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『愛がなんだ』と、延々とコーヒーを待つわたし
角田光代原作、今泉力哉監督。
ダメでかっこよくないところも、全部を好きだと思ってしまったら、嫌いになることなんてたぶん、永遠に、ない。(公式サイト)
マモちゃんに恋に落ち、マモちゃん中心の世界に生きることにしたテルコの物語。角田光代の描く、馬鹿みたいに自分の決めたことに向かって走る不気味な女の子が、スクリーンの中に存在していた。恋愛ものというよりホラーのように思えて、『寝ても覚めても』を思い出す。またテルコが唐突に心情をぶつけるラップは『勝手にふるえてろ』を思い出させて胸が熱くなるのだが、テルコはさらに怖い。
ほとんどがテルコを中心とした狭い世界を描いていて、丁寧にこちらの視野も歪めてくる。それが不気味で、楽しい作品。近すぎて、それが象なのか壁紙なのかもわからなくなる、みたいな。
新宿の劇場では、ご年配のものと思しき笑い声が何度も起きて、鑑賞の空気もとても良いものだった。
せっかく街に出たのだから、とコーヒーチェーン店ではなく、らせん階段をあがった二階のお店に入ってみた。ランチセットを頼んだ。セットについてくるドリンクは、ホットコーヒーを選んだ。
夜はバーのようで、たくさんの有名人のスナップ写真が壁に貼られていて、90年代ぽさがあって、それを眺めて食べた。食後に、とお願いしたコーヒーは待てども来ない。客がひとり、ふたり、と帰っていく。わたしのお皿も下げられた。ホール兼キッチンのお姉さん一人でまわしているから、伝え漏れも無いはずだ。中にもう一人隠れていなければ。お姉さんが仕込みを始めたのか、たまねぎを炒める良い香りがする。こんなに忘れられているコーヒーなんて美味しいはずがない。自慢のコーヒーだったら忘れずに出すはずだ。ランチセットのコーヒーなんて作り置きでポットから注ぐまずいアレだろう。自分にそう理由を言い聞かせて、お会計お願いします、と席を立った。
笑顔でお会計をしてくれたお姉さんの伝票には
「H/C」と書かれていた。
これはやれやれ、と言ってもいいだろう。やれやれ、とらせん階段をおりたら、一番下で工事のおじさんが板を何枚も立てかけていて、らせん階段から抜け出せなくなるところだった。ああごめんねぇとおじさんが板を片付けてくれる。
やれやれ。
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