フィリピンで起こっている信頼関係の破綻
フィリピンでは農家と卸売業者の信頼関係が破綻している。
信頼関係が破綻しているとはどういうことか。
フィリピンの農業を取り巻く環境で起こっている事例と、その背景をもって紹介する。
フィリピンの農業で信頼関係が破綻している事例
例えば、農家A、農家B、卸売業者1、卸売業者2がいたとする。
卸1はニンジンが欲しいため、農家Aにニンジン100kgを作るように注文する。
しかし注文後に卸1は農家Bからもっと安い値段で今すぐニンジン100kgを仕入れることができると知る。
卸1は農家Bからニンジン100kgを買う。
卸1は農家Aにそれらしい言い訳をしてニンジンが要らなくなったと伝える。
農家Aが作ったニンジン100kgの買い手がいなくなり、農家Aは大損をする。
今度は卸1が農家Aにニンジン100kgを注文する。
しかし農家Aはまた卸に裏切られるかも知れないと思い、ニンジン代の半分を頭金として入金するように依頼する。
卸1はニンジンが必要なので頭金として半額を入金する。
今度は卸2が現れて、農家に卸1よりも高い値段でニンジンを今すぐ全額払うので売って欲しいと伝える。
農家は過去に卸1に裏切られた経験があるので、今すぐ確実に現金が手に入る卸2との交渉に合意する。
卸1は頭金を入れたが、ニンジンが手に入らない。
農家はそれらしい言い訳でニンジンが作れなかったと卸1に伝える。
この裏切りが繰り返された結果、フィリピンの農家と卸売業者の間の信頼関係は破綻してしまっている。
なぜ裏切りが簡単に起こるのか
上記のケースでは以下の2つの裏切りが起こっている。
⑴ 卸1が農家Aからニンジンを買わずに、農家Bからニンジンを買ったこと。
⑵ 農家Aが卸1にニンジンを売らずに、卸2に売ったこと。
なぜ⑴が起こるのか。
原因は卸と農家の力関係にある。
卸の力が大きく、卸は農家を対等な取引相手として扱っていないのだ。
スペイン統治下のフィリピンでは地主・小作関係の農業が主流であった。
大地主が所有する土地で、土地を持たない農家が作物の生産をするスタイルだ。
農家は資本を持たないので、半ば地主の言いなりになるような形で農業をしていた。
つまり農家は地主から搾取されていたのだ。
近代化により農地改革が起こり、土地が農家に分配されたが、地主は卸売業者に形を変えて農家から搾取を続けている。
卸売業者と農家の関係には昔から続く力のアンバランス、搾取構造がある。
だから、卸は農家を単なる使い勝手のよい労働者としてしか扱わないのだ。
なぜ⑵が起こるのか。
原因は農家の貧困にある。
もちろん、裏切られたら裏切り返すという単純な図式もある。
しかし、力の弱い農家がやり返せばより状況が悪くなるのは明白だ。
それでもなぜ裏切るのか。
今日、明日の食事を考えることで精一杯なくらい貧しいことが珍しくないからだ。
このように貧しい状況だと、取引先との長期的な信頼関係よりも今日の飯が優先される。
結果として今日生きるために裏切る。
そしてこの貧困を生み出している原因は、かつては地主、今は卸にある。
このような状況は農家だけでなくあらゆる場面で起こっている。
フィリピン全体で信頼を構築しにくい状態ができてしまっている。
すると、前述のような状況が起こり貧富の格差はさらに大きくなる。
経済が発展しにくくなる。
この慢性的な信頼関係の破綻をどうしたら良いのだろうか。
貧困をなくす為には、このような複雑な根深い問題に向き合う必要がある。
決して、夢や希望というようなキラキラした言葉だけでどうにかなるようなものではないと感じた。