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蝕む

 楕円形の白いかがやきでは真っ暗な地上を照らすには少し心もとなくて、オレンジ色の光が何本も必要だった。

 スマホの光が布の隙間から這い出て、同時に太もも小さく揺らした。思いがけない通知。画面に映る、その名前に興奮を覚え、思わず声を出してしまった。
 もうすでに横たわっていた体を起こして、外に出る。さっきまで目を擦っていたとは思えないほどに体は元気だった。
 近くのコンビニが、3日後に改装のために閉店する。品揃えが良かったとは言い難かった店内は、見るからに肌寒くなっていた。最寄りの喫煙所として利用していた私はこれから一ヶ月程、20分の散歩を余儀なくされてしまう。
 二人分のお茶と安酒を購入して外に出ると、夏だということを思い出した。
 横断歩道で止まった二台の原付。「なんだか悪い事してるみたい」とはしゃぐ声。フルフェイスでは隠しきれない幼さが堪らなく愛おしかった。
 この街にもついにスターバックスができた。田舎だ田舎だと馬鹿にしていたあいつらの目の前で胸を張ってやりたい。一休みのために立ち寄った、すぐ近くのコンビニで大きな蛾に追いかけられて、蟻に首を噛まれた事は内緒だ。

 大きな通りを外れて、少し光が届かない場所へ。200m先のアパートの光を目指して歩く。

 彼はいつも「そのまま開けて入って」というが私は必ずインターホンかノックをする。それは私の存在を、今を、知るための確認作業なのだ。
 開いたドアの向こうの明かりは眩しいからすぐに消した。

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