恋から愛への移行不具合ー恋のメカニズム
「あんなに好き合っていたはずなのに、なぜこんなことになったんだろう?」
妻から嫌われると、そう感じる方も多いと思います。
子どもが生まれる前や、結婚したばかりの頃はあんなに仲がよかったのに、なぜ、今はこんなにも距離があるのだろうと。
あの恋愛感情は一体どこに行ってしまったのだろう?
もう、手に入らないのだろうか?
実は、失われた恋愛による高揚感が戻ってくることはありません。
その事実を受け止めるためには、恋のメカニズムについて理解する必要があります。
失った恋の代わりに、愛を手に入れるためにも。
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映画や歌や詩によって美しく彩られる、恋愛による心の高揚はどこからきてどこへ行くのか?
その秘密はドーパミンにあります。
進化人類学者ヘレン・フィッシャー博士の研究によると、人は恋に落ちた時、腹側被蓋屋(通称VTA)という脳の部位が激しく反応することがわかっています。
VTAが激しく反応することによって脳の各部位へドーパミンが送られ、そのドーパミン作用によって恋人たちはいつまでもおしゃべりを続け、見つめ合うことができるのです。
また、VTAは「やる気スイッチ」とも呼ばれる側坐核へもドーパミンを送り出すため、動機づけや中毒作用にも大きな影響を与えています。
薬物中毒は典型的な例ですが、恋愛も一種の中毒だと言えます。
寝ても覚めても恋人のことばかり考えていた経験があるのはぼくだけではないと思いますが、それは側坐核にドーパミンを送られたことによる中毒作用が原因です。
VTAは喉の渇きや空腹に関連する脳領域の近くにあるため、恋愛は人間に組み込まれた原始的な欲求とも言えます。
「恋愛は、水を求めるのと同じくらい重要な生存メカニズムである」
ヘレン・フィッシャー博士の著書、「ANATOMY OF LOVE」にはそう書かれています。
人の三大欲求の一つに性欲が挙げられますが、性欲というより「恋愛欲求」と表現した方が、ぼくとしては納得感があります。
ただセックスがしたいというより、もっとこの人と一緒にいたい、もっと話したい、この人と同じ時間と空間を共有したいという感情の方が強いですよね。
身体の隅々まで満たされるようなこの幸福感が、世界が終わるまで続けばいいのに。
そう願った人もきっといるはずです。ぼくもそうです。
VTAから放出される大量のドーパミンによって、恋の熱に冒され、その勢いに乗って、多くの人がパートナーと永遠の誓いを立てます。
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?
そう問われ、イエスと答えたならば、この愛は永遠に続くはず。
きっと多くの人がそう思ったはずです。
故郷の湖畔に佇む小さな教会で、ぼくと妻も永遠の愛を誓いました。
神父が誓いの言葉をかけている時、空を覆っていた雲が消え去り、一筋の光がステンドグラスから差し込み、妻をより一層美しく輝かせた瞬間を、ぼくは今でもありありと思い出すことができます。
ですが、残念なことに人の恋愛感情は永遠には続きません。
ぼくの妻への恋愛感情も、ある日を境に消えてなくなりました。
ヘレン・フィッシャー博士が顧問を務める世界的規模のマッチングアプリ、マッチドットコムの調査によると、恋人への情熱期間の平均は次のようなものでした。
2年から5年が29%、6年から10年が8%、そして10年以上が18%以上、情熱期間が続いたことがわかりました。
世の中の人間の三分の一が、2年から5年間で恋愛感情が消えてなくなるのです。
また、国連が行なった調査によっても、結婚から5年以内に離婚する人がもっとも多いことがわかっています。
一方で10年以上も恋愛感情が続いている人の割合が18%以上であることも事実です。
恋愛感情は時とともに消えるはずなのに、彼らには何が起こっているのでしょうか?
平均結婚年数が21年間である夫婦たちをMRIにかけたところ、あることがわかりました。
成人した子どもを持つ彼らの脳のVTAは、恋に落ちたばかりのカップルと同じように激しく反応していたのです。
不思議ですよね。21年間も付き合い続けている夫婦と、付き合いたてのカップルの恋愛感情が同じだなんて。
しかし、ひとつだけ違う点があったのです。不安に関連する脳領域での活動です。
長期間の婚姻関係を継続している夫婦では、不安に関する脳領域の活動が活発ではなく、その代わりに冷静さや痛みの抑制に関連する脳領域での活動が目立ったのです。
つまり、恋のトキメキやドキドキがない代わりに、落ち着いた気持ちで相手を慈しむ関係へと変化していたのです。
ここからわかることは、10年間以上も情熱を保ち続けている夫婦は、パートナーへの激しい愛や性的衝動を保持し続けることができる代わりに、相手を強く求める強迫観念や、激しい恋の高揚感が減退するということです。
ぼくは、これが恋から愛への移行でおり、多くの人が見逃している重大なポイントだと考えています。
恋と愛は別物なのです。
激しい恋のときめきと、長く穏やかに続く愛は似ているようでまったく異なる存在だということです。
溢れ出るドーパミンの波に揉まれ、それが愛だとぼくらは錯覚しがちですが、それはホルモンによって脳が作り上げた「恋愛感情」であり、人を繁殖へと駆り立てるトリガーでしかないのです。
繁殖へのトリガー?
あんなにも美しく、狂おしい心のときめきを、そんな情緒のかけらもない言葉で表現して欲しくない。
あの日あの時感じた胸のときめきは、確かに存在したんだ……!
そう思う方もいると思います。
そして、恋愛こそ愛であり、同一である。相手への強い心の高揚がない感情なんて愛ではない。
そう思う方もいるかもしれません。
ですが、これが脳科学の調査によって裏付けられた事実なのです。
ぼくらは神経伝達物質によって操られる、ただの一つの種でしかないのです。
ですが、ぼくは知っています。
恋を超えた先にある愛の素晴らしさを。二人の個体を強く結びつけ、支え合わせ、どんなに大きなトラブルが起こっても乗り越えられる、その愛の強さを。
妻に嫌われた時、それは二人の愛の終わりではなく、愛という新しい絆を作り上げる時が来たということ。
ただ、それだけのことなのです。
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この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。
下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。
明日以降もぜひ読んでいただけると嬉しいです。
第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?
◾️第一章:恋から愛への移行不具合
○恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
○絆を構築する共同体験の欠如
◾️第二章:無から愛の生成不良
○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合
第二部:では、どうするか?
◾️第一章:夫への恨みの生成過程を知る
○未完に終わった夫婦の発達課題
・結婚前に獲得すべきだった「本当の親密さ」とは?
・未確立な夫婦のアイデンティティ
・親になること、夫婦になること
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現をやめられない夫たち
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○「夫への恨み」はいかにして生まれるのか?
○なぜ、あなたの妻は「婚外恋愛」を望むのか?
◾️第二章:セックスに関する無理解を知る
○産後にセックスに興味を失う理由
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在
◾️第三章:現状把握と事態の受け入れ
○妻の恨みの根幹を知る
○妻の恨みの発生原因と対応策
○妻を家政婦として見ていないか?
○妻を性的愛玩具として見ていないか?
○人生の優先順位を間違えていないか?
◾️第四章:愛着スタイルから考える夫婦関係悪化の原因
○冷えた夫婦関係を温める”アタッチメント”を手に入れろ!
○回避型愛着スタイルを持つパートナーとの付き合い方とは?
○不安型愛着スタイルを持つパートナーとの付き合い方とは?
○オキシトシンが夫婦の精神的親密性を生み、精神的親密性が愛を生む
◾️第五章:精神的親密性という二人の基礎を作る
○二人の間のエモーショナルに焦点を当てる(EFTに関して説明)
○二人の関係性のダイナミクスを変えていく(EFTを夫婦間コニュニケーションに応用)
○相互理解の快感が恋愛を超える
◾️第六章:セックスは愛の最終形態
○セックスは手段、目的は親密性との触れ合い
○ケアラーはなぜセクシーなのか?
第三部:どうやって努力を継続させるか?
◾️第一章:関係性改善の継続のために必要なもの
○別れる覚悟を持つ
○共に前に進む仲間を作る
○自分に思いやりを与えるセルフコンパッションで走り続ける
◾️第ニ章:妻への思いやりを定着させるコンパッション
○コンパッションとは?
○まずは自分が酸素マスクをつける(自分を思いやりで満たす。自分に思いやりを向けることを許す)
○具体的なコンパッションワーク(スージングブリーズ、マインドフルネス、友人からの手紙、思いやりを受け取る・与えるワーク)
◾️第三章:妻へのコンパッションを実現させるステップ
○他者(妻以外)へのコンパッションビームと感謝のワークによってコンパッションを体に染み込ませる
○妻へのコンパッションビームと感謝のワーク
○妻への感謝を言葉にして伝える
まとめ:妻との関係改善に本当に必要なものとは?
番外編:夫婦関係改善に役立つモノ
○ジャーナリング
○世帯経営ノート
○EFTカップルセラピー
○トラウマ治療
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