信託型SOの「出し直し」において社外協力者を含む場合の金商法上の開示規制
はじめに
信託型SOの税務上の取扱いに関して国税庁の解釈が示された(行使時点における経済的利益が給与課税として課税される旨の解釈が示された)ことで、信託SOの「出し直し」(税制適格SOを発行する)を検討しているスタートアップも少なくないと考えられる。
「出し直し」の性質上、付与対象者が多くなる可能性がある。
また、信託SOは社外協力者へのインセンティブプランとして活用されていた実務もあるため、付与対象者に社外協力者が含まれる場合がある。
その際、SOの付与対象者が50名以上であり、かつ、社外の協力者が含まれる場合には、開示規制がかからないように慎重に対応する必要がある。
そうでないと、将来のIPO審査などにおいて、有価証券届出書の提出漏れが問題視される可能性がある。
SO発行と金商法上の開示規制
SO(新株予約権)は金融商品取引法(金商法)上の「金融商品」に該当する(金商法2条1項9号、2項柱書)。
そのため、SOの発行については、本来、金商法上の開示規制が問題となる。
この点は、スタートアップが上場しているか否かに関わらない。
未上場のスタートアップのSO発行実務が、あくまで「少人数私募」や「ストックオプション特例」が適用されるように設計されていることにより、開示規制がかからないようになっているという建付けを意識する必要がある。
少人数私募
まず、少人数私募に該当する場合は開示規制がかからない。
金商法のルール上、(新株予約権の発行が)少人数私募に該当するかは、「50名」が基準となる(金商法2条3項1号、2号ハ、金商法施行令1条の5、1条の7第1号)。
裏からいえば、SOの付与対象者が50名以上となる場合は、少人数私募に該当しないことになる。
そうなると、新株予約権の「募集」に該当し、原則として、金商法上の開示規制がかかることになる(プロ私募や特定投資家向けの私募に該当するとは考えられないため)。
そうすると、後述する「ストックオプション特例」が適用されないと、開示規制がかかることになる。
通常の税制適格SOの発行実務では、複数回に分けてSO付与が行われるため、一回の付与対象者が50名以上となることはさほどないであろう。
しかし、信託SOの「出し直し」の場合、それまでのポイント運用に基づき、役職者に一括してSOを付与することになると考えられるため、スタートアップのフェーズや組織規模などによっては、付与対象者が50名以上となる可能性もあり、注意が必要である。
ストックオプション特例
少人数私募に該当しない場合でも、開示規制を回避することはできる。
金商法が「ストックオプション特例」(金商法4条、金商法施行令2条の12第2号)を用意してくれており、この特例を満たす形でSOを発行すれば、開示規制はかからないとされているためである。
注意が必要な点として、条文上、新株予約権の付与対象者に社外協力者が含まれる場合、「ストックオプション特例」が適用されない点である。
企業内容等開示ガイドライン4-2においても、あくまで「取締役等」のみを相手方として勧誘を行う場合に適用される趣旨が明示されている。
やや感覚とずれることは否めず、社外協力者が50名未満であれば開示規制を回避できると誤解しないようにする必要がある。
とはいえ、付与対象者が50名以上となる場合でも、社外協力者に対するSO付与の道が閉ざされているわけではない。
金融庁の出しているパブコメ(※)によれば、役職員に対するSO発行と、社外協力者に対するSO発行を別議案として決議すれば、「基本的には」開示規制にかからない旨の見解が示されている。
この回答に沿ってSO発行決議を行えば、開示規制を回避しつつ、社外協力者へのSO付与を実現することも可能であろう。
※金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等に対するパブリック・コメントの結果に係る平成23年4月6日付け金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」1~6頁2番~5番参照。
おわりに
実際にSOを発行する場合は、主幹事証券会社や外部専門家に相談することが適切であるが、特にSOの付与対象者が50名以上で、社外協力者も含む場合は十分に注意したい。
スタートアップ法務において、税制適格SOの付与はそこまで珍しくないプラクティスであるからこそ、うっかりと落とし穴にハマらないように注意する必要があるように思う。