活躍中。

2040年には日本以上の長寿国が現れる?

WHO(世界保健機構)が発表する2023年版の世界の国・地域別の平均寿命ランキングによると、日本人の平均寿命は男女合計で84.3歳と世界1位となっています。2位はスイスの83.4歳、3位が韓国の83.3歳と続き、世界全体で見た平均寿命は73.3歳となっています。

さらに同レポートでは、病気や怪我によって健康ではない状態の年数を差し引いた「健康寿命」のランキングも発表されており、第1位は同じく日本の74.1歳、2位はシンガポールの73.6歳、3位が韓国の73.1歳と続いています。

現時点において平均寿命・健康寿命ともに世界1位の日本ですが、将来的にはこの傾向にも変化が訪れるのではないかとする予想もあります。例えば、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の支援で2007年に設立されたIHME(保健指標評価研究所)のレポートによると、スペインの平均寿命は2040年までに85.8歳に伸びて日本以上の「長寿国」になるといった可能性が示されています。

同レポートではスペインが長寿となる理由については明確に述べられていませんが、要因のひとつとして考えられるのが、野菜や魚や果物など地中海性気候が育むバランスの取れた食生活を挙げられるでしょう。また、スペインでは国の方針としてヘルスケアシステムへの国民のアクセスを保障しており、これが健康の増進に影響しているのではないかとも推測されます。

また、EU地域において特に注目したい国がオランダです。スイスの国際経営開発研究所(IMD)は、昨年11月に「世界デジタル競争力ランキング」の2023年版を発表しましたが、デジタル技術をビジネスや社会変革の原動力として活用している国として、オランダは1位のアメリカに次ぐ第2位にランクインしました。ちなみに、同ランキングで日本は2017年の調査開始以来最低の32位に後退しています。

日本の厚生労働省が発表している「令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」(https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/01-02-01-01.html)によると、日本の平均寿命と健康寿命の推移は男女ともに増加傾向にあります。しかし、世界ではデジタルを活用したヘルスケア施策で平均寿命と健康寿命の増進を図る動きがあります。


デジタルの力で健康を推進するオランダ

デジタルの力で健康寿命を延ばすことを国家プロジェクトとして推進しているオランダでは、どのような考えに基づいて施策を進めているのでしょうか。さまざまな観点がありますが、その中でも2017年頃から注目されているのが「ポジティブヘルス(ポジティヴヘルス)」という健康に対する考え方です。

ポジティブヘルスは、オランダの家庭医で研究者のマフトルド・ヒューバー(Machteld Huber)氏が2011年に英国の医学誌に発表した論文で提唱した健康に関する新しい概念です。同論文では、ポジティブヘルスのコンセプトについて「社会的、身体的、感情的な課題に直面して適応し、自己管理する能力としての健康」のように説明しています。

そのままでは分かりにくい表現ですが、ヒューバー氏は「健康」を単に病気や障がいがない状態を指すのではなく、どのような状況においても個人が主体的に周囲のサポートを得ながら前向きに人生を歩むための「能力」だと捉え直したのです。ここには近年注目される「ウェルビーイング」との共通性を見出すこともできるでしょう。


ヒューバー氏は、ポジティブヘルスの考え方を発展させ、「身体の機能」「精神的幸福感」「生きがい」「暮らしの質」「社会参加」「日常の機能」という6つの軸で自分の健康観を把握できるチャート(https://www.iph.nl/)を考案。


ヘルスケアデータを活用したポジティブヘルスを目指す

ポジティブヘルスという新しい健康観のコンセプトは、自助・共助・互助・公助の連携を重視するオランダの社会政策にも次第に受け入れられるようになり、官民の共同による医療ITインフラの構築にも一役買っていると考えられます。

さらに近年は、ヘルスケアデータ測定の機能を持つApple WatchやFitbitなどのウエアラブルデバイスの進化もあり、現在オランダではヘルスケアデータは病院や専門機関内での共有に留まらず、本人の同意を得たホームドクターや専門医、看護師や薬剤師などの医療関係者がアクセスできる環境が整備されています。

個人のヘルスケアデータを専門家と安全に共有できるプラットフォームにより、定期的な健康診断だけでは把握しきれない病気リスクの早期発見につながるでしょう。また、仮に病気や障がいを得たとしても個人と専門家と社会が連携して前向きに健康を維持していくというオランダの取り組みは、健康経営に取り組む私たちビジネスパーソンにとっても大いに参考になるでしょう。


参考リンク

https://jpn.nec.com/press/202303/20230331_01.html

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000685923.pdf