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”自己分化度”から考える、夫婦がお互いに歩み寄れない理由と解決方法
出会ったばかりの頃に素敵だなと思っていた相手の魅力が、時間が経つにつれて嫌いになっていくことってありますよね。
いつも冷静で的確なアドバイスをくれるところがよかったのに、今ではこちらの気持ちを受け止めてくれず、一方的な話ばかりしてくる。
嬉しいとか楽しいとか感情を素直に表現するのが素敵だったのに、今ではすぐに怒るようになって近寄りがたくなっている。
そんなことってありますよね。
ぼくも妻から「(感情が読めないので)何を考えているかわからなくて嫌だ」と言われたことがあります。(結婚する前は落ち着いているところがいいと言われたのに……。)
お互い惹かれ合って結婚したはずなのに、なぜその惹かれたポイントが嫌いになってしまうんでしょう?
こないだ読んだ本にそのヒントがあったので、今日はこのことについて書いてみようと思います。
※この記事は下リンク記事のアップデート版です。内容を最新情報に更新し、複数の記事にまとめ、最後に一冊の本として出版します。
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相手の魅力への意味づけが変化する
物静かなところが好き、感情表現豊かなところが好き。
この人は自分にはない魅力を持っている。
自分に欠けているポイントをおぎなうかのように、自分とはちょっと違う魅力を持つ人に惹かれることってありますよね。
ぼくは妻の感情表現豊かなところに惹かれ、妻はぼくの冷静なところに惹かれました。
あぁ、こうなりたいな。自分もこういう魅力を手に入れたいなと思い、お互いの長所と欠点をおぎない合うかのように相手に惹かれ、結婚を決意した人も多いと思います。
ぼくもそうでした。
だけど、結婚し、出産し、子育てが進むにつれて、魅力だと思っていた相手の特徴に抱く感情って変わっていくんですよね。
何を考えているかわからなくて落ち着かない。もっと感情表現すればいいのに。
感情に振り回されすぎてなにも前に進まない。もっと論理的に物事をとらえればいいのに。
以前なら素敵だなと思っていたポイントがイライラポイントに変わるようになるんです。子育てをしていると、そう思う瞬間がたくさん出てきますよね。
お互いに”相手が自分に歩み寄る”ことを期待し、自分は変わろうとしない。
それは”堅固な相補性をめぐる夫婦の葛藤”と呼ばれる現象だそうです。
詳しく説明しますね。
夫婦の相性を決める”自己分化度”
生まれたばかりの人間は感情の塊ですよね。
お腹が空いた!ねむい!
そんな根源的な欲求を解消するために泣いたり怒ったり、ときには楽しくて笑ったり。
小さな子どもを見ているとそんなことばかりですよね。うちの子たちも2〜3才頃までは、まさに感情の塊という感じでした。
でも、人は成長するにつれて知性が芽生えていき、感情と知性が分化するようになるんです。
この感情と知性を、感情システム、知性システムと呼ぶそうです。
私たち人間は感情システム(感情と感覚)と知性システム(思考や論理)から成り立っている生き物です。人はもともとは感情システムの塊としてこの世に生まれてくるのですが、心身の発達に伴ってそこから知性システムが分化していきます。
感情システムと知性システムがどのように発達していくか、ふたつのバランスがどのように分かれていくかは人それぞれなため、分化度には個人差があります。
感情と知性がどちらも発達していると(自己分化度が高い)と、感情システムと知性システムの両方を使うことができます。
すると、夫婦関係のトラブル時に自分の気持ちをきちんと伝えたり、相手の気持ちを受け止めることができ、どうすればいいかを冷静に考えられるようになるんです。
逆に、知性システムがうまく発達していないと、感情システムと知性システムがあまり分かれていないので(自己分化度が低い)、感情と知性がくっついてしまって、感情に振り回せて論理的な対応ができなかったりします。
自己分化度が高い人間ばかりなら、夫婦関係の問題は深刻化しないんでしょうけど、残念ながら自己分化度は人それぞれ違うんです。
自己分化度は、生まれ育った家庭の影響を強く受けるんです。
人の家庭はみんなそれぞれだから、人の自己分化度もそれぞれ違いますもんね。
だけど、人は自分と同じ分化度の人と結婚する傾向があるそうなんです。
思い返してみれば、出会ったばかりの妻や夫は、なんだか話があったなと思いませんか?
それは恋に落ちていたからだけではなくて、きっと自己分化度が同じだったからだと思うんです。
感情システムが強く知性システムが弱いもの同士だったり、逆に知性システムが強く感情システムが弱いもの同士だったり。
それから、片方が感情システムが知性システムより強くて、もう片方は知性システムが強くて感情システムが弱いというカップルもいます。
このデコボコ夫婦はけっこう多いんじゃないかと思うんですよね。
お互いに足りない部分を補い合っているわけです。きっと出会った頃は自分にない魅力を持っている相手がとても素敵に見えたんだと思います。
だけど、結婚し、出産し、子育てをするなかで、相手に求めるものも変わってきますよね。
いつでも冷静沈着なアドバイスが欲しいわけじゃなくて、ただ心に寄り添って欲しいときもある。
いつでも感情を出しっぱなしにするんじゃなくて、前を向いて計画的に進んで欲しいと思うこともある。
だけど、それをジャマするのが、夫婦がお互いに惹かれ合いデコボコを埋めているはずの”堅固な相補性”そのものなんです。
”変わるべきなのは相手”とふたりが思っている
ぼくもそうでしたが、夫婦でトラブルが起こると「相手に変わって欲しい」と思ってしまいますよね。
悪いのはあなたであって、変わるべきなのはあなたであると。
これは自分にとって発達している方のシステム(感情 or 知性)で物事を考えているからなんです。
感情システムが発達している人は自分の感覚をもとに話すので、論理的な整理が苦手で相手に同情や共感を期待しますよね。
そして、自分と他者を分けて考えることができないタイプなので、夫婦間のトラブルを冷静に見つめたり、自分の言動を客観的に振り返ることも苦手です。
浮気を”した側”がパートナーに共感や同情を求めて、自分の行動を冷静に振り返らないという話を耳にすることがあるのですが、この場合も感情に振り回されて、知性システムが機能していないんじゃないかと思うんです。
逆に知性システムの方が発達している人は、論理や理屈をもとに理路整然とした話ができるけど、自分の気持ちに気づくことも表現することも苦手です。
こういった人は、パートナーの気持ちに共感したり、理解したり、受け止めることすら難しいんです。
出会ったばかりのころはこういった特徴が魅力的に見えていたけど、結婚出産などのライフスタイルの変化によって、短所に変わってくるんですよね。
そして、相手に変わって欲しいと願うようになる。正しいのは自分であり、間違っているのはあなたであると。
あなたさえ変われば、すべて解決するのだからと。
なんで、あなたはそんなに人の気持ちがわからないの?
なんで、あなたはそんなに人の話が理解できないの?
感情的に相手にせまり、言われた方は理屈で回避し、さらに感情的にせまり、また理屈で回避される。
その繰り返しのなかでふたりは疲弊していきます。ぼくにもそんな時期がありました。(いまでもあると妻は言うかもしれないけど)
ふたりが変わる
だけど、相手に変化を望んでいるうちは関係性は改善できないと、日本心理療法統合学会理事であり明治学院大学心理学部教授でもある野末 武義さんは著書のなかで書かれています。
しかし、カップル・セラピーでは、二人が変化することをめざします。つまり、セラピストは、感情システムが優位な人に対しては、感情にふり回されずに知性システムがもう少し機能し、冷静に考えられるようになるよう、ただ傾聴するのではなく、時折話を止めて明確化したりします。
一方、知性システムが優位な人に対しては、自分の感情に気づき少しづつ表現できるようになるよう、気持ちを尋ねたり、パートナーの感情をもう少し理解できるように、通訳のような役割を果たしたりします。
感情システムが優位な人には「傾聴するだけでなく、話を止めてなにを言いたいかを明確化する」。
知性システムが優位な人には、「気持ちを尋ねたり、パートナーの感情を理解できるように通訳のような役割を果たす」。
これは、心理療法を行う方たちがカウンセリングのなかでおこなっていることかと思いますが、夫婦間でも意識することができることだと思うんです。
パートナーが感情的になっているなと思ったら、話を止めて(イライラせずに)なにを言いたいかを言語化してあげたり。
もしくはパートナーが理屈ばかりこねているようで、気持ちを口にしないならば「どう感じたの?」などと感情を引き出してあげたりなど。
ぼくらでもできるような気がしますよね?
関係性がものすごくこじれているなら、臨床心理士さんの夫婦カウンセリングの場で行った方がいいと思うけど、そこまでじゃないなら毎日の生活のなかで当事者であるぼくらが意識するだけで、ちょっとした変化が起こるんじゃないかと思うんです。
ぼくら夫婦も日常のなかでなるべく意識しているんですが、ひどく疲れ切っていて余裕がないときを除けば、この働きかけがうまく機能しているような気がしています。
夫婦がお互いに歩み寄れない理由は、お互いの自己分化度の差によるものであり、お互いが相手に自分にとって優位なシステムを押し付けているだけである。
ふたりがお互いにわかり合うためには、それぞれの優位なシステムと苦手なシステムを理解し、お互いに苦手なシステムを引き上げるような働きかけをすることである。
ただそれがわかるだけでも、夫婦関係は少しいい方向に向かうんじゃないかと思うんです。