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【管理会計の論点 その11】管理会計における「のれん」の取り扱い

こんにちは!

当コラムでは毎回、管理会計プロジェクトで論点になりそうなトピックを解説します。

論点というぐらいなので、いつも選択肢は1つではありません。
どうやって答えを決めるのか?いつもお客様と一緒に悩みながら、その時にベストな解答を探しますが、ベターなやり方を選択することも多いのが実情です。

さて、第11回目のテーマは「のれん」です。管理会計ではなかなかにやっかいなテーマですが、M&Aが頻繁に行われてる企業にとっては避けては通れないテーマでもあります。


まずは、のれんについて制度会計上の取り扱いをおさらいしましょう。

のれんとは、企業の買収において、買収価格と買収対象企業の純資産時価との差額を指します。例えば、100億円の純資産を持つ企業を150億円で買収した場合、50億円ののれんが計上されます。この金額が、対象企業が持つブランド力や将来的な収益力など、目に見えない価値を表しています。

財務会計での取り扱い

会計基準により、のれんの扱いは以下のように異なります:

  • 日本基準:20年以内の一定期間で償却し、必要に応じて減損テストを実施

  • IFRS:償却は行わず、毎期の減損テストを必ず実施

しかし、これらは財務会計の話です。管理会計ではどうでしょうか?
管理会計では事業の実態や目的に応じた柔軟な取り扱いが求められます。

管理会計での2つの考え方

2つの考え方を紹介します。
管理会計において、のれんの扱い方は、「事業」として評価するか「投資」として評価するかで異なります。

1. 「事業」として評価する場合

この場合、買収後の事業を自社の既存事業と同じように管理するため、のれんを除外して評価するのが妥当です。
以下のような考え方が背景にあります:

  • 事業業績の公平な比較の実現
    買収事業だけに「おもり」を付けるような形になると、不公平です。例えば、スポーツ大会で「外部から来た留学生だけ20kgのおもりを付けて走らせる」ようなものです。同じ条件で競争させるためには、のれんをBS(貸借対照表)やPL(損益計算書)から除外し、評価基準を揃えるべきです。

  • 現場のモチベーション維持
    高額な買収価格を支払ったのは経営側の判断であり、買収された事業の社員には直接関係のない話です。過剰な利益圧迫を避け、公平な評価を行うことで、買収した事業を担当する社員のモチベーションを維持できます。

2. 「投資」として評価する場合

一方、買収事業を成長させて将来的に売却することを視野に入れている場合、のれんを含めた形で評価します。
]ポイントは以下の通りです:

  • のれんを含めたROIC(投下資本利益率)の算出
    投下資本にのれんを含めることで、実際に投入された資金の効率を正確に測定します。たとえば、20kgのおもりを付けて走る留学生を評価する際、そのおもり込みでどれだけの成果を上げられるかを測るようなものです。おもりの負荷を克服し、さらに成長する姿を評価する視点が重要です。

  • のれんの償却を行わない
    投資の目的は、買収した事業を成長させ、取得時以上の価値で売却することです。そのため、のれんを償却せず、事業の成長性を正確に反映させた評価が適切です。

まとめ

いつもそうなんですが、結局今回も目的によってやり方が変わるんですね。
のれんについては、まずは以下を考えてみましょう。
買収事業は「育てる事業」でしょうか?
それとも「売却を視野に入れた投資」でしょうか?


#管理会計 #投資管理 #のれん #事業管理 #M &A


企画:
アットストリームコンサルティング株式会社
プリンシパル/公認会計士 内山 正悟

EY新日本有限責任監査法人を経て、現在に至る


執筆:
アットストリームコンサルティング株式会社
取締役・シニアマネージングディレクター 松永 博樹

アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング(現 プライスウォーターハウスクーパース)を経て、現在に至る。


編集:
アットストリームコンサルティング株式会社
執行役員・マネージングディレクター 伊藤 学

プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社(現 日本IBM)、
ベリングポイント株式会社(現 PwCコンサルティング)を経て、現在に至る。