売れる呉服販売員にイケメンはいない。
妻との距離が生まれてしまったときに、服装や体型に気をつけるようになったことがあったんです。
自分が男として意識されていないから触れられたくないと思われてしまったのかな、見た目を整えれば変わるのかなと思っていたんです。
結果的にぼくらの距離を縮めることはできましたが、身支度を整えるというアプローチは見当違いなものであることも、あとからわかったんです。
妻が求めていたものは見た目ではないところにあり、妻が心を開いてくれた理由も、ぼくの見た目がよくなかったからでは、決してありませんでした。
妻からの好意を得るために見た目を変えようとする努力は、なぜ意味がないのでしょうか?
どうすれば、妻からの好意をふたたび得ることができるのでしょうか?
妻から拒否されたときにやってしまうこと
妻から精神的にも肉体的にも拒否をされたとき、自分のなにが悪いんだろうと悩んでしまいますよね。
きっと、妻に甘えて、妻がいつもそこにいることがあたりまえになってしまい、自分の体型や服装や髪型など、見た目を整えることをおろそかにしてしまったせいなのかもしれないと思ったりもします。
もちろん家事育児の分担のかたよりなどで、妻が家庭生活に負担を感じているから、それらのバランスを変えようとも思うかもしれません。
でも、ぼくも他の男性も、なぜか自分の見た目を整えることを先に考えてしまうんです。
たるんだお腹を引き締めよう。髪を3ヶ月ぶりに切りに行こう。洋服を5年ぶりに買い直そう。
つい、そんなことを考えて行動してしまいます。
いったいなぜなんでしょうね?妻からはそんなこと言われていないのに、
おそらく、落ち込んでしまった自尊心を回復させるためなんじゃないのかなって思うんです。
妻から触れられたくないと言われたり、無視をされると、とっても気持ちが落ち込みますよね。
自分はなんてダメな人間なんだ。男性として見られないなんて。唯一の心を許せる妻から精神的に拒否をされるなんて、生きている意味なんてないんじゃないか……。
そんなことを思ったりしますよね。
ぼくもそうでしたし、他の男性のお話を聞いていても、こういうケースって本当に多いです。
鬱っぽくなってしまい、下手したらこのまま自殺する人もいるんじゃないかと思うくらいの辛さなんですよね。
夫婦関係を改めようと思っても、すぐには妻の気持ちは変わらないし、それに肝心の妻がなにをして欲しいかをはっきり言わずに、ただ距離を取るだけなので、なにをどうしたらいいのかわからなくなってしまうんです。
だけど、筋トレや服装や髪型の変化は、すぐに効果がでますよね。
服を買い直せば気持ちは前向きになるし、髪型を変えればリフレッシュした気持ちになれる。
筋トレはすぐに効果が出るわけじゃないけど、運動をすることで気持ちは前向きになれます。
そう。これらって、すぐに効果が出るものなんです。
自分の自尊心を回復させるという効果が。
だけど、それだけでは妻との距離は埋められないんです。
見た目が嫌になったのではなく、心理的に嫌になったのが先
どんなに自分の見た目を整えても、妻のかたくなな態度は変わらない。避けられている様子は変わらない。
いったいなぜなんでしょうか?
それは、妻が夫を嫌悪するようになったきっかけが、”見た目”などの外見にあるのではなく、”心理面”にあるからだと思うんです。
自分がすごく大変なときに夫が支えてくれなかった。傷つくことを言われた。はげましやなぐさめの言葉をかけてくれなかった。
子どもが生まれると生活はガラッと変わりますから、そういった傷つきの体験がどんどん増えていきますよね。
ぼくにもそんな経験がたくさんあります。だけど、きっとぼくが忘れているだけで、妻はもっと覚えているんでしょうね。
夫が気がつかない間に妻に降り積もった”傷つきの体験”が、(この人は信用できない)という感覚を無意識のうちに作り上げ、蓄積されたその感情が臨界点に達するときに、夫の外見も含めたなにもかもに嫌気がさすようになるんです。
ぼくら夫がどれだけ見た目を整えても、妻の態度が変わらない理由は、妻が心を閉ざしている根本的な原因を解決できていないからなんです。
(この人は信用できない)
という不信感を払拭できてないからなんです。
見た目に嫌悪感を感じている理由は、「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」と同じ理屈なんだと思います。
ぼくら男性がどれだけ身綺麗になったところで、自分自身の自尊心は上がりますが、妻の心に降りたシャッターが上がることがないんです。
売れる呉服販売員にイケメンはいない
ぼくが呉服販売員として働いていたころ、語弊がある言い方ですが、実績を上げている販売員や、売れている店の店長や、営業本部長など、「売れる人」ほどイケメンじゃない人が多かったんです。
どちらかというと、ブサイクと言われるような方が多かったです。
ブサイクだからといって卑屈なわけじゃなくて、誰よりも明るい性格で、人の心にスッと入るのが上手な人ばかりでした。
緊張することなく、なんでも言える不思議な安心感があるんですよね。
心理的安全性を作り出すことがすごく上手だったんです。きっと、彼らは人との距離を縮めるためには、心理的なハードルを低くしなければいけないことを体験から学んでいたんだと思うんです。
逆に、ちょっと自分の外見に自信を持っている人は、(この人は自分に心を開いてくれるだろう)と勘違いをしやすく、心を開いてもらうための努力をおこたっていることが多かったです。
おそらく、ブサイクな売れる販売員(言い方が悪いですが…)は容姿を武器にできなかったから、心理面を磨いて武器にしたんだと思います。
人から信頼されるためには、外見はそんなに重要じゃなくて、(この人にならなんでも言えるかも)という安心感の方が大事なんですよね。
実際、親しくなったお客さまからはプライベートの悩みを聞くことが多かったです。
夫の浮気、子どもの結婚相手への不満、親への不満、自分の人生への悩み。
家族にも友人にも言えない話を呉服販売員になら言える。
それは”信頼関係”がそこにあったからだと思うんです。
そして、それは夫婦関係においても同じだと思うんです。
妻が夫から精神的にも肉体的にも距離を取る原因は、夫の服装や体型がひどいものだからではなく、単純に夫のことを”信用できない”からだと思うんです。
この人には安全性を感じられない。
この人はわたしのことを大切にしてくれていない。
その思いが、妻に夫との距離を生じさせてしまうんだと思うんです。
恋愛ならば外見も重要な要素になりますが、恋愛感情が消え去った妻に対して、いくら求婚期のクジャクのように羽を広げても、妻から振り向かれることはないんです。
恋愛を通り過ぎたぼくらがふたたび絆を取り戻すためには、お互いを大切に思い合い、お互いに支え合う”愛着関係”しか方法はないのだと、ぼくは思っています。