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<第54話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~

月曜日~金曜日更新
 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

<第54話>
「自殺?!」
「そうよ!そうに間違いない!!」
「せやな」
卓谷が腕組みして唸る。
中山はたぶんあの事故物件の隣の倉庫にやってきたのだ。
そして向かいに建つ未来荘に私の部屋の灯りを見つけ「覚悟」を決めた証として「イイネ」を利用したのだ。
ショップを通して、少なからず無縁ではない私に訴えるために。

「ヤバイ、どうしよう!どうしよう!」
どっしりと構える卓谷の横で、取り乱してしまった。。
「警察や、警察に言わなきゃ!」
「バカ!んな事したら、中山が井戸殺したのがバレるじゃねーかよ」
「でもー!」
「デモも街宣もない!」
「捜索願も出てないし、今の段階では疑惑にもなってねー!落ち着け!」
これが落ち着いていられる訳がない。
「わ、わかった。だから要するに、整理するとどういう事?」
「ま、俺の感なんだけど、建設業の奴なんかに聞くと、結構出てくるんだよ。骨みたいのが」
「ん」
「でもだいたい忙しいだろ?どんな現場もよ」
「いちいち警察呼んでたら納期に間に合わねぇー」
「だからそのまま、見なかった事にして練った生コンクリートをこうやって・・」
卓谷はコンクリートを地面にそそぐ動作をした。
「げ~・・・、でもありそう。」
「朝日新聞も遺跡保存義務のある土地を大蔵省の土地と無理やり騙して交換させてたもんね。そこに公務員住宅を建てろって」
「だから、もし花壇にさえ埋めれたら、自分がガッチリ管理して、市役所も保存して永久にバレずに・・・」
「自分は何食わぬ顔して地元で働き続けるって訳ね!」
「おう!奴が化石になるまでな」
なんかスゴい計画やな。大胆不敵というか。


気持ちがワナワナする。
「素人が考えそうなこった」
「必死で辻崎さんを虐める頭のおかしい男を演じていたんだね」
これを涙ぐましいと言わずになんというのか。
命の恩人を毎度毎度人目も憚らずになじるのは辛かったに違いない。
もし市役所を保存できなくなって掘り返された場合、どうするつもりだったのか?
骨が出ようと遺跡が出ようと無視して工事を続行するインチキ業者が落札する事に賭けたのだろうか?
中山に憐憫の情まで沸いてきた。
1回目から1907回目までクリックする間にどれほどの葛藤があっただろう?
「それで?」
「なんかの切っ掛けでその計画をあきらめたんだな、きっと」
「あれだ。巨大風車建設で船盛の保存への関心が薄れたからだわ」
そもそも諦めるも何もそうそう完全犯罪なんか出来るもんじゃない。
そんな事くらいは分かってた筈だ。
でも、ある時、園町代表の動画を見た。
「法律を破ってでも守らなければならない正義がある!」
このメッセージが中山の殺人を思い留まらせる枷にならなかったのは残念だ。
しかし、中山は私たち外務省から国民を守る党メンバーと同じく、このメッセージを精神的支柱としてしっかり背骨に刺し込んだ事には変わりない。
「だから全部抱えて自分も死んじゃうって事?」
「自分も死んで落とし前つけようとしてんじゃね?2人の死体が見つからない場所を探して今も彷徨ってるんじゃね?」
「簡単に言わないでよ!」涙で卓谷の顔が滲む。
「この国は拉致被害者すら取り返さねえー、三重県だってそうだろう?行方不明者があと2人増えるだけってな」
「そんなの許せない!!」号泣していた。
「だから落ち着けって!まだ何にも始まってねーし!疑惑にもなってねーし!俺たちの妄想にすぎん!」
そうは言っても、もうそれ以外考えられないようになっていた。
とにかく、中山の自殺を止めなければならない。
あと数時間で世紀の、渾身の、魂の、命がけの「外務省をぶっ壊す政見放送」をNHKのスタジオで披露せねばならない。
これこそが最大の最大のミッションなのだ!
「あー、あー。どうしよう!自殺なんかダメよ!」
大輔と実都子の人懐こい顔が浮かぶ。
「お前のショップは見てるんだから、ネットは見れる奴なんだろ?」
「うん。」
「あー、あれだ。お前んとこの代表にネットで呼び掛けてもらえよ」
「はぁ?何て説明するの?」
「まさか、このクソ忙しい時に、『私は殺人犯に疑われてて、それも猟奇の方で、今んとこ捕まってないのですが、本当にやった人が自殺しそうなので止めて下さい』なんて言える訳がないでしょ!」


「とにかく中山さんが死にそうだから死ぬな!って言ってもらえ」
「中山さんが目立っちゃうじゃないの!警察だって見てるかも知れないのに」
「それに今、奈良の候補者がドタキャンしたから代表、機嫌悪いのよ!」
「知るかよ!」
「お前のチャンネルで言え!」
「無理!過疎ってる」
また泣けてきた。
「じゃー、じゃー、えーっと!」
「政見放送!」「政見放送!」
2人して声が揃った。

つづく。

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