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映画『妻の愛、娘の時』それもこれもぜんぶ愛の話
母の死をきっかけに、中国の田舎にある父のお墓を巡る、三世代の女性の愛についての話。
誰の歌だっけ、それも愛あれも愛これも愛ぜんぶ愛(うろおぼえ)。そんな作品です。
家とお墓を守り、実物の夫はもうずっと居ないのにその存在を愛する女、愛情にあふれた人生をともに歩む女、そんな両親を大切に思う女、今を愛する女。
ともすれば湿り気をもちすぎるテーマを、田舎と街や世代間ギャップをもってして、ユーモアも漂わせて描くから、楽しい。
主人公の一人である55歳のフイインは若いときはとてもシャイで、勉強を頑張って教師になり、定年を迎えようとしている今も問題児を気にかけたりその子の親をちょっと利用したりする。主題を支える枝葉がしっかりと幹につながっているから、その小さなエピソードの数々も今のフイインという女性を作り上げていることをしっかりと浮き上がらせてくれる。説明過多になりすぎず、わたしたちが作品の中で登場人物たちの人生を自然と想像できるようにアシストしてくれる塩梅がちょうどいい。
好きなシーンは最初の方のお骨を拾うところと、その後帰宅する前に清めるところだ。お骨は日本でやるような恭しさはなく、じゃっじゃっじゃっと火葬場の人が砕いてしまってちりとりみたいなので壺にざらざら入れる。体が無くなるとあっけないという悲しさと放心してしまうようなところが心に残る。
そして帰宅する前に塩をかけたりする、ああいう意味合いだと思うんだけど、塩ではなく自分の車の周りに爆竹を置き、ぱぱぱぱんとはじけさせて、多分これがお清め。勢いが良い。
おばあさんが写真を撫でるシーン。ミステリーみたいな空気もほんのり漂って、とても良い。
一緒に暮らしていても相手のことなんてわからない。あの人はいったい本当のところはどうだったんだろうと、生きていても聞けないことはある。愛するということは自己完結に近くて、自分の思っている「愛」というものを信じるだけなのかもしれない。
監督・主演、シルヴィア・チャン
公式サイト
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