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Kindle化された山手樹一郎を国立国会図書館デジタルコレクションで読む
『山手樹一郎』沼にハマるガイドブック
山手樹一郎(やまて・きいちろう)。昭和初期から戦後まで、大衆文学の黄金期を彩った作家。作品数はなんと400を超える(らしい)。映画化、舞台化、テレビドラマ化の数を聞くだけでも、彼の人気ぶりがどれほどだったか想像できるでしょ?
「一つ、人の世生き血をすすり、二つ、不埒な悪行三昧、三つ、醜い浮世の鬼を、退治てくれよう、桃太郎」
この決め台詞でおなじみの『桃太郎侍』の原作者も、実はこの山手樹一郎だってこと、読むまで知らなかったお。彼の作風は「時代小説の粋」を体現していて、人情、謎、粋、そして少しの艶っぽさが織りなす物語が特徴。読んでみるとわかるけど、その世界観は時代を超えて今を生きる私にも響くものばかりだし、読む人を江戸や明治の世界へタイムスリップしたような体験をさせてくれる。
その400に近い作品のうち、Kindle化されているのは、以下のリストの通りだが、これらもほとんどは、国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができる。ただし、検索をちょっと工夫しないと見つからない場合もあるし、Kindle化されるから代表作だというわけではなく、単に出版社の都合でKindle化するかどうかが決まるらしいので、はっきり言えば代表作はKindle化されていないと言っていいだろう。
Kindle化されている作品ʕʘ‿ʘʔ
おすねと狂介
お助け河岸
さむらい山脈
のっそりと参上
やん八弁天
わんぱく公子
隠密三国志
花嫁太平記
元禄いろは硯
五十両の夢
巷説 荒木又右衛門
巷説水戸黄門
江戸の朝風
江戸の虹(上)
江戸の虹(下)
江戸の暴れん坊
紅だすき無頼
紅顔夜叉
紅梅行燈
三百六十五日
新編 八犬伝
青雲の鬼
青空剣法
曾我平九郎―続青空剣法―
青春の風
青春峠
青年安兵衛
千石鶴
鉄火奉行
天保うき世硯
天保紅小判
桃太郎侍
鳶のぼんくら松
虹に立つ侍(上)
虹に立つ侍(下)
放れ鷹日記
又四郎行状記(上)
又四郎行状記(下)
夢介千両みやげ 完全版 上下合本版
夢介千両みやげ 完全版(下)
夢介千両みやげ 完全版(上)
野ざらし姫
浪人横丁
浪人市場シリーズ1 市井の雄
浪人市場シリーズ2 恋慕ぐるま
浪人市場シリーズ3 非情の星
浪人市場シリーズ4 花散る里
浪人市場シリーズ5 去る者残る者
浪人市場シリーズ6 黒髪の生命
浪人市場シリーズ7 江戸の素顔
浪人市場シリーズ8 白狐の復讐
崋山と長英
まぁ、52作品もKindle化されているんだから、しばらくは楽しめるのは間違いないが、昭和初期から戦前戦後にかけて、大衆文学として愛された山手樹一郎の代表作が含まれていないのは、悲しい情けないと言うものを以下にリストアップする。
これを読まずして山手樹一郎を読んだなどとは口が裂けても言えないKindle化されていない代表作💦
江戸名物からす堂 代表作といえばこれしかない
恋風街道
恋天狗(恋斬り恩情剣)
花笠浪太郎
はだか大名
ぼんくら天狗(恋風千両剣)
朝焼け富士
素浪人日和(素浪人若さま)
青空浪人
春秋あばれ獅子(姫さま恋慕剣)
江戸群盗記
変化大名
江戸ざくら金四郎(金四郎ざくら)
大名囃子(若さま人情剣)
女人の砦(隠れ与力三五郎)
若殿ばんざい(若さま恋桜始末)
浪人八景
朝晴れ鷹(挿絵入りを古本で買いました)
浪人若殿
八幡鳩九郎(以前は全三巻公開されていましたが、現在はなぜか三巻のみ、古本で買うしかない)、すげー面白いので超おすすめ
鶴姫やくざ帖
天の火柱
江戸へ百七十里(身がわり若様)
江戸の顔役(しぐれ浪人剣)
侍の灯(挿絵が入っています)
たのまれ源八(おたすけ浪人源八)
青雲燃える
さむらい読本(万之介無勝手剣)(古本で買いました)
素浪人案内(古本で買いました)
江戸に夢あり(貧乏旗本恋情剣法)
さむらい根性
殿さま浪人(古本で買いました)
男の星座(古本で買いました)
江戸隠密帖(古本で買いました)
花のお江戸で(古本で買いました)
江戸まで百七十里(古本で買いました)
たのまれ源八:一巻、二巻、三巻のうち一巻のみ見つけられず古本で購入(全巻タイトルが異なり、シリーズものかどうか見分けにくい)
⚠️(かっこ)はのちに改題されて出版されたタイトル
⚠️(古本で買いました)は、デジタルコレクションでも見つけられなかった作品
⚠️番号は順位ではなく、私がダウンロードした順番
国立国会図書館デジタルコレクションでの検索
上記のKindle化されている・もしくはKindle化されていない作品名と、著者を山手樹一郎と入れて検索するのが一般的だ。
桃太郎侍 と 山手樹一郎 で検索すると3作品が出てくる
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合同年鑑 別冊, 合同新聞社 編 合同新聞社, 昭和15
山手樹一郎全集 第1, 講談社, 1960
大衆文学大系 27 (角田喜久雄,山手樹一郎,村雨退二郎), 講談社, 1973
ヒットした3冊のうち、出版年が比較的新しいものから選ぶと、本の状態が良く、黄ばみも少なく、活字も掠れておらず、また古いと二段組が多いけれども(だから文字が小さくて読みづらい)、新しめだと一段組で文字が大きくて読みやすい場合が多いようです。
しかし、この検索の時に、タイトルの桃太郎侍だけを指定して、著者名を入れずに検索すると、同名作品で山手樹一郎作品ではないものがヒットしてしまうのではないかと思ったのですが、(つまりノイズのある結果になると予想)、
ずらっとたくさん出てきました
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合同年鑑 別冊, 合同新聞社 編 合同新聞社, 昭和15
長篇小説名作全集, 日本文芸家協会 編 講談社, 1950長篇小説名作全集 19 第19 山手樹一郎 桃太郎侍,夢介千両みやげ, 日本文芸家協会 編 講談社, 昭和25
山手樹一郎全集 第1, 講談社, 1960
国民の文学 : カラー版 第16 (山手樹一郎), 河出書房, 1967
大衆文学大系 27 (角田喜久雄,山手樹一郎,村雨退二郎), 講談社, 1973
昭和国民文学全集 15 (山手樹一郎集) 増補新版, 筑摩書房, 1978.3
7作品のうち、2番目だけノイズで山手樹一郎作品ではない(なぜか石坂洋次郎作品)が、他は全集とか作品集で、著者名を山手樹一郎に指定するとヒットしなかった3作品だ。
こうやって、検索を少し工夫するだけで、ヒットする数が増えるのだ(ノイズも増える)。
他に検索で注意することは、私があげた作品リストの名前だけにこだわると見つけられない場合があるということだ。山手樹一郎作品は、シリーズ作品が当時はバラバラに出版されて、タイトルも統一されていなかったり、それが後になって別のタイトルになって合本になったり、そして出版社の都合だと思われるけれども、そもそもタイトルが変わってしまったり、微妙に違ったりする場合が多い(私個人の感想です)
例えば、私の大好きな作品で、山手樹一郎の代表作で、Kindle化が熱望されている「江戸名物からす堂」は
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ここで諦めずに、「からす堂」で検索すると、
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ナーンと13件もヒットするのだ。
たくさんあって、どれから読めばいいかわからないが、山手樹一郎wikipediaなどで調べると、読む順番がわかるし、ちょっと眺めて考えると、山手樹一郎全集 第7と山手樹一郎全集 第8と二巻に分かれているから、これが「まとめ」た本だと推定して中身を見ると、その目次から、
十六文からす堂
お紺からす堂
深編笠からす堂
旅枕からす堂
という4作品があり、この順番で読めばいいことがわかってくる。
近づくな! 深い深〜い挿絵沼
また、キーワードに「からす堂」を入れて検索すると、570件もヒットしてしまい、ノイズだらけだが、この中を根気よく順番に眺めていくと、
読切倶楽部 2(2), 三世社 [編] (三世社, 1953-01)
が出てくるので、のぞいてみると、
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こんなふうに、挿絵入りの連載小説を発掘できる。
他にも「遠山政談」を雑誌で検索すると、あの志村立美画伯の挿絵入りも発掘できるのだ!感激!(挿絵画家が異なるバージョンもあって2倍楽しい)
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未来の山手樹一郎ファン(沼の住人)へ
さて、ここまで読んで、もうわかりましたよね? 山手樹一郎作品はただの娯楽ではなく、一種の「体験」なのだと。登場人物たちの粋な会話に笑い、江戸の街並みを肌で感じ、時には胸が締めつけられるような展開に心を奪われる。それが山手樹一郎の物語。
でもね、これが始まりにすぎない。あなたが足を踏み入れるこの沼は深く、広く、そして底なし。気づけば鳩九郎や浪太郎と一緒に歩いている自分がいる。その先に待つのは、誰にも知られたくない自分だけの秘密の冒険なのかもしれない。
私たちがこの沼の住人として願うこと、それはただひとつ。「新たな沼の住人が生まれる瞬間を見届けること。」
さあ、挿絵沼の底でお会いしましょう!
続く、いや、終わらない、終われない。
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