#39防災は一日にしてならず 牛尾幸子さんインタビュー編
※2023年3月に執筆したものに一部追記したものです。
共同管理人のれなです。今回は、今、とても気になる「防災」のお話。お話を聞かせてくださったのは、オストメイトの大先輩、牛尾幸子さんです。働き盛りの50代のときに卵巣がんのため、オストメイトになられて20年以上になられるそう。実は日本最大の当事者団体である、日本オストミー協会(JOA)で広報を担当されている方でもあるのですが、今回はJOAではなく、お1人のオストメイトとしてこれまで防災について学んできたことや感じてきたことをお話してくださいました。
ということで牛尾さんよろしくお願いします。
Q) 東日本大震災から12年、およそひと月前にはトルコシリア大地震が起きました。(その後能登半島、日向灘など国内でも大きな地震が続いています)災害が発生してだれもが大変な状況の中で、オストメイトの方の特別なニーズまで目が行き届いているのか、とても心配ですね。
牛尾さん)そうなんです。オストメイトの方の場合、なかなか自分から「自分はオストメイトなのでヘルプが必要です」とはいいづらいんです。排泄に関わる障害であることもありますよね。
Q)やっぱり自分がオストメイトというのは、いいだしづらいですか。
牛尾)ほかの人がもっと大変なのにというのもあるし、オストメイトであることを言いたくないという方もいまだにいます。昔は、オストメイト関連製品の品質や技術力がいまほど高くなく、どうしても匂ってしまった時代があり、オストメイト自身もオストメイトによくないイメージを抱いてきた部分もあったかもしれません。もちろん今はすごく技術力があがって正しく使っていれば、全然匂わないんですけど、それでも「匂うんじゃないか」と思いこんでしまったりする場合もありますね。
Q)JSSCRの冊子の中にも、東日本大震災の教訓として「便や尿失禁の問題は、性の問題と同じようにタブー視され、誰にでも気軽に相談できない。オストメイトも、ストーマケアに関する問題が生じていても 気軽には相談できなかった。災害要支援者としてピ ックアップされず、物資提供や環境整備といった支援を十分に受けられたとは言い難い。」(ストーマ・排泄会誌 VoL28, No.3, Dec.2012 p77)」という報告がありましたよね。
牛尾)そうなんです。それに、私たちオストメイトは服をぱっとめくっておなかを出して装具を交換しないといけないですからね。避難所で生活する場合、人の目を気にしなくていい場所が不可欠なんです。授乳するお母さんなども同じだと思うんですが、オストメイトの場合、さらに、交換時のにおいも気になりますので。
Q)ただ視界をさえぎる場所というだけでなく、においなどが漏れない個室やオストメイト対応トイレが必要になるわけですね。
牛尾)そうなんです。災害用トイレの中でオストメイトに対応したトイレもだいぶ増えてきたと思いますが、避難所では絶対に必要だと思います。また、東日本大震災の反省点として、障害者トイレを一般トイレとは別に確保することがガイドラインで示されたことで市町村でも災害用の障害者トイレの備蓄が進んでいると思われます。オストメイトの装具交換スペース確保をするためにも、障害者トイレの利用についてあらかじめ了解を取るなどの必要があると思います。
オストメイトに対応した災害用トイレも複数のメーカーが開発しています。たとえば・・
Q)そしてオストミーパウチ、装具の問題もあります。日本の場合は災害時にメーカーなどが装具を提供してくれるシステムがあるそうですね。
牛尾)ストーマ用品セーフティーネット連絡会(OAS)による災害時のストーマ用品無料提供があります。災害救助法適用の市町村内で被災、家屋が倒壊するなどしてストーマ用品の持出しや入手が難しいストーマ保有者や、装具の入手が難しい避難所、病院などを対象に、災害発生から約1ヶ月間、OAS各社の販売するストーマ用品をストーマ装具販売店を通じて無料提供してもらえる仕組みがあるんです。(くわしくはコチラ)
ただこちらのパウチが提供されるまで数日ありますので、自分で2週間から4週間分のストーマ装具とストーマ用品、ごみ袋などを非常用持ち出し袋にいれておいてください。これとは別に、建物が倒壊して持ち出せないなどの場合に備えて、自宅内外に非常用装具などを分散保管しておくことが大事です。
Q)災害時の装具の扱いで、知っておくといいことはありますか。
牛尾)やっぱり「ストーマ装具の廃棄の仕方」ですね。最近は通常時でも使用済みパウチの捨て方をめぐってトラブルになることがあるんです。パウチの使用後は、内容物をちゃんときれいにしぼりきって、私たちの住む自治体の場合、おむつと同じで「燃えるゴミ」として捨てる(※一般的には燃えないゴミの自治体が多いようです。廃棄の方法はコチラ。)のですが、最近はこれをちゃんとやらない人がいてマンションや公園などで問題になる事例があると聞いています。災害時は特に水がないこともありますから、このきっちりと絞り出す作業が大変になるかもしれません。でも、できる限り、絞りきってから捨てるということを努めてほしいです。一人のふるまいがオストメイト全体のイメージを悪くしてしまっては残念ですので。
Q)そういえば、今回、防災に関わる知恵や経験を結社のメンバーに募集したのですがその中に「ジップロック(ファスナー付きのポリ袋)があると避難所でも使用済みパウチのにおいを気にせずに捨てられるので便利」というアイディアがありました。
牛尾)そうですね。ジップロックもいいですし、さらにアルケアなどのメーカーではにおい漏れ防止機能のついた使用済パウチ専用の廃棄袋も開発していますので、そうしたものも利用していただきたいです。そしてそもそもすべての避難所に人の目を気にせずにパウチを捨てられる「オストメイト対応の簡易トイレ」が整備されることを願っています。でもなかなかオストメイトの数が少ないので難しいのですよね。21~22万人ですから。
Q)介護中の方や、子育て中の方もおむつを捨てる必要があるでしょうし、同じような設備が必要な他の背景のある方々と一緒になって、行政にニーズを挙げていくといいかもしれないですね。
牛尾)避難所では人の目が気になるので、それくらいなら避難をしない、という人も実際いるのですね。自宅が災害時に安全であることを確認できているのであればいいのですが、そうでないのに、人の目が気になるという理由で避難をしないオストメイトが出てこないよう、避難所の環境はぜひとも整えていただきたいと思っています。
そしてオストメイト自身も、必要な場合には、避難所に行くことを躊躇せず、避難所で過ごすことになった場合、施設管理者にオストメイトであることを告げ、使用トイレへの配慮や生活相談支援職員等の支援スタッフあるいは医療関係者に対して、援護してもらいたい旨を早めに申し出ておきましょう。
自治体の担当者の方がそもそもオストメイトについて知らないという場合もあります。
Q)知らなければ必要な支援もわからないですよね?
牛尾)ですからこちらから必要なことをちゃんと説明するのが大事ですよね。たとえば、パウチの保管方法について、公的備蓄や、自治体にお願いしている個人備蓄でも「気温が高いと劣化してしまうものがあるので備蓄倉庫ではなく、換気のよい生活空間、たとえば事務室の一角などに備蓄してください」といったように、丁寧にお願いをすることの積み重ねが大事だと思います。
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ということで。
牛尾さんのお話から、オストメイトの先達が、関係各所とかけあい、災害時の対策を改善されてきた歩みと「被災する前」に準備しておくことの大切さを知ることができました。普段から、自分の地区の避難所の環境について自治体に問い合わせておけば災害時に必要な支援が足りているのかどうかをあらかじめ確認できますし、オストメイトが必要とする支援を行政に理解しておいてもらうこともできますよね。まさに、「防災は一日にしてならず」。牛尾さん、ありがとうございました。
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