野良カウンセラーを2年間続けて、自分に求められている役割がやっと分かった話
今から4年前、ぼくが細々と書いていたブログに問い合わせメールが来たことがありました。
「すでに破綻した夫婦関係の場合」
そんなタイトルがついていたメールには、妻との関係に悩むその方の苦悩がびっちりと書かれていたんです。
カウンセラーでもない、心理学の専門家でもない、単なる普通の会社員が書いている雑記ブログに届いたそのメールには、彼の悲痛な思いがつづられていました。
当時、ぼくは夫婦関係を自力で改善した記録をブログに残していたのですが、それを読んだ方からの相談メールだったんです。
「どうしたらいいのでしょうか?」
そう締めくくられたメールを見ながら、ぼくはしばらく考え込んでしまいました。
いったいなんで、この人はぼくにメールを送ってきたんだろう?
ぼくはいったいどうしたらいいんだろう?
この人にぼくができることがあるんだろうか?
スタバの硬い椅子に座り、頭をひねりながら返信メールを書き始めたそのときから、「妻との関係に悩む方たちとの関わり」がぼくのライフワークになりました。
そして、それは世間では「自称心理カウンセラー」や、「野良カウンセラー」と呼ばれるものだったのです。
カウンセラーの定義の不明確さと業界の歪み
臨床心理士の方が書かれた「夫婦カウンセラー批判」記事を読むと、臨床心理士でも公認心理士でもない心理学の知識がない人間がカウンセリングを行うことをバッシングしていることが多いですよね。
だけど、臨床心理士は「カウンセリング業務」を独占できないので、通信講座の資格しか持っていない人間でも、なんならその資格さえない人間でもカウンセリング業務ができちゃうんですよね。
下の記事で書いたように、この業界は歪みが生まれていると思います。
たまにブログに届く「妻との関係に悩む男性のお悩み相談」に乗りながら、自分の能力不足を感じたぼくは、日本能力開発推進協会の夫婦カウンセラーの資格を取ることにしたんです。
受験費用は5,600円だけど、実はそのために39,600円の通信講座を受けなくてはいけなくて、資格を取ったあとは他の心理系の資格取得をすすめられるという完全なる資格ビジネスでした。
高いなと思いつつ、4万円以上をかけてこの資格を取りましたが、正直なところ、これが夫婦関係改善のお悩み相談に役立ったかというと、ほとんど役に立たなかったんですね。
それよりも、自分の過去の経験や、呉服屋時代に鍛えられた女性とのコミュニケーション術や、心理学の書籍の方がよっぽど役に立ったなと感じてます。
なぜ、ぼくに夫婦関係の相談をするのか?
妻との関係に悩む男性たちとメールやZOOMのやりとりを通して、うまくいくケースも出てきました。
ただ、回数を重ねるにつれて、ぼくの能力不足を感じるケースも出てきたんです。
女性とうまくコミュニケーションを取れない男性が、スムーズなコミュニケーションを取れるようにすることは、ぼくでも一定の効果は出せたなと感じています。
だけど、夫への不信感が凝り固まってしまった「その方の妻」の気持ちを変えることは、本当に難しかったです。
当初、ぼくは「男性の行動」が変われば「女性の気持ち」も変わっていくと思っていました。
でも、違ったんですよね。
夫への恨みがつのり、硬い岩石のような心になってしまった妻の心を溶かしたり、自分の感情を素直に表現できない人が感情をパートナーに伝えられるようになるためには「心理療法」が必要だったんです。そして、それはぼくにはできないことでした。
臨床心理士ではないカウンセラーのカウンセリングと、臨床心理士のカウンセリングの両方に行かれた方のお話を聞いたときに、それは確信に変わりました。
これ(心理療法)はプロの領域だ。素人が真似しようとしてもできない技術だと。
その頃からぼくは、ぼくに夫婦関係のご相談をしてくださる方に、「夫婦でカウンセリングに行くなら臨床心理士のところに行ってください」と伝えるようになったんです。
「あなたの妻がカウンセリングを受けてくれる状態なら、今のうちに臨床心理士のところにふたりで行ってください」と。
でも一方で、ぼくには別な価値があることも、ご相談者さんとのお話の中で気がつかされたんです。
臨床心理士ではないぼくができること
「いつでも話を聞いてくれる安心感があるんです」
「同じ経験をした人だからこそ、自分の状況を分かってもらえているという感覚が強いんです」
「カウンセラーは敷居が高いんです」
そんなことを言われるようになりました。
つまり、ぼくはそもそも相談者さんからはカウンセラーとしては見られていなくて、夫婦関係改善の経験者としての意見を求められていたり、誰にも言えないこの気持ちを、同じ立場から分かって欲しいと思われていたんです。
「妻から嫌われているみたいなんです」
なんて、男性は誰にも言えないんですよね。友人や家族にさえ言えないんです。ましてや、同僚になんて絶対に言えません。
誰にも言えないこの苦しみを、同じ経験をしたこの人なら分かってくれるはず。なにかアドバイスをもらえるのではということだったんです。
そして、ZOOMでやりとりを続けるうちに、友人ではないけれど「夫婦関係」という共通項を軸に、不思議な絆が相談者さんたちとの間にできたんです。
ぼくが「臨床心理士さんのところに行ってください」と言うようになってから、この絆も切れるかなと思ったのですが、そんなことはなく、先程の「友人ではないけど強い絆」をより強く感じるようになっていきました。
妻との関係がおかしくなってきたのだけど、誰に相談したらいいのか分からないという方に、どういうカウンセラーを選べばいいのか(臨床心理士を選んでくださいと伝えるだけですが)を伝えたり、女性心理を伝えたりするなかで、ぼくに求められている役割はカウンセラーじゃなかったなと、感じるようになったいきました。
めちゃくちゃ夫婦関係に詳しい口の硬い友人というか、誰にも言えない夫婦関係の悩みをこの人にまず聞いてもらいたいと思えるような存在というか、友人以上カウンセラー未満というか、たぶんそういった立ち位置にぼくはいるんだと思うんです。
それに、男性目線と女性目線を行き来しながら、夫婦関係改善の話をフラットにできる人って少ないと思うんです。
たいてい、どちらかの性からの共感を得るために極端なことを言っている人が多いですから。
誰にも言えない悩みを言える存在であり、同じ立場として友人以上の絆を作れる存在であり、臨床心理士などプロへの橋渡しもする存在。
野良カウンセラーとも呼ばれる「夫婦カウンセラー」としての活動を2年ほど続けて、ぼくが辿り着いた結論はそういうものでした。
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夫婦関係に関するPodcastもやっています。こちらも聴いていただけると嬉しいです。