«戦術分析»ダービーで負けても笑顔連発の監督、スールシャール
マンチェスターダービー。イギリスの産業都市マンチェスターで繰り広げられ、140年の歴史を誇るダービーマッチだ。21/22シーズンのファーストダービーを終え、窮地に立たされた人物がいる。ユナイテッドの監督、オーレ・グンナー・スールシャールである。18/19シーズンから、ユナイテッドを自身が在籍したころのようなトップクラブに返り咲かせるべく、指揮を執っている。昨季は驚異的なカウンターを武器に2位でフィニッシュし、その成果は一定の評価を得てきた。しかしCR7をスカッドに加えて挑んだ今季、序盤の好調ぶりが早々に影を潜め、2節前のリヴァプール戦では本拠地オールドトラッフォードで0-5の大敗。すると息を吹き返したかのように翌節はスパーズ相手に3-0の快勝を収めた。ただスパーズはこのユナイテッド戦を終え就任から僅か半年も経たずにサックされることになったヌーノの下で苦戦していたということもあり、今節のシティ戦はユナイテッドにとって試金石となるダービーだった。
両チームの戦術初期設定
まず、ユナイテッドの守備を見ていきたい。主に5-3-2で守るシステムだ。シティがワイドに攻撃することは織り込み済みで、両WBと3MFの仕事は重要だった。また2トップが縦関係になっていることが分かる。プレス回数がリーグ最下位となっているCR7の相方、グリーンウッドは常にシティのアンカー、ロドリをマークしていた。
一方で、シティは4-1-5で攻める。ユナイテッドの5バックに5トップがそれぞれ位置取り、各々のタスクに沿ってレーン間、ライン間を移動していく。4バックはカンセロを除く3人が最終ラインに常駐し、カンセロは左ワイドから中央のレーンまで適宜自由に移動していた。
シティ:右サイドを攻めた理由
特に前半はチャンスのほとんどは右サイドからだった。まぁ、2得点とも左サイド起点だったが。しかし、見ていても明らかに右を攻めようとしていることが分かる。左サイドでボールを回し、機を見て一気にサイドチェンジを行う。それと同時にデブライネがワイドレーンに、それを見た右WGジェズスがシティの「同じレーンに攻撃選手は2人いてはいけない」という原則に従ってハーフスペースに位置取る。5-3-2の弱点、サイドチェンジの時に中盤3人のスライドが遅れることを利用して、デブライネに時間とスペースを与えることに成功した。そして、なぜ左ではなく右サイドなのか。理由はロナウドではないかと思っている。下図にもあるようにロナウドの位置が高すぎる。同じトップのポジションのグリーンウッドのポジションからしてもアンバランスにもほどがあった。
下図でも全く同じだ。右サイドのへのサイドチェンジが簡単すぎる。右サイドの方が明らかに侵入が楽な状況だ。いくらスーパースターでも最低限の守備はして欲しいところ。もう一つ下の図はシティの守備を映したもの。5-4-1のソリッドなシステムで、最前線のデブライネは常に中にボールを通させないように守備をしていた。この攻撃陣による守備の差は大きかったと思う。
下図でもロナウドの守備に疑問が残る。シティのビルドアップ局面の画像。左のワイドにはルーク・ショーがマーキングしに行っており、中のデブライネにマーカーはついていない。したがって、ロナウドのすべき仕事はデブライネへのパスコースを切ることだ。こういったところでノーストレスで突破されているところにもどかしさを感じた。
不発に終わったユナイテッドのカウンター
最後に、ユナイテッドのカウンターを振り返りたい。なぜうまく機能しなかったのか。表面的に見える理由は2つある。1つ目はユナイテッドの切り替えが悪すぎたということ。2つ目はシティのネガティブトランジション(攻→守)が良かった。
先ずはユナイテッドのポジトラについて。カウンターこそがユナイテッドの特徴であり、特に相手のポジトラに対して意識の高いペップが率いるシティを倒すうえでは不可欠要素だ。しかし、今節のユナイテッドに迫力のあるカウンターは見られなかった。下図はユナイテッドがボールを奪って3秒ほどたった時の画像だ。前方向に走りこんだ人は何人いるだろうか。パス供給役のブルーノは除いて、少なくとも両WBとMF、2トップは前方向に走っていた方が良い。攻撃陣が少ない分、なおさらだ。深さが無いのも問題である。シティがかなりアグレッシブに来ている分、厚みを作ってライン間を上手く利用すれば十分に可能性のある攻撃になるはずだ。しかし現状のユナイテッドにはそれを上手く利用するための土台、つまり形がない。
ここまで厚みが無ければシティもやりやすい。ボールがトップに収まれば、そこにめがけてみんなが一直線に向かう。ネガトラの鬼、シティにとってこの仕事は簡単すぎただろう。
ユナイテッドの選手たちを怠慢だと批判するのは良くない。心理的な側面もあったはずだ。ここまで強力なプレスをかけられたらどうしても怖さから前に出たくなくなる気持ちも出てくるはずだ。リヴァプール戦では積極的に言った結果、そこを逆手に取られて大量1点を喫していた。
ただ、勝ちたいのであれば勇気をもって前に出て欲しかったというのはある。
まとめ
ユナイテッドはこれからどうなるのか。ここ1カ月はそんなことを考えるようになった期間だった。戦術自体に脆さがうかがえるのに、クラブの幹部はダービーでの完敗直後のインタビューで笑顔が絶えなかった監督をサックする気が無い。戦力補強は積極的だが、獲得したタレントたちがそこにマッチしているとも思えない。サンチョ、ファンデベーク然り。ファーガソンが去ってから迎えた低迷期に終止符を打ち、再び輝く赤い悪魔を見たいものだが、この希望が叶うのはまだ先のことかもしれない。