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式場選びで芽生えた”妻を守りたい”という思い

「結婚式は必ずこっちでやるように。絶対にだ」

父からきたLINEにはそう書かれていた。

有無を言わさず、一切の反論を許さず、話し合いの余地などまったくないことを感じさせるその文章に、ぼくはただ「了解」とだけ返事をした。

29歳の冬のこと、ぼくと妻は結婚式の準備に追われていた。

ぼくらは同じ関東圏の出身だけど、お互いの実家は車で1時間半ほど離れている。

電車の便も悪く、高速道路を使わないとたどり着くことができない。

当時、ぼくらはお互いの身近な親戚だけを呼んで、ぼくらが住んでいる都内で簡単な式を挙げることも検討したのだけど、ぼくの両親の強い希望で、ぼくの地元で行うことになったんです。

ぼくの地元はそこそこ田舎なので、結婚式となると盛大に祝う風習があって、従兄弟の結婚式では日本刀(模造刀だと思う)をくわえた獅子舞が飾られ、クライマックスではその獅子舞を被った4〜5人の男たちが踊り狂っていました。

地元から出ていったぼくらのような人間は、都内の式場で大人しく済ますことが多いのだけど、ぼくの父にとってそれはあり得ない選択だったんです。

ぼくの地元の式場を、うちの両親を交えていくつも見学したのですが、パッとしないところばっかりだったんですよね。

ダサめな南国リゾート風とか、ハリーポッターの映画に出てくるお城を劣化させたような式場とかばかりで、(こんな田舎にろくなもんないんだよ…!)と、ちょっと腹だたしい思いを抱いていたことも確かです。

田舎にしがみついて暮らしていったいなんの得があるんだと、ぼくのイライラは関係のない田舎バッシングにまで及んでいました。

閉鎖的でいつも変わり映えのしない田舎が嫌いで、そこから飛び出したのに、なんでこの街で結婚式を挙げないといけないんだと、式場めぐりで疲れたぼくは思っていました。

夕方になり、最後の式場にたどり着きました。

そこは静かな湖沿いにあるゲストハウスでした。

1日1組限定の一軒家スタイルの式場で、外装や内装、デザインまですべぼくら夫婦の好みにぴったりだったんです。

偶然、ぼくの実家からも車で10分ほどという場所にあったため、ぼくら夫婦の希望と、ぼくの両親の希望のすべてを叶える式場を見つけることができたんです。

あれから10年が経つけれど、いまでもぼくと妻は当時の結婚式を懐かしみ、楽しかった思い出を振り返ることがあります。

お金はかなりかかったし、妻の実家からは遠いので、マイクロバスを借り1時間半かけて移動してもらったけれど、それらすべてを差し引いてもぼくら夫婦にとって最高の式になったんです。

ですが、ぼくは最後まで妻に、父から届いたLINEの話はしませんでした。

「結婚式は必ずこっちでやるように。絶対にだ」

父のLINEの話をしてしまえば、妻はぼくの地元での結婚式を”強制されたもの”であると認識してしまい、楽しめなくなると思ったからです。

「うちの親は地元でやって欲しがっているんだよね。親戚もあっちに多いしさ」

と、やんわりと妻には伝え、なんとなく理解はしてもらうことはできたので、結婚式を行う場所について、妻と揉めることはありませんでした。

父のLINEから感じる威圧的な態度に反発を感じたことは確かでしたが、その文章を読んだときに、ぼくは自分がなにを優先させなければいけないのかに気がついたんです。

このことで父と揉めれば、きっと妻は困ることになる。

父からきた文章をそのまま妻に伝えれば、妻にとって結婚式が嫌な思い出になってしまう可能性がある。

父の文章を読んでぼくが感じたことは、そういったことでした。

ぼくにとって優先しなければいけないことは、田舎の親族とのつながりではなく、妻とのつながりの方なんだということを、その時に感じたんです。

もちろん、実家とのつながりは切れないし、大切にしたいとは思っているけれど、あえて優先順位をつけるならばそういうことになるし、ぼくにとっての優先順位はそのときにできたんじゃないかと思うんです。

妻を守りたいなと、その時に思ったんです。

妻が嫌な気持ちを感じずに、結婚式を終えて欲しい。

妻にとっていい思い出になって欲しい。

そう思ったんです。

結婚後に、ぼくが自分優先の生活を送らなかったと言われれば、決してそうとは言えないし、妻の気持ちをないがしろにしたこともあったけれど、式場の場所を決めたあのときに、”妻を守りたい”と思ったことは確かなんです。

あのときに生まれた妻への思いは、10年かけて変化しているけれど、出産や育児を通して形を変えながらも、”妻を守りたい”という気持ちは消えていないのだと思うんです。

3人の元気すぎる子どもたちを育てることに、いまのぼくらはすべてのエネルギーを持っていかれているけれど、どうかこの気持ちがいつまでも消えることがないよう、ふたりでやっていきたいと願っています。

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