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産後の妻を「孤立」へと追い立てるのは、ぼくら夫なのかもしれない。

「わたしと子どもたちだけが、世界から取り残されたような気がしたの」

子どもが2歳になったころ、沖縄への社員旅行に出かけたぼくはあまりの楽しさに妻への連絡を怠り、妻からインスタグラムをブロックされました。

出張中に妻のインスタグラムで子どもたちの様子を見ることが、ぼくの楽しみであることを妻が知っていたからです。

慌てて電話をかけ、平謝りすると、妻は意外なことを言ったんです。

「わたしが何を感じているか、わかってないでしょ?怒ってるわけじゃないんだよ」

その時はわからなかったのですが、妻への大量のお土産を抱えて家に帰ったとき、妻は教えてくれました。

「あなたがわたしたちを忘れているんじゃないかって思うと、寂しかったの。まるで、世界からわたしと子どもだけが、取り残されたような気がして」

妻は怒っていたのではなく、寂しかったのです。ぼくはそんな簡単なことにすら気づけなかった。

産後の女性が抱える社会的孤立。

ぼくら男性が体感することがないこの事実を理解しておくと、妻との関係はとても改善しやすくなるはずです。

産後一年未満の女性は、もっとも死に近い存在です。

出産時に死亡する妊婦は少ないですが、産後の精神状態が大きな影響を与えています。

これは、産後一年未満の女性の死亡理由です。

出典:生育医療施センター
※「その他」は出血死など出産時の死亡のため、「自殺」が一位

自殺がダントツの一番ですよね。

産後一年以内ということは、産後うつが原因だと思いますが、なぜ、産後女性はこれほどまでに精神的に追い詰められるのでしょうか?

ぼくや妻の経験、他の方のお話を聞くなかで、三つの要素が浮かび上がってきました。

会社との断絶

子どもの誕生から2年半後、妻は次の働き先が決まってない状態で保育園に応募し、入園直前にやっと勤め先の内定をゲットし、子どもを保育園に預けることができました。

「子どもが三歳になるまでは、保育園に預けたくない」

以前、妻はそう言っていたのですが、三歳になるのを待たずに保育園に預けることになったのです。

そのとき、ぼくは子どもの面倒を一人で見るのが限界だったのかなと思っていたのですが、それだけではなかったようです。

会社で働くこと。

ぼくら男性にとってはあたりまえのこの行為が、産後の女性にとってはとっても特別なことだったんです。

上の子たち(双子)が保育園に入るまでの記憶は、ぼくもあまり残っていません。

うちの子たちはエネルギッシュで、家にいるとぼくら親が辛かったので、土日は朝7時から三つの公園をはしごして遊ばせ、お昼にベビーカーのなかで昼寝させ、そのあいだにかきこむようにお昼ご飯を食べ、夕方も家の近くで遊ばせていました。

そして、夜には終わらない寝かしつけと夜泣きが待っている。

あまりに辛い日々だったので、ぼくと妻の記憶はところどころ抜け落ちています。

子どもを保育園に預け、働き出してから妻は急に生き生きし始めました。

まるで、海に戻された魚のように元気になり、肌ツヤは良くなり、よく笑うようになったんです。

まだまだ子どもたちは小さいので手がかかりましたが、精神的にはかなり落ち着いたようでした。

仕事って、自分が役に立てている実感を感じられる行為だと思うんです。

ああ、自分はここにいていいんだ。

自分には価値があるんだ。

自分は、この世界の一員なんだ。

自分は、この世界に所属しているんだ。

そんな実感を感じさせてくれます。

だけど、それって失ってみないとわからないんですよね。

もちろん、子どもを育てることは素晴らしいことだし、価値のあることだけど、どうもぼくら人間はそれだけではダメみたいです。

自分の子ども以外の人間とは一切コミュニケーションを取らないで生活しろと言われたら辛いですよね。

職場というには、人がもっとも深いコミュニケーションを取ることができるものの一つだと思うんです。

どんな小さなことであったとしても、自分を必要としてくれる人がいる。

その実感が、生きることへの小さなパワーを与えてくれるんだと思う。

出産というのは、そんな存在との断絶を意味しているんです。

子どもはかわいい。育児は特別なもの。

それはそうだと思います。

ですが、「君は母親なんだからしっかりしないと」と夫から言われ、夫に嫌悪感を抱くようになった女性の話をいくつも聞きました。

「産後の妻が働く」ことは、お金の話ではなく、妻のアイデンティティに関わる話だと思うのです。

地域コミュニティとの断絶

最初の出産時、ぼくと妻はなにをどうしていいか分からず、ただただ必死でした。

妻のお母さんが育児を手伝ってくれることもありましたが、平日の育児のほとんどを妻が一人で行っていました。

梅雨時は家から出られず、ずっと家のなかで子どもたちと過ごし、妻が唯一会話をする大人はぼくだけだったのですが、仕事から疲れて帰ったぼくは妻に冷たい態度を取ったこともありました。

社員旅行や、毎月の出張があり、ぼくはそれらを言い訳に家庭から逃げようとしていたのかもしれません。

ご近所さんは知らない人ばかりで、頼れる人が少なかった妻は、徐々に疲弊していきました。

子どものいない友人とは話が合わなくなり、子どもがいる友人は自分たちの育児も大変で、しょっちゅう会うことも難しかったからです。

いつからか、妻は地元の双子コミュニティに参加するようになったんです。

「双子って一気に生まれるから、年子よりも世話は楽だよね」

双子育児を経験したことがない人は軽々しくそう言いますが、はっきり言ってめちゃくちゃしんどいです。

そのしんどさをいくら説明しても、誰も理解してくれないのですが、唯一、双子出産経験者だけはそれをわかってくれました。

自宅で暗い顔をしてばかりだった妻は、双子コミュニティのメンバーと仲良くなるにつれ、持ち前の明るさを取り戻していきました。

双子が8才になった今でもつながりは続いていて、去年まではコミュニティの代表を担当するほど、深く関わっていました。

当時の共同代表の3人とは、2~3か月に一度、ランチ会や飲み会に出かけるほど仲がよく、誰にも切ることができない強い絆で結ばれているようです。

このコミュニティがなかったら、妻の精神状態は安定することがなく、ぼくとの関係もさらに悪化していたかもしれません。

たまに、小さなお子さん(0~1才)を育てる女性とのお話しのなかで、地域の育児コミュニティに所属していないという話が出ることがあるのですが、ぼくは迷わず参加されることをおすすめします。

子どもが生まれた瞬間、ぼくらは「小さな子どもを育てる親」というマイノリティな存在になるんです。

中高年や老人が過ごしやすいこの国では、小さなこどを育てていると辛い思いをすることも多いです。

だけど、一緒に頑張っている仲間が近くにいるだけで、とても勇気づけられるんです。

夫との断絶

子どもの誕生により、女性は会社から断絶され、友人ネットワークからも断絶されます。

残ったネットワークは「夫」ですが、この最後の砦がもっとも断絶しやすい存在であり、産後の女性の幸福の鍵を大きく握っているんです。

ぼくが社員旅行中に妻への連絡を怠り、妻がぼくのインスタをブロックしたとき、妻はこう言いました。

「私は怒っていたんじゃない。寂しかったんだ」

所属する会社もなく、毎日を一緒に過ごす仲間もおらず、誰かの役に立てている実感を感じることもなかった妻にとって、ぼくは最後の砦だったんです。

ぼくが妻をケアしているから、妻の体調や精神を思いやっているから、それを妻が感じられるから、妻はがんばれたんです。

ぼくの思いやりを、妻が感じられているということ。

それはとても細い糸なんです。

その細い糸が妻に、子どもにご飯を食べさせ、昼寝をさせ、皿を洗わせ、洗濯をさせ、長い長い寝かしつけと、いつ終わるとも知れぬ夜泣き対応をさせるんです。

ぼくはその糸を切ってしまった。

糸を完全に修復させるには、三人目の誕生という長い先月が必要になりました。

ぼくが、妻にとって、とても大切な存在であることを、ぼくはわかっていなかった。

そんなにも寂しい思いをさせてしまったなんて、言われるまでまったく気づくことができなかった。

ぼくの存在が、妻にとってそんな大きなものであることを、ぼくはまったくわかっていなかったんです。

妻から嫌われた何人もの男性から話を聞いてきましたが、みんなぼくと同じことを言います。

「妻が怒っているんです」

でも、違うんです。

あなたの妻は怒っているんじゃない。悲しんでいるんだ。寂しさを抱えているんだ。

自分と世界をつなぐ唯一の存在である夫。

強くしなやかであるはずのその糸が、あまりにもろく切れてしまったことに、深い寂しさを感じているんだ。

産後の妻を追い詰める、圧倒的な社会的孤立。

その孤立を発生させる人間は、他でもないぼくら夫なのだと思う。


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この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。

下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。

本が完成するまで記事を書き続けますので、応援していただけると嬉しいです。

第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?

◾️第一章:恋から愛への移行不具合

恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立(←ここ)
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
○絆を構築する共同体験の欠如

◾️第二章:無から愛の生成不良

○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合

◾️第三章:夫への恨みの生成過程

○未完に終わった夫婦の発達課題
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現によりエスカレートするネガティブループ
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○時限爆弾となる「夫への恨み」

◾️第四章:セックスに関する無理解

○産後にセックスに興味を失う理由
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在

◾️第五章:現状把握と事態の受け入れ

○妻の恨みの根幹を知る
○思い込みにとらわれず質問を恐れない
○客観的に自分たちを見つめる

◾️第六章:妻から嫌われる3つのパターン

○家庭より仕事を優先してきた
○家族の幸せより自己実現を優先させてきた
○妻への思いやりより自己の欲望を優先させてきた

第二部:では、どうするか?

◾️第一章:皿洗いをする前にやるべきこと

○夫婦の絆の土台となる”親密性”
○「受け止めてもらえる」安心感を妻に与える
○柔らかな感情の掘り起こし

◾️第ニ章:愛着の形成が二人の絆を作る

○柔らかな感情の共有
○相互理解という快感
○夫婦に恋愛は必要ない
○ドーパミンではなく、オキシトシンが愛を作る

◾️第三章:自分も相手も大切にするアサーティブコミュニケーション

→詳細考え中

◾️第四章:セルフコンパッションで関係改善の努力を継続

→詳細考え中

◾️第五章:セックスは愛の最終形態

○セックスは手段、目的は親密性への触れ合い
○性の話し合いを恐れない

第三部:フェニックスマンの特徴

○夫婦関係を改善できる男性の特徴とは?

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