«分析»「南野拓実・セインツでの役割」デビュー戦から考える
こんにちは。Atsudです。冬の移籍市場最終日にサプライズ的に南野のレンタル移籍が発表されましたね。そして南野を獲得したセインツはオールドトラッフォードでの歴史的大敗を経てニューカッスル戦を2月6日に迎えました。この試合は南野のセインツでのデビュー戦でもあり、日本では注目された一戦となりました。この試合の分析を通して南野のセインツでの役割や課題などについて考えていきます。分析だけ読みたい人は最初の方は飛ばしてください。
ハーゼンヒュットルと南野
先ず、南野のレンタル先がなぜセインツなのかについて軽く説明します。今回の移籍交渉に関してセインツの指揮官がハーゼンヒュットルであることは大きな影響を及ぼしました。ハーゼンヒュットルはセインツの指揮官になる前にRBライプツィヒで監督を務めていました。今はナーゲルスマンが率いていることで有名ですがライプツィヒの飛躍にハーゼンヒュットルは大きな役割を果たしています。彼はオーストリア人でドイツ語話者です。現役時代はドイツでプレーし、晩年はバイエルンのBチーム(ブンデス3部)でラームやシュバインシュタイガーなど、金の卵たちのリーダー的存在として貴重な経験をします。指導者になったとき縦に速いサッカーを志向してチームを率い、そのスタイルを理由にラングニックからライプツィヒの監督のオファーを受けました。無事就任した彼のもとでライプツィヒは飛躍的な活躍を見せ、バイエルン一強のブンデスリーガにインスピレーションを起こしました。ゲーゲンプレスでボールを即時回収し、縦に速いサッカーを志向するラングニック派閥のサッカーを好む監督です。ラングニックとの関係の悪化もあり、その後クラブを去ることになりますが、イングランドにそのエッセンスを持ち込むべく、セインツとの契約を交わしました。
南野とハーゼンヒュットルの共通点は①ドイツ語話者②RBグループ仕事です。南野はRBザルツブルクで5年プレーしましたからドイツ語は堪能です。そして何より二人ともRBグループのサッカーを得意とすることです。さらにハーゼンヒュットルはオーストリアのクロップと呼ばれるほどの人格者でもあります。
以上のように南野とハーゼンヒュットルの相性は良いことは分かったと思います。そもそも昨年の冬の移籍市場の時からハーゼンヒュットルは南野の獲得にポジティブでしたが圧倒的な資金力のあるリバプールが交渉レースに参戦したことで撤退せざるを得なくなったというエピソードがあります。
デビュー戦で見えた南野の役割
ニューカッスル戦では4-2-2-2の2列目の左に配置されました。
サウサンプトンは南野が過去に所属したRBザルツブルグと同じシステムを使い、南野はオーストリアと同じ位置に配置されました。
これから南野の各局面における役割を分析していきます。
ポジティブトランジション(守備→攻撃)
サウサンプトンがボールを持っていない時、南野は左サイドを中心に守ります。そこから攻撃に移るとき、いわゆるポジティブトランジションの局面はサウサンプトンの特徴が出るタイミングです。縦志向の速攻の中で南野がどのような役割を任されるのかは注目していました。基本的にボールサイドに寄って前線に繋ぐ役割でした。
先ずはサイドに集中して局面の中で縦の突破を試みます。相手もサイドに寄るので反対側のワイドレーンが大きく空きます。ここで南野は左サイドから中央に寄って反対側のワイドレーンに走るLSBに繋ぐことでボールを大きく前進させることができます。この方法はランパード時代のチェルシーなどでも用いられた戦術です。
上の場面でも中央に寄ってボールを受け前線に繋げるプレーが見られました。相手が左サイドからプレスを掛けた、というのとトランジションが連続していた状況だったので右サイドに集中していなかったため、ここでは右サイドにパスをしました。ポジティブトランジションでは南野はボールを前進させる中継地点としての仕事を求められていることが分かりました。
ボール保持(攻撃)
次はボール保持の局面における南野の役割を確認していきます。攻撃については2つの種類に分けて考えていきます。1つ目はビルドアップです。
ビルドアップでは左IHから中央のレーンを漂っています。チーム全体としては4-2-1-3の形をとっています。ここでも、ポジティブトランジションと同様に南野は前線にボールを送る役割を担います。
この場面では、3トップが相手の4バックを捕まえていますから、LSBが上がることでボールを前進させることができます。
次はポゼッションの場面です。相手がリトリートしたとき、南野は4トップの一員として前線でポジショニングを取ります。
サウサンプトンはこの4人の位置関係を用いて攻撃するチームです。その中で重要になるのがダイアゴナルな(斜めの)動きです。この理由を説明するために南野が迎えたチャンスの場面と得点シーンを振り返ろうと思います。
まず、左サイドでのオーバーロードの状態(左サイドに人が集中している状況)からイングスが右サイドに広がり、大きく振りました。なので、相手の最終ラインはおのずと広がっているのが分かります。でも、これは他のゲームでもよく起こる事です。この後の相手の対応とこちら側の攻め方で状況は大きく変わります。
ここで注目するポイントはピンクのラインで結ばれた2人(サウサンプトンはアダムズ)です。相手の最終ラインのスライドが遅れてしまったために、理想はLSBがアダムズを見ることでしたがLCBが見ないといけない状況になりました。したがってCB間に大きなスペースが生まれてしまっています。ここを狙うのが南野です。横の動きで生じたスペースにダイアゴナルな動きで入っていくことで得点のチャンスを迎えることができます。
この場面ではパスがずれたのでシュートまでは行きませんでしたが、サウサンプトンの特徴的なスタイルと、それに適応してチャンスを演出した南野を見ることのできた良いシーンでした。
では、同じ型によって生まれた南野の移籍後初得点を見ていきます。
このシーンはビルドアップから始まります。相手のフリーキックから始まったプレーなのでトップ下にはレドモンドが入って、南野はトップにいました。ビルドアップの局面でCBからワイドレーンでフリーだったLSBにボールが入り、一気に前進ました。しかし、この状態で各々が一直線に走っていればチャンスは生まれません。
なので10番のアダムズが横ずれして中央に寄りました。南野とのポジションチェンジでスペースを生み出す可能性を探りました。するとアダムズが完全に視界に入っていた両CBが引き付けられて右にずれました。そこにダイアゴナルランで入った南野にLSBから素晴らしいパスが入り、ゴールに結びつきました。
もちろん4トップがポジションチェンジを繰り返すことで機能するのがサウサンプトンの攻撃なので、南野が横ずれやダイアゴナルランでスペースを空けるような動きもできないといけないわけです。
今後の課題
デビュー戦でのゴールや2点目のFKの起点となる股抜きパスなど、随所に加入してから数日の選手とは思えない活躍を見せた南野でしたが、一方でセインツで飛躍するための課題も見えました。僕が特に目についたのはイングスとの距離感です。
南野はポゼッション時、よく左ハーフスペースでボールを要求します。おそらく彼の好きなゾーンで、プレーしやすいのだと思います。
このシーンでは南野がハーフスペースに顔を出そうとしています。おそらく南野の中では上の図のイメージだったと思います。相手がレッドカードで1人少なかったので中盤が3人しかいなかったので中盤に大きなスペースを生み出す意味でも良い動きではあると思います。
しかし、所属チームはリバプールではなくセインツであることに注意しなくてはいけません。8番のウォード=プラウスはバイタルエリアに侵入していくよりも後ろでボールを回すプレーをします。更にはボールを持っているロメウはチアゴやヘンダーソンのようなトップレベルのパス精度が無いので、南野へのパスは難しかったでしょう。なので結果としては上図のようになってしまいました。では、正解はどうだったのか。
これが正解ではなかったでしょうか。より中央でイングスとの距離感を縮めることで、セインツの攻撃は上手く機能します。そして相手のMF間の距離を見ても、ロメウはこれならパスを通せるはずです。
まとめ
南野のデビュー戦は素晴らしかったと思います。さすがはラングニック流派のサッカーで活躍した選手だなと思いました。もちろん課題もありましたが、まだ加入して数日経ってからの試合です。ハーゼンヒュットルの指揮するセインツのサッカーに適応できる選手であることを証明しました。昨年まで欧州5大リーグでの経験はなく、リバプールでの状況もあったので「本当にプレミアレベルの選手なのか」という疑問がありましたが、プレミアレベルの選手である事をきっちり確認できて喜んだ日本のサッカーファンも多かったでしょう。
セインツとしては、DF陣の脆さとポゼッション時に停滞した攻撃(特に後半)に対して不安の残る試合でした。後半に入って直後から1人多く、終盤は相手が9人になってずっとボールを保持していたのにも関わらず、追い付くことさえもできませんでした。マンU戦の9-0での敗戦のショックが尾を引いているのかもしれませんが、トップ6に割り込んでEL出場という大きな目標を達成させるためにも、改善が必要な部分が露呈した試合でした。
今回は以上です。この分析を参考にしてこれからのセインツ戦を見てもらえたら嬉しいです。