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#32 ボリビアと日本の映画:ラパスで、小津安二郎「東京物語」を上映しました
2022年10月11日_martes
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昨晩、ボリビアでのデザイン教育活動の一環で映画「東京物語」を上映した。
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配属先の職業訓練校(Instituto Atenea:グラフィックデザインコース)には上映会をできるような広い教室や設備もないので、1ヶ月ほど前から上映会に借りられる場所を探していた。カウンターパート(配属先のディレクター)やJICAボリビア事務所のスタッフの方に相談するも、なかなかいい場所が見つからず。プライベートで、たまに映画や展示を観にいくCentro Cultural de España en La Paz(スペイン文化センター)に問い合わせてみると、「コラボレーションできます」と、さらに無料で設備を使わせてくれる、との返事をもらえた。ラッキー!
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日本からDVDを持ってきたものの、スペイン語版でもスペイン語字幕も入っていなかったため、カウンターパートが「字幕のついたものを用意する」とデータを用意してくれた。
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Centro Cultural de Españaのスタッフの方たちはみんなやさしく、部屋の下見と、上映用のデータが問題なく動くかのチェックにも快く付き合ってくれた。さらに技術系のスタッフの男性は、「昔、日本語を勉強していたので少しだけ喋れる」という、少し日本びいきなこともわかり、心強い。いやー、ありがたいな、と私はイベントに向けて、簡単な解説の準備を進めていた。
すると、イベント一週間前になって、上映権云々についての問題が浮上。「今回のイベントは大使館とは関係ないので特に関係者が来て挨拶などは、ないですよ」と施設の担当者とやりとりをしていたところ、「じゃあ、上映の権利はどうやって取得したの?」と。おう。。。これはややこしいことになった。権利関係の問題は、ことが大きくなると大変なので、急いでJICA事務所、そして大使館に連絡し、経緯を話し、相談した。
上映権については配給会社が持っているので、そこで取り付けて、という流れが通常になるらしいが、大使館の担当の方が調べて下さったところ「東京物語」に関しては権利が切れて、パブリックドメイン(公に自由に使える)になっているので上映会は問題ない、との返事をもらえた。
ほっっっっっっっっっ。
難所を超えて、予定通り上映できることになったので、ならば、できるだけ多くの人に見てもらいたい、と大使館の方でも広報を手伝ってもらえることになった。災い転じて。
Centro Culutral de Españaにも、その旨を伝え、広報をしてもらう。
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その前の週には、他大学のグラフィック科の教授でもあり、ボリビアのグラフィックデザイン界では存在感のあるSusana Machicaoにもアナウンスをし、SNSで告知をしてくれていたので、迷惑をかけずにすんで、ほんとに、よかった、、、と胸を撫でおろす。
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上映できることは確定したが、果たしてどれだけの人が来てくれるのか?そして、反応はいかに??
淡々と進む、そして細かい描写で家族の姿を描く表現を、ボリビア人はどう受け止めるのか。「つまんないー」て、なるのか、その反応も楽しみではあった。
一般参加もできるが、基本的にはデザインを学ぶ学生向けに企画したので、上映前に「小津調」と呼ばれる、小津安二郎の画作りのルールをいくつか紹介し、そういった点に注意しながら観てみてね、ということと、なぜこの映画が、小津安二郎の作品が、世界的に高く評価されているのか、といったことを簡単に説明することにした。
ボリビア人が小津作品をどう受け止めるのか、、と思いつつ、先週金曜日の夜、私はボリビアの映画「UTAMA」を観てきた。
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海外で約30もの賞を取って凱旋帰国した作品、ということもあってか、お客さんもたくさん入っていた。この映画はボリビアの山の中、ケチュアの文化を継ぐ老夫婦の暮らし、頑なに土地の文化を守りながら生きる姿、死に向き合う姿、が描かれている。
まず画面の美しさ。空と大地とリャマ。俯瞰のショットが多く、その中で淡々と物語は進み、静かで美しい映画だなと感じた。これなら「東京物語」もけっこう、すんなり受け入れられるのでは?とか、頭によぎりつつ。
上映当日の月曜日、私は休日にしているので、ゆっくり過ごしてから夕方18時に会場へ向かった。18時まで同じ会場で別のイベントが催されているので、(そしてもちろん、ちょっと押す。)18時過ぎに向かうと、2人、年配の方が既に上映を待っている様子で、私に話しかけてきた。
スタッフの人と一緒に会場のセッティング。私は、用意していた映画の概要をまとめた紙を椅子に配置する。
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時間通りには集まらないのが、ボリビア。まばらな人の入りだったので、予定より10分押してからスタートした。まずは簡単に挨拶、と、「小津調」の説明をしてから、上映を開始。
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開始時は約15人ほど。若い子たちのグループもいたので(学内の生徒かどうかはわからないが)うれしい。途中から数人入り、合計20人ほどになった。もっと、がらーん、、、となるかも!と予想していたので、全然いい。
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二時間以上ある映画なので、途中で退出する人もけっこういるだろう、と読んでいたが、意外にも退席したのは2人だけで、あとは最後まで鑑賞してくれた。そして終わると拍手。(ボリビアでは映画館でも拍手が起こる。)
友人知人も数人来てくれていたが、はじめて会う人でもなかには「美しい映画だった!」「素晴らしい映画を紹介してくれてありがとう!」と、伝えてくれたり、思ったよりも反応がよく、うれしかった。私は単純に、ボリビアで、現地の人たちと、日本の美しい映画を一緒に観る体験ができたことがまずうれしく、共有できることの喜びって、やっぱり大きいな、と確認できた一日になった。
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ATSUKINO(アツキーノ)
2006年〜日本でグラフィックデザイナーとして働いた後、2013年に渡英。スコットランドの The Glasgow School of Art で修士号(Communcation Design: Graphic Design)を取得。帰国後はアートディレクター、キュレーターとしてデザインディレクションとともに現代アートの展示企画制作なども行う。海外での生活、旅を通じて得られる新たな表現や人との出会いが次の可能性につながると信じて動く、旅するデザイナーでありアーティスト。現在は南米のボリビア、ラパスにてJICAボランティア活動中。デザイン教育環境の改善にあたっている。
http://nakanoatsuko.com/
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