心の栄養映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』
キューバの大学教授セルジオはソ連留学の経験を持つ。
冷戦が終わりソ連の力は弱くなり、キューバ自体も混乱の度合いが深まる一方。ロシアで学んだことは活かせない、苦しい日々が続く。
ある日、セルジオのアマチュア無線が、ロシア語を拾う。なんと宇宙飛行中のロシア人飛行士セルゲイの無線だというのだ。宇宙船でピンチを迎えているセルゲイと、キューバでゆっくりとピンチに沈められていきそうなセルジオの物語。
星新一のいう ”SFとは、すこし・ふしぎ” が、当てはまる作品である。国際社会が変わっていった1990年前半の空気と、無線で宇宙飛行士と話せてしまうファンタジーが絶妙にからんで、愛らしい不思議ファンタジーになった。
この作品の前に観たものがドイツ軍の『ちいさな独裁者』だったので、この奇妙でキュートな作品を見始めてすぐに、厳しい雪山から下りてきて温泉に入ったときの第一声かのような
「あぁ癒されるぅぅぅ映画って本当に良いものですねぇぇぇ心の栄養ですねぇぇぇ」
という心の声がわたしの中にこだましたのだった。(dedicated to 淀川長治)
主な主人公はタイトルにあるようにキューバのセルジオと、ソ連の飛行士セルゲイ。おそらく8歳くらいのセルジオの娘とそのおばあちゃん。
セルジオと娘がテーブルをこつこつ叩いて、モールス信号で会話するところがすてきだ。
「コツコツ(あとちょっと、食べてしまいなさい)」
「コツ(いやだ)」
キューバの国民の生活はどんどん悪化していく。おばあちゃんは天の神に祈る。セルジオは空の上の飛行士と会話する。セルジオもセルゲイも、自分たちがお鍋の中でゆっくりと茹でられていく蛙だと気付いている。だが二人にはかわいい子蛙がいる。黙って茹でられていくわけにはいかないのだ。
90年代のレトロなコンピュータ。ダイヤルを回してあわせる無線機。乾いたキューバの風景。ああキューバに行ってみたい。
キューバを舞台に語られるロシア語が、不思議さをアップさせる。
そして彼らと関わるユダヤ系アメリカ人の抱える悲しみ。アマチュア無線は、国境や悲しい歴史、今迎えているピンチを越えられるのか。
宇宙モノを愛する人にはちょっとおとぎ話すぎるかもしれない。セルジオの娘の小さな瞳で見つめた、無線を愛する父の冒険とすこし不思議な日々を楽しんでほしい。