誰も教えてくれない、産後に女性が性欲を失う本当の理由とは?
「子どもが生まれてから、妻がセックスを嫌がるんです。なぜなんでしょうか?」
男性から夫婦関係の相談を受けていた頃、もっとも多かった相談だ。
生後1年、もしくは未就学児や小学生など、子どもの年齢にばらつきがあるが、多くの方は産後まもなくに妻からセックスを断られ、性の問題を起点に夫婦関係を悪化させていた。
二つの磁石が密着するようにお互い惹かれ合っていたはずなのに、今では自分たちの周りの磁界が歪み、手を触れることすらできない。
いったい、何が起こったのか?
この問題は「産後女性の体の変化」を正しく知ることで解決が可能です。
本当に求めていたものは?
妻からセックスを断れるのは確かに辛いものです。
「自分は妻から必要とされていないんじゃないか?」
「もう、愛されていないんじゃないか?」
「他に好きな男ができたんじゃないか?」
そんな思いが頭の中を駆け巡り、単なる不安だったはずのものが、いつしか(そうに違いない)という妄想に変化する。
「きっと、妻は自分をもう愛していないんだ」
「そもそも、初めから愛なんてなかったんだ」
「自分は誰からも必要とされない人間なんだ」
被害妄想とも呼べるような感情にとらわれ、妻との体のつながりを無理やり求めようとする。
しかし、さらに妻から拒絶され、二人の間には絶望的なほどの溝が生まれる。
こんなつもりじゃなかったのに、妻との絆を求めていただけだったのに。
ただ、「愛されている実感」を感じたかっただけなのに。
妻とのセックスレスに悩む男性の多くは、妻との関係をこじらせ、改善しようとするなかで重要なことに気がつく。
「セックス」そのものを求めていたのではなく、ただ「愛されている実感」を求めていたということに。
セックスを通して得られる一体感、精神の落ち着き。
こういったものを、ぼくら男性が日常生活の中で感じることはほぼない。
友人や同僚との何気ないおしゃべりは、心に触れることがない冗談やマウンティングに満ちており、そこには心から相手を気遣うケアが含まれることがない。
ぼく自身、男性とのおしゃべりより、お互いにケアし合うことができる女性との会話の方が心が安らぐ。
「大丈夫か?」
「それは大変だったな」
「なんかあったらいつでも言ってくれよ」
そんな優しい気遣いの言葉を男性がもっと使えるようになると、ぼくらはかなり生きやすくなるはず。
だけど、そうではないのが現実。
ぼくらは、親密性をセックスからしか得られないと勘違いしているのだ。
ヒア&ナウへと変化する産後のホルモン
そんなぼくらであっても、産後の女性のからの変化を知ることで、この事態に向きやすくなる。
ぼくらは「(生理周期でないなら)女性はいつでもセックスができるはず」と思い込みやすい。
だけど、実際に女性に話を聞いてみると、「夫が求めるからしかたなく応じていた」という話が少なくない。
しかたなく応じているうちに、本格的に夫に嫌悪感を抱いていく。
この傾向は産前より産後の方が飛躍的に高くなる。
まるで、磁力の低い砂場の砂鉄が、医療器具として使われるほど磁力の高いネオジム磁石へと変化するかのように。
急激に上昇した磁力によって、女性は体に触れて欲しくないほど強い反発を夫に感じるようになる。
その原因は産後のホルモン変化にある。
人を生殖へと駆り立てるのはドーパミンだと言われている。恋のドキドキ感やセックスへの渇望は、ドーパミンがもたらす「報酬予測誤差」から生まれるからだ。
思った以上に気が合ったり、単調な毎日の中で異性から関心を持たれたり、そんな「予想外のいいこと」が起こる可能性や期待によって、ドーパミンが急増し、人をセックスへと駆り立てる。
しかし、出産した女性なら誰もが知っているように、生まれたばかりの赤ん坊を育てるときに「予想外の出来事」はかえって邪魔になる。
3時間ごとの授乳や定期的な昼寝など、生活リズムを作らないと24時間赤子の面倒を見続けることになり、母親は倒れてしまう。
育児中に気を失った経験がある女性はきっと多いはず。うちの妻もそうだし、妻のママ友にもいた。
出産後に必要になるホルモンは、変化を求めるドーパミンではなく、気持ちを落ち着かせるセロトニン、オキシトシン、エンドルフィンといったものだ。
出産時に女性は爆発的にオキシトシンを分泌させ、その後、赤ちゃんとの触れ合いを通じてオキシトシンを分泌し続ける。
「もっと!愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学」の中で、著書はこれらのホルモンをH&N(ヒア&ナウ)と呼んでいる。
出産と育児によって分泌されるオキシトシンがドーパミンの分泌を抑えるのだ。「いま、ここ」にいる生まれたばかりの我が子を守るために。
また、乳汁の分泌をうながすプロラクチンも性欲を減少させる働きがあり、さらに授乳時は乳汁を搾り出すオキシトシンも活性化される。
オキシトシンの放出は、セックスへの渇望を生むテストステロンの分泌を抑制する。
そのため、子どもが乳離れするまでは、女性の性欲は戻ってこない。
同じ世界を見ることですべてが変わる
この事実を知っている男性がどれくらいいるだろうか?
産後は子宮が元のサイズに戻るまでセックスができない。その期間はおよそ1ヶ月から2ヶ月間。
そこまで知っている人は多いと思う。ぼくに相談された男性もその認識でいた。
だが、産後のセックス再開はそう単純な話じゃない。
子どもを育てるためには、「いま、ここ」に集中する必要があり、多くの女性は性欲が一粒足りとも存在しない世界へと足を踏み入れる。
なぜ、多くの男性はこの事実に気がつかないのか?
それは、同じ世界を生きていないからだ。
ぼく自身、3人目にして初めて長期育休を取得して分かったことがある。
赤ちゃんを抱きしめるたびに、小さな口に哺乳瓶を咥えさせるたびに、抱っこによってガン泣きから天使の寝顔へといざなうたびに、自分という人間の構成要素がガラガラと音を立てて変わっていくのだ。
個人的な夢の達成のため、自分の欲望を満たすため、そして他者より自分を優先させるために働いていた歯車が、老朽化した建造物のように崩れ去っていく。
廃墟と化したぼくに残されたもの、それは「他者へのケア」という骨組みだ。
自分のためではなく、子どものために生きる。
自分の欲望なんて、ささいな取るに足りないことのように思えるようになる。
オキシトシンとエンドルフィンが身体中を満たし、精神を「いま、ここ」へと導き、新しい自分へと再構築を始める。
そこに性欲が入り込む余地は1ミリたりともない。
その代わり、どんなに素敵な美女とのセックスでも得られないほどの「愛し、愛されている実感」を手に入れることができる。
これが、「妻と同じ世界を見る」ことの意味だったのだ。
産後、女性は子どもを育てる母になるため、ホルモン変化により、体と心が大きく変化する。
と、同時にそれは生殖欲求から遠のくことも意味している。
その変化の重要性に気がつき、育児に精を出し、妻と同じタイミングで「親」となることで、ホルモンバランスを妻とシンクロさせることができる。
浮気性のハタネズミにバソプレシン(オキシトシンと同じ働きをするホルモン、人は射精時に分泌される)の活性を高める遺伝子を投与すると、魅力的なメスが近くにいても、たった一匹のメスとだけ長期的な関係を築くようになる。
ぼくら男性はドーパミンに突き動かされ、心の落ち着き(バソプレシンやオキシトシンの効果)を、セックスでしか得られない(バソプレシンが射精時に分泌され、肌の触れ合いでオキシトシンが分泌されるからだ)と思い込んでいる。
でも、そんなことはないんだ。
二人が同時に親になることで、もしくは、今から妻に追いつこうと、本当の意味で親へとなることによって変わるはずだ。
妻と同じ目線で子育てに向き合うことで、予測報酬誤差をもたらすドーパミンではなく、精神の安定をもたらすオキシトシンがあなたの体に分泌され、二人は二度と離れることのないレアアース磁石のように一つになれるのだ。
ーーあとがきーー
10月からYouTubeでもポッドキャストを流せるようになり、ぼくのポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」もYouTubeデビューをしました。
YouTube musicでも聴けますので、YouTubeやYouTube musicを普段使っている方は、こちらからもぜひチェックしてみてください。
YouTube側の不具合なのか、まだ過去回がすべて見れない状態ですが、たぶん一週間くらいで直るはず。
以前、自分で音声を動画にしてアップロードしていたので、同じ動画が被っていたりと全然慣れていませんが・・・
オリジナルで作ったサムネイルと自動設定された画像のどっちの方が見られやすいのかなど、色々試行錯誤していこうと思います。
ーーお知らせーー
この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。
下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。
下線がある目次はすでに書いた記事へのリンクです。クリックすると記事に飛びます。
本が完成するまで記事を書き続けますので、応援していただけると嬉しいです。
それから、夫婦関係研究へのサポートも募集しています。
サポートはポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」運営費用、取材費など、大切に使わせていただき、毎月末にサポートメンバー向けに、活動報告記事をお送りさせていただいています。
ぼくと同じく「世の中から夫婦関係に悩む人をなくしたい」と思ってくださる方、アツを応援したいと思う方は、ぜひサポートをよろしくお願いします。
第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?
◾️第一章:恋から愛への移行不具合
○恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
○絆を構築する共同体験の欠如
◾️第二章:無から愛の生成不良
○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合
◾️第三章:夫への恨みの生成過程
○未完に終わった夫婦の発達課題
・結婚前に獲得すべきだった「本当の親密さ」とは?
・未確立な夫婦のアイデンティティ
・親になること、夫婦になること
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現をやめられない夫たち
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○「夫への恨み」はいかにして生まれるのか?
○なぜ、あなたの妻は「婚外恋愛」を望むのか?
◾️第四章:セックスに関する無理解
○産後にセックスに興味を失う理由(←ここ)
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在
◾️第五章:現状把握と事態の受け入れ
○妻の恨みの根幹を知る
○思い込みにとらわれず質問を恐れない
○客観的に自分たちを見つめる
◾️第六章:妻から嫌われる3つのパターン
○家庭より仕事を優先してきた
○家族の幸せより自己実現を優先させてきた
○妻への思いやりより自己の欲望を優先させてきた
第二部:では、どうするか?
◾️第一章:皿洗いをする前にやるべきこと
○夫婦の絆の土台となる”親密性”
○「受け止めてもらえる」安心感を妻に与える
○柔らかな感情の掘り起こし
◾️第ニ章:愛着の形成が二人の絆を作る
○柔らかな感情の共有
○相互理解という快感
○夫婦に恋愛は必要ない
○ドーパミンではなく、オキシトシンが愛を作る
◾️第三章:自分も相手も大切にするアサーティブコミュニケーション
→詳細考え中
◾️第四章:セルフコンパッションで関係改善の努力を継続
→詳細考え中
◾️第五章:セックスは愛の最終形態
○セックスは手段、目的は親密性への触れ合い
○性の話し合いを恐れない
第三部:フェニックスマンの特徴
○夫婦関係を改善できる男性の特徴とは?
それでは、また!