「変わろうとしない夫が悪い」は何が問題なのか?
これみて?ウチの夫、マジでクソ。家事も育児もしないし親としての自覚ゼロ!
今日も夫への怨嗟に満ちたポストがXをにぎわせています。目にしない日はないほど、夫への嫌悪に満ち満ちた投稿って多いですよね。
そこにアテンション稼ぎのアカウントが便乗し、「食わせてもらってるんだから文句言うな!旦那様が稼いでやってるんだから、女は黙ってろ!等価交換だ!」などと、阿鼻叫喚の図が繰り広がれる……。
まさにザ・ツイッターって感じですよね。ネガティヴパワーが吸い寄せられ、邪悪なピラミッドがSNSにはいくつも構築されています。
夫婦の等価交換に関しては松井博さんの記事が面白かったので、ぜひ読まれてみてください。夫婦って同じ船を漕ぐ仲間だとぼくも思います。
Xにあふれる夫バッシング炎上に話を戻すと、「出産後も価値観が変わらない夫」に話題が集中していますよね。
それだけ悩んでいる女性が多い証拠であると思います。炎上への参加がストレス解消になるのかもしれないですが、ぼくは何の意味も生まない非建設的な行為だと思ってます。
なぜなら、男女間の対立を煽るだけで、本来の目的である「良好な夫婦関係作り」は遠のいていくからです。
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「変わらない夫が悪い」トピックの問題は、「夫が悪い」だけで議論が止まっていることです。あんたが悪いんだから、あんたがなんとかしなさいよ。私は被害者よ。そこで思考が止まっている。
確かに肉体的もしくは精神DVがある場合は明確に被害者であり、しかるべき相談先に駆け込むべきだと思います。そして、小さい子どもを抱えワンオペで疲弊した日々を送っているならば、思考のリソースが奪われ、何も考えられなくなると思います。
でも、そこまでではなく、意見がいつも食い違うとか、お互いの価値観を認め合えないというレベルなら話は違うと思うのです。
「夫が悪い」で話を終わらせず、思考と議論を進める必要があります。
なぜ、あなたの夫は変わらないのか?
そもそも変わることができないのか?
それとも変わろうとしていないのか?
であるならば、それはなぜでしょうか?
人の思考は深く暗い井戸の底のようなものだとぼくは思います。頑丈な滑車を持つ人ならば、井戸の底から本音をガンガンすくい取れますが、多くの人はそうではありません。
みずからの思考に井戸があることも気がつきません。井戸から込み上げる冷たい風に含まれる微量な悲しみに気付かず、自分の感情に無関心という布を被せて終わりです。
なぜ、夫は変わらないのか?
彼の深く暗い井戸の底を覗き込むのです。
「悪いのは夫なのに、なんて私が?」と思うかもしれませんが、夫自身も自分の井戸の底になにがあるのかわかっていないんです。ぼくもそれを知るのに何年もかかりました。
井戸の底に何があるのか?いくつか例をあげますね。
出世と出産のタイミングが重なることによる葛藤が夫を変えない
例えばそれは、出世と出産のタイミングがかぶったことへの葛藤であったり、それを素直に妻に伝えられない葛藤であったりします。
ぼくの場合、6年前に3ヶ月間の育休を取得したのですが、復帰後に評価を大きく下げられました。
不在だった3ヶ月間に実績がなかったため、単純に年間評価が75%になったのです。
育休でいなかったんだから実績を上げられるわけないんですが、育休取得は明らかに従業員としての評価にマイナスに働きました。
男性育休が浸透した今ではそんなことないかもしれませんが、育休が広がり始めたばかりの頃はこんなことがあり、男性育休取得の壁になっていたんだと思います。
ただ、その後の仕事で成果を出せばいいだけの話ですが、なんだか情けない話で妻にも話せず、仕事と家庭の板挟みを感じたことを覚えています。
育休前の評価をあと数年続ければ出世できるタイミングでもあったので、なんだか拍子抜けしたものです。会社に人生を捧げるのは意味がないなとぼくは思いましたが、人によっては家庭よりも仕事を優先するきっかけになったかもしれません。
こういった感情の変化を妻に素直に伝えられないと、夫婦間に葛藤が起こり価値観はすり合わせできないですよね。
オキシトシン分泌量の差が夫を変えない
また、別の理由として、オキシトシン分泌量の差もあげられます。
女性は出産時に子宮口が開くことでオキシトシンが大量に分泌され、絶え間ない授乳や寝かしつけによってさらに分泌されていきます。
オキシトシンは幸せホルモンと呼ばれ、目の前の人間を愛しく思う作用があるため、自然と育児に熱心になり、子供のことを考えた生活へとシフトしやすくなります。
ところが子宮口が存在しないばかりか、日中は仕事で不在がちなぼくら男性はオキシトシンを分泌させるタイミングが少なく、育児に対する価値観が妻と大きくずれていくんです。
今は長期育休を取得したり、出勤前と後に育児に専念する男性も増えていますが、日中の差はどうしても埋められません。そのため、オキシトシン分泌量の差が二人の価値観の溝を生んでいくのです。
また、夫婦が体験と決定を共有しない問題もあります。
体験と決定の非共有が夫を変えない
子供の吃音で悩んでいる。不登校で悩んでいる。障害で悩んでいる。
育児をめぐる悩みはどんな家庭にもあると思います。うちの場合もそうですが、多くの場合、こういった対処にあたるのは妻であることが多いです。
夫より仕事時間が短いため動きやすいというのもありますが、オキシトシン分泌量の差が妻を夫よりも当事者にしているのです。
子供の吃音、不登校、障害などにどれだけ関わってきたか、それに対する意志決定ボタンをどれだけ押し続けてきたか。
そういった夫婦間における体験と決定の非共有が、「変わろうとしない夫」を生むのです。
うちの場合、子供の吃音で悩んでいた時期があったのですが、妻の方が圧倒的に時間と労力を注ぎました。まるで枯れた井戸に水を注ぎ込み続けるように、妻はとても熱心に子供の課題に立ち向かいました。
そういった体験の不均等や決定体験の欠如が多い場合、気を抜くとすぐ「変わらない夫」になりやすくなるんですよね。何度か妻からぼくの態度が「他人事のように見える」と言われたことがあります。
そのため、体験量の差があっても妻の話をきちんと聞くことで体験量の差をおぎない、重要な場面での意思決定はなるべく自分が行おうと意識しています。
意思決定を妻に100%ゆだねてしまうと、責任を1人で抱え込ませることになるのでおすすめできません。可能ならば(ぼくも完璧にできてませんが)、体験量の差はあっても意思決定は夫が行い、その責任を背負う方が妻からの信頼は上がります。
最後は自分が生まれ育った家族からの影響です。
源家族が人を作る。
生まれ育った家庭を源家族と呼びますが、多くの人は知らず知らずのうちに人格形成の影響を源家族から受けています。
父親が強い権力を握っていた家庭で育った男性は、幼少期に父親の行動を観察、模倣、モデリングすることで自分の中に取り込んでいきます。
権威的な父親に反発を感じていても、気がつけば自分がそんな夫になっていたという話は本当によく聞きます。
川の流れには逆らえないように、人は無意識のうちに源家族を再生産するのです。
ぼくの父親は婿養子だったので、家ではまったく権力がありませんでした。もう見ていてかわいそうになるくらい、ぼくの母の両親に虐げられていました。
特に祖母は祖父と同じ程度稼いでいることから祖父からずいぶん尊敬されており、祖母の家庭内におけるヒエラルキーはダントツでトップでした。
ぼくが女性と男性の両方の心理が手に取るようにわかるのは、源家族のなかでカウンセラーのような役割を担っていたからだと思います。
ぼくは自分のことをだいぶ観察したのでこういったことを理解していますが、多くの人は無意識のうちに源家族を自分の家庭の中で再演するので、なかなか気づくことができないんです。
夫の暗く深い井戸の底に何があるのか?
もしかしたらそれは、家事育児の圧倒的な体験量の差が生んだ無理解かもしれない。
もしかしたらそれは、仕事と家庭で板挟みになりながらも、その葛藤を妻に伝えられないみじめさかもしれない。
夫自身ですら気がついていないそれらを2人で引っ張り上げ、しげしげと手に取り見つめる。
認めたくないものや情けないものもそこにはあるけど、それらを2人が受け止めることで、2人の価値観は変容していくのだと思う。
この話はポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」でもお話ししています。通勤や家事のおともにぜひ。月曜は朝5時から、火曜から金曜は朝6時半からお送りしています。
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