見出し画像

<第56話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~

月曜日~金曜日更新
 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第56話>
奈良選挙区の候補者以外、みんな無事に告示日を迎え、その日に収録を済ませた人もいて、ぞくぞくと外国党のユニークな政見放送が放送されていた。
同時に数十、数百ものネット民によって拡散され、かつて地上波で概ねお年寄りしか見ていなかった政見放送が、我々の政見放送がそのまま、あるいは独自に加工・編集されネット内に溢れ始めた。
「こんな国政選挙は初めてだ!」誰もが口々に言う。
もう大地を揺るがしてる!


スターターピストルが宙に撃たれ、火薬の匂い漂う中、一斉にダチョウの群衆が堰き止められた厩舎から大草原へ駆け出したように。
土埃がまい、羽根が風に舞い、傷を負い、血しぶきが飛び、肉片が飛び散るのももろともせず、ただひたすら目的に向かってまっしぐらに突き進む。
そんな感覚をヒリヒリ感じていた。
全裸で。自宅で。
「あんたも脱ぎなさいよ!この部屋、クーラーないんだから暑苦しいのよ」
興奮してたかゑに言う。
さんざん警察を焚き付けておいて、性懲りもなくパンツを売りに来た。
今月のノルマもキツくてやっぱり来た。
外国党の快進撃に気持ちが高揚してついこの女を家の中へ入れてしまった。
「冷感触感の下着もご用意させて頂いておりますよ」
「要らないわよ。裸でいればいいんだから」
「裸でいるよりセクシーなレースのキャミソールでいた方がセクシーでいいと思うけどな~」すかさず被せてくる。
「要らない」と改めて語気を強める。
たかゑはしぶしぶ高級新商品を恨めしそう眺めている。


「とにかく私、外国党の政見放送を見なきゃいけないのよ。HPにも載せなきゃ!」
一刻も早く党のwowtubeチャンネルにアップされている政見放送を自分のHPに貼って拡散に務め、党に貢献したかった。
たかゑは帰るそぶりも見せず部屋を見まわして居座っている。
ジャン!
予告通り、カエルのマスクを被った男性候補者が「外務省をぶっ壊す!」とやった。
これは闘いの狼煙だ!
記者会見の時に記者たちから引っ張り凧だった美女候補がミニスカートで登場し「さあ、皆さんもご一緒に~外務省をぶっ壊~す!」と鬨の声を上げ、ただ時間いっぱいいっぱい使って「外務省をぶっ壊す!」と連呼する者、同じく時間全部をただ無言のまま消費した者、しっかり外務省の不正、悪行、改善点を練りに練って提案する者もいて、バラエティーに富んだ政見放送となった。


「麦茶でも飲む?」と声を掛けると「この人達って、電話番号が公表されてるのよね」と言ってきた。
「そうですよ。私と同じ」と言ってハッとした。
「ちょっと!私の名前出してパンツとか売りつけに行かないでよぉ?」
「住所も公表されてるんだね」とたかゑの目は座っていた。
行くつもりだ。
この女は本当に抜け目がない。
そっと麦茶のコップを差し出すと一転して「デヘヘ」と不敵に笑っていた。
今しがたアップされたばかりの政見放送を再生する。
外国党随一のインテリ候補者が悠々と法被姿で机に座っていた。
主張は私の言いたかった事を理路整然と説明し、たびたび原稿に目を落としながらわかり安く訴えた。


「我が国に対する歴史捏造を世界中に吹聴し、ありもしない性奴隷、南京大虐殺を既成事実化寸前まで放置し、我が国を貶める事だけを国是としているかのような支那朝鮮に対して一向に反論もせず、ただ国の行政機関という安住の地に胡坐をかいてきた外務省は即座に解体せねばならない!」と怒涛の如く熱弁し、最後に「NHK大阪放送局をぶっこわ~す!」とガッツポーズで締めくくって見せた。
圧巻である。


同じ外務省をぶっ壊す主張でもこうも知的にハイセンスに成せるものかと感服した。
これらを急いで自分のHP,ブログに貼る。
みるみるtwittelのタイムラインに「外務省から国民を守る党」や「外務省をぶっ壊す!」の文字が流れる。
「バズってる!バズってる!」
この熱気が持続されますように、ポカんとするたかゑの周りを生まれたままの姿で踊っていた。
いよいよ明日、三重選挙区、私の世紀の政見放送が解禁となる!

つづく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?