
「夫への恨み」はいかにして生まれるのか?
「妻が急に爆発したんです!
今まで強い意見を言ったことがないのに、突然家を出るだとか、好きな人がいるだとか、もう意味がわかりません・・・」
夫婦関係に悩む男性の話を聞いていると、そういった言葉をよく耳にします。
まるで別人のように妻が怒り出す。どうしていいのか検討もつかない。
突然の妻の豹変は驚きますよね。とりあえず謝っても許してくれず、火に油を注ぐだけだったりします。
今まで大きな不満なんて言われたことなかったのに、急にそんな態度になってどうしたらいいかのわからない。
きっと、そんな心境だと思います。
ですが、突然の爆発のように見える妻の爆発は、実は何年も前から約束されたものだったのです。
そこには3つの理由が存在します。
恨みは無意識に生まれる。
夫との関係に悩む何十人もの女性と話しましたが、みなさん、多かれ少なかれ、夫への恨みを抱いていました。
例えば、子どもが生まれたばかりの女性は、家事育児に積極的じゃない夫にイライラしつつも、うまく切り出せず、モヤモヤだけがたまっている。
また、小学生の子どもを持つある女性はキャリアに悩んでいるが、夫は耳を貸してくれず、自分のことばかり考える夫に嫌気が差している。
別の女性は、夫からセックスを断られたことがきっかけで夫に嫌悪感を抱くようになり、不倫相手を探している。
子どもが中学生となったある女性は、夫から経済的に自由になり、離婚というゴールを切るため、キャリアアップに力を入れている。
子どもが未就学児、小学生、中学生、高校生へと大きくなるにつれ、夫への恨みは加速していく傾向があるようです。
そして、加速する恨みと逆行するように、夫に対する期待は急降下していきます。
まだ子どもが小さいうちは、多くの女性は夫に対する淡い期待を抱いています。
変わってくれないかな?
この子が保育園に入れば、うちの人も変わるかな?
私が働き出せば、この人も家のことをやってくれるようになるかな?
もう少し時間が経てば、私のことをちゃんと見てくれるようになるかな?
柔らかな春の雲のような淡い期待は、過酷なワンオペという真夏を通してほころびを見せ始め、立派なワンオペ筋がついた妻たちは、ほのかな夫への期待を雪の下に埋め、寒さ厳しい冬をママ友たちと乗り越えていきます。
彼女たちが冬を越すためのエネルギーが、ママ友との「夫の愚痴の言い合い」です。
こんなひどい夫婦はうちだけじゃない。
むしろ、これが普通なんだ。
夫は恨んでもいい存在なんだ。
かつては柔らかな期待を夫に抱いていたはずなのに、子どもの成長にしたがい、いつの間にか夫への恨みが生まれる。
それは当事者である妻自身も気がつかない「無意識」のうちに誕生するのです。
徐々に伸びていく雑草のように、夫への恨みは人知れず成長し、うっとおしいほど生い茂った「恨み」という雑草を、彼女たちは初めからそこにあったのだと認識するようになります。
そして、その恨みは、多くの女性が抱える「非主張的自己表現」によって、さらに助長していくのです。
非主張的自己表現が恨みを加速させる。
非主張的自己表現、それは自分の気持ち、考え、欲求を素直に伝えない表現のことです。
遠回しな言い方であるため、何をして欲しいのかが夫に伝わりにくく、「どうして、私はきちんと伝えられないのだろう」と悩んだり、逆に「こんなに言っているのに、なぜこの人はわからないのか」と、相手のせいにするケースもあります。
以前の記事で書いたように、「非主張的自己表現の呪いにハマる妻たち」の特徴には次のようなものがあります。
自己犠牲に慣れている。自己評価が低い。「察して欲しい」気持ちが強すぎる。
これは彼女たちの責任というより、環境要因が強いです。男性優位な家庭に育ったこと、学校教育により自尊心を抑えつけられ、自己主張とわがままを同一視してきたこと。
こういった理由により、多くの女性たちが自分の思いを伝えられない人間となり、結婚後は「母」や「妻」という役割に自分から収まり、「母だから、妻だから」と自分を追い込み、さらに素直な気持ちを言えなくなる現象が起こっています。
そして、身体に染み付いてしまった「非主張的自己表現」が、夫への恨みを加速させていくのです。
この人は、私がこんなに困っているのに助けようともしない。
(困っている様子を夫が見ていると思っているが、実は見えていない)
何度も手伝ってと言ったのに、まったく動こうとしない。
(夫に伝わるほど何度も言っておらず、主張が弱い)
どうせ、この人は変わらないのよ。私が我慢すればそれでいいのよ。どうせ、みんなそうなのよ。
(夫が変わる必要性を感じるほど、はっきりとした表現を妻はしていない。どこの家も同じだと思い込むことで、素直な気持ちを伝えられない自分を正当化している)
このように、非主張的な自己表現におちいってしまった女性たちは、夫への恨みを倍増させていきます。
ですが、女性たちのはっきりしない態度が悪いだけではなく、もう一つ、夫への恨みを増やす要因が存在します。
それが、「夫に対するトラウマ」です。
夫婦が共に暮らすことが、妻のトラウマをえぐり続ける。
子どもが生まれても、夫は家事も育児も妻のケアもしてくれなかった。
心無い言葉をかけられ、時には罵られ、産後の疲れ切った心は夫によってズタズタに引き裂かれた。
世間はそれを「産後クライシス」というたった一言で表現しますが、ぼくは違うと思います。
多くの女性と話す中でわかってきたこと、それは彼女たちは夫から受けた苦しみによって、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とも呼べる精神的傷を負っているということです。
一般的にPTSDは、災害や事件に巻き込まれることで起こりますが、その症状は驚くほど夫婦関係に悩む女性たちの特徴と合致しています。
まず、苦しみを感じた出来事が頭の中に入り込んでくるかのように、繰り返しよみがえり、コントロールすることができない侵入症状。
女性たちの多くは、夫の思いやりに欠けた言葉が何度も頭の中をかけ回り、何年経っても忘れられず、ふとした瞬間に訪れるその思考に悩まされています。
次に、その出来事を思い出させるあらゆる物事の回避。
夫に触れて欲しくない、会話もしたくない、夫が触れたもの(服や夫の部屋など)には絶対に触りたくないなど、女性たちの多くは激しく夫との接触を回避しようとします。
そして、感情が麻痺し、自分が他者から切り離されたように感じ、楽しみへの関心が薄れ、時にうつ病も伴うのがPTSDの特徴ですが、同じような感覚を感じた女性はきっと多いかと思います。
また、PTSDによって、問題の出来事に対する考えが歪み、自分や他者を責め、罪悪感、恐怖心、怒り、恥などネガティブな感情にとらわれ、幸福感を感じられず人を愛せなくなることもあります。
夫に強い恨みを抱いている女性の多くは、これらの感情を感じていることが多いです。
自分がしっかりしていないからという罪悪感、夫の言動に対する恐怖心、コントロール不能なほどの激しい怒り。
そして、それらを通し越した先にある無の感情。夫に対するすべての感情が消え去り、砂埃だけが舞う、生物の気配を感じるこのできない不毛な砂漠。
なぜ、妻の夫への感情はここまで豹変するのか?
それは、トラウマの加害者と被害者が同じ家の中で暮らし続けるという異常性にあります。
性犯罪者と被害者が同じ家の中で暮らすことなんてありませんよね。事故でトラウマを負った方が毎日事故に遭い続けることもありませんよね。
だけど、夫婦間におけるトラウマの場合は別です。
自分に大きな精神的傷を負わせた相手が、ずっとそばにいるんです。これは永遠に傷つけられていることと同じです。
永遠に続く性犯罪、事故、災害。それが、家の中で起こっているんです。
だからこそ、多くの人はトラウマの元凶であるパートナーと距離を置きたいんです。だからこそ、夫婦関係の修復は難しいのです。
以前、トラウマ治療専門家の方にインタビューした回があるので、こちらを聞いていただけるとわかりやすいです。
この時は浮気のトラウマでしたが、産後クライシスも同じです。
まとめると、妻の恨みという時限爆弾は、無意識に生まれ、非主張的自己表現によって成長し、産後クライシスなどのトラウマによるPTSDによって決定的なものになるということです。
自分の妻がどのステージにいるのかを正しく理解することが、関係改善のスタートになるはずです。
ーーあとがきーー
ぼくのポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」再生数がついに10万回を超えました!いつも聴いてくださっている皆さん、ありがとうございます!

2年8ヶ月間、続けてきましたが、気がつけばポッドキャストのフォロワ数はnoteを超えていて、各プラットフォームの合計フォロワー数は推定1,493人にまでなりました。
野本さんが記事で触れているように、音声配信は着実に伸びてきていると思います。
伸びてきている割に発信者が少なく(夫婦関係メインの発信者なんてほとんどいません)、継続率も低いので、コツコツ続けられる人にはめっちゃ向いていると思います。
あと、人と話すことが好きな人も向いてると思う。ぼくも、一人語りよりもインタビュー企画の方が楽しくて、意外な話がたくさん聴けるし、人との繋がりも生まれるし、再生数も多いしで、いいことばかりです。
これから発信をしたい人で、すでに何らかの分野で名がある人はVoicyを、名が知られていない人はポッドキャストを選ぶのがいいかもです。
コツコツとポッドキャストを続け、信頼性を得たらVoicyへの審査にチャレンジするのがいいかも。
現在、日本における音声配信プラットフォームの認知度はVoicyが一番ですからね。やっぱり聴いている人の数はめっちゃ多いなと感じています。
ぼくもVoicy審査に先日応募し、結果を待っているところです。
ダメならダメで、またコツコツとSpotifyメインのポッドキャストで頑張るのみですね。
とにかく、10万再生突破は嬉しかったです!重ね重ね、いつも聴いていただきありがとうございます!
まだ聴いたことがない方は、下のリンクからぜひ。
Spotify:https://tinyurl.com/28pd3g2r
Apple podcasts:https://tinyurl.com/2zc99297
Amazon music:https://tinyurl.com/2395qf2u
Audible:https://tinyurl.com/2cex8ndw
ーーお知らせーー
この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。
下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。
下線がある目次はすでに書いた記事へのリンクです。クリックすると記事に飛びます。
本が完成するまで記事を書き続けますので、応援していただけると嬉しいです。
それから、夫婦関係研究へのサポートも募集しています。
サポートはポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」運営費用、取材費など、大切に使わせていただき、毎月末にサポートメンバー向けに、活動報告記事をお送りさせていただいています。
ぼくと同じく「世の中から夫婦関係に悩む人をなくしたい」と思ってくださる方、アツを応援したいと思う方は、ぜひサポートをよろしくお願いします。
第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?
◾️第一章:恋から愛への移行不具合
○恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
○絆を構築する共同体験の欠如
◾️第二章:無から愛の生成不良
○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合
◾️第三章:夫への恨みの生成過程
○未完に終わった夫婦の発達課題
・結婚前に獲得すべきだった「本当の親密さ」とは?
・未確立な夫婦のアイデンティティ
・親になること、夫婦になること
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現をやめられない夫たち
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○「夫への恨み」はいかにして生まれるのか?(←ここ)
○増加する”婚外恋愛”願望
◾️第四章:セックスに関する無理解
○産後にセックスに興味を失う理由
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在
◾️第五章:現状把握と事態の受け入れ
○妻の恨みの根幹を知る
○思い込みにとらわれず質問を恐れない
○客観的に自分たちを見つめる
◾️第六章:妻から嫌われる3つのパターン
○家庭より仕事を優先してきた
○家族の幸せより自己実現を優先させてきた
○妻への思いやりより自己の欲望を優先させてきた
第二部:では、どうするか?
◾️第一章:皿洗いをする前にやるべきこと
○夫婦の絆の土台となる”親密性”
○「受け止めてもらえる」安心感を妻に与える
○柔らかな感情の掘り起こし
◾️第ニ章:愛着の形成が二人の絆を作る
○柔らかな感情の共有
○相互理解という快感
○夫婦に恋愛は必要ない
○ドーパミンではなく、オキシトシンが愛を作る
◾️第三章:自分も相手も大切にするアサーティブコミュニケーション
→詳細考え中
◾️第四章:セルフコンパッションで関係改善の努力を継続
→詳細考え中
◾️第五章:セックスは愛の最終形態
○セックスは手段、目的は親密性への触れ合い
○性の話し合いを恐れない
第三部:フェニックスマンの特徴
○夫婦関係を改善できる男性の特徴とは?
それでは、また!