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2年ぶりの『森、道、市場』に行ってきた

高校生の時、「音楽がないと生きていけない」なんてケータイブログに書いてしまう人のことが嫌いだった。

その表現が比喩であることを差し引いても、音楽は生活に彩を与え豊かにする嗜好品であって、生活の根源を構成する必需品ではない。

その当時から僕はCDを漁って音楽評論を読みまくりライブに足繁く通っていたけれど、いわば贅沢品である音楽を、途方もない重さを持つ生命と同列に並べてしまう想像力の欠如に対して嫌悪感を覚えていたのだ。

人の生き死にに音楽が入り込む隙間などない。「お前は点滴の代わりに音楽を打って生き永らえるのか」と怒りに似た感情さえ持っていた。

それから十年の月日が経って、僕は本当に音楽が生き死にに関わる世界の中を生きることになった。

人を殺す力を持つ未知のウイルスの感染拡大の場であると槍玉に挙げられたライブ企画が、次々と中止を余儀なくされて、すっかりその姿を消してしまったのだ。

そこで活躍したのは、先程挙げた『音楽がなくても人は生きていける理論』である。

贅沢品である音楽のために人類で最も重要な命を捨て去るリスクを賭けることはあまりに馬鹿馬鹿しく、非常識にも程があると袋叩きにされ、人の代わりに音楽が死んだ

僕がその時分、小遣いやバイト代のほぼ全てをライブハウスに行くことに注ぎ込んでいた18歳や19歳の若者たちは、フェスやライブの空間を経験したことがないままに大人になっていった。

かくゆう僕も、音楽がない日常を当然のことだと受け入れて、大人しく生き永らえればいいと思っていた。

そんな中、2年という長すぎる空白期間を置いて、『森、道、市場』が開催された

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僕は2年ぶりに、一万人もの人々と音楽と食事と自然を共にした。


生きていく上で必要のない踊りを踊った。

生きていく上で必要以上の食事を摂った。

生きていく上で当たる必要のない雨に打たれた。

生きていく上で必要のない歌を歌った。

生きていく上で必要のない全てのことは、生きていく上で必要な全てのことだった。

『戦士は死ぬ。だが、思想は死なない』というのはチェ・ゲバラの言葉だけれども、『人は死ぬ。だが、文化は死なない』のだ。


講じられた感染症対策が万全なものとは思えなかったし、個々人の意識にも大きな差があった。酒類の持ち込みやモッシュが禁止されていても、闇酒は出回っていたし、観客を煽り続けるアーティストも複数いた。

間違いなく『森、道、市場』は感染症を拡大させる一翼を担っただろうし、それなりの批判を受けることとなるだろうとは思っている。

しかし、『森、道、市場』が感染を拡大させたのは、感染症だけだろうか。

それは、人間が人間として生きていくために最も重要で、最も気高く、最も美しい、"文化"というウイルスをも伝播させたのではないだろうか。

多くの人が勘違いしているが、いわゆるオリジナリティな思想や技術が、閉鎖的な取り組みの中で花開くことは決してない。

僕らが手を叩いて礼賛している多様性、”世界にひとつだけの花”なんてものは幻想であって、その実相は彼が感染と卒業を繰り返してきた無数の文化の固有な組み合わせに過ぎない。

また、小さな文化が大きな文明を作り上げ、人類を繁栄させてきた歴史を鑑みてみると、一個の人間とは、ある文化と別の文化を組み合わせ、次の人類を支え得る真新しい文化を生産するための道具でしかないとも言える。

『森、道、市場』のような音楽フェスティバルが担っていたのは、このような性質を持つ"文化"という様々なウイルスを人から人へ感染させて、最終的には途方もない重さを持つ人類の生き死にを左右するような文明を形作るための役割だったのではないだろうか。

そして、このような"文化"の感染が断絶された世界の中で生きることと、ただ死を待つことは、一体何が違うのだろうか。


かなり大袈裟な話になってしまったけれど、「音楽がなければ生きていけない」という言葉に怒りを覚えていた僕は十年という年月の後、その音楽を失って取り戻したことによってようやく、「文化がなければ生きていけない」ということを思い知ってしまった。

好きなバンドのライブを見れたことよりも、遠くて食べにいけなかった飲食店のご飯を食べたことよりも、お気に入りの帽子を見つけたことよりも、音楽が好きなのにライブやフェスに行ったことのなかった19歳の知り合いが、楽しそうに会場を巡っていたことのほうが何より嬉しく感じてしまった。
柄にもなく「All You Need is Love」なんて歌い出しそうになってしまった。

帰宅したそのテンションで書き続けて1:30、誤字や脱字に筋の通らない文章だってあるだろうけど、今あの時しかなかった『森、道、市場』のことを思っていると、校正も推敲もしない文章を残したくなったので、このままあげることにする。

明日は仕事があるけれど、気分良く働けそうだ。

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