アニメ「スラムダンク」の神演出について〜映画についても分析〜
こんにちは
12月3日から映画『THE FIRST SLAM DUNK』が全国の劇場で公開されました。そして、11月初旬に発表された特別番組では新しい声優が発表されました。そして賛否両論が巻き起こりました。明らかに初期のアニメと比べて声が違うのですから・・。
勝手な推測ですが、井上先生が最初にアニメ制作に関わられたときは、おそらく”アニメにはアニメの世界があるので”、ということでお任せ、または発言権が少ない中での選択だったのかもしれません(メインクレジットにはいない)。それゆえ、ファンにとってはアニメは最高かもしれませんが、先生にとっては何か不満足な部分もあったのかもしれません。
そのことについては先生のブログにも記載がありました。
ブログの内容には”先生やファンの中でそれぞれのキャラクターが成長している”とのことでした。漫画やアニメ連載時には見つけれなかった新たなキャラクターの特性を見つけたそうです。つまり、我々がアニメで見ていた桜木花道と”今時点で”先生が捉える桜木花道は違っているということなのだと思います。
とはいえ、一定数のファンを失望させたことには変わりはなく、今回の炎上の大きな要因は、完全にマーケティング的な失敗(ムビチケ発売前に購入のきっかけとなりうる声優部分を発表しなかった)です。加えて、スラムダンク自体がアニメを通してさらに大きくなり、いつの間にか先生のものからファンのものになったことが大きな要因であると考えます。かくいう自分もアニメをみていたので、桜木はこの声、流川はこの声という固定概念まであります。
挙句の果てには、YouTubeを始め、それぞれの配信プラットフォームがアニメの再配信をするものだからより一層、アニメの声に馴染み、同じ声の延長であると期待してしまい、映画の”違う”感は否めないと思います。
とはいえ、どんなものだったのか自分もうる覚えだったので、改めてアニメを見返し始めました。
するとどうでしょう・・・
近年のアニメ(『SPY×FAMILY』など)は、原作からアニメにする際には一切の変更は許されないと厳しく監修されます。それゆえ、アニメーション側のクリエイティビティというのはほぼ出せなくなっています。しかしながら、スラムダンクは、アニメだからこそのとんでもないかっこいい演出があるではないですか・・すごい。
ということで、備忘録的にメモしていきたいと思っております。
■ どうして”三井寿”が圧倒的人気を得ることになったのかついての考察
湘北高校の最後のメンバー、背番号14 三井寿。スラムダンクの中で圧倒的な人気です。
下記のランキングを見ると、1位 三井寿(97.0点)、2位 桜木花道(90.3点)、3位 水戸洋平(89.5点)、4位 宮城リョータ(88.5点)、5位 仙道彰(87.6点) となっており、ダントツの1位です。
三井寿の登場は、アニメでは22話「史上最悪どあほうコンビ誕生」あたりの宮城の復活エピソードから始まります。そこから、三井寿は過去のエピソードなどを交えながら27話「バスケがしたいです!」まで約5話にわたって語られます。その長さもさることながら、最も衝撃だったのが、エンディング曲の扱われ方です。
実は超不良の三井がバスケ部だったという衝撃の事実から始まり、三井が中学MVPとなり、数々のオファーを蹴って湘北高校に入学したこと、安西先生の元でバスケをして恩返ししたいと強く意気込んでいたこと、しかし、頑張っていくなか、怪我をしてしまい試合出場できなくなったこと、そして、一度は復活するも(医者はOK出ていなかった)再度怪我をしてしまうなど悲しいエピソードが続きます(まぁ、なんで医者の許可なく無理をしたんだといえばそれまでですが・・)。
そして夏のインターハイ予選をひっそりと観にくるも、いたたまれなくなりそのままバスケ部から去っています。そうしたエピソードが木暮公延が優しい口調で淡々と語り、かなり感情移入してしまっています。そして、安西先生が扉から入ってきた途端、今までの過去が走馬灯のように駆け巡ります。そして、今までなかった新しいED曲「世界が終るまでは…」が劇中内に初披露されるのです。イントロとともに過去の三井寿のエピソードが始まります。そして、三井寿が試合会場を去る直前に合わせて、”世界が終わるまではー”というサビがはいるのです。まさに三井寿のために書き下ろされた曲なのかと思うのです。そして、その後安西先生に向かい、伝説の「バスケがしたいです!」と項垂れるシーンに移ります。正直涙腺うるうるです。
あそこまで不良でワルで、部員たちや学校に対して無茶苦茶してきた人間を許せることは通常ない(実際に一緒に見ていた嫁もずっと三井最低・・と言っていました。)にも関わらず、あのWANZSの曲が全ての負の感情を洗い流したのです。そして、27話は、その後三井が髪を切ってバスケ部に復活したこと、木暮の仲間思いのナレーションで終わります(事件の顛末は別話でとなりました)。
こうした演出はおそらく原作者の意図ではなく、アニメーションチームが三井寿というエピソードをいかに大事にし、視聴者にとって彼をただの不良ではなく、応援したい熱いやつという位置付けにもってくるために一生懸命考えたものなのかなと思いました。ほんとすごい・・。
湘北高校の他のメンバー、流川や宮城、赤木の登場や参加は話の中でも大きく扱われなかったのにも関わらず、三井だけは(原作だけでなくアニメでも)特別でした。そうした演出が、三井寿が圧倒的No1人気になっている要因かなと思いました。補足として、その後の試合でも、三井寿が中学のMVPだけあったこともあり、さまざまな高校の選手が三井のことを知っているので、その分彼のエピソード、人物像も強化されていきます。ちなみに、WANZの曲は、翔陽戦の終わりまで続きます。
■ジャンプの真骨頂!?コミカル演出
鬼滅の刃をご覧になった方なら下記の画像のようなシーンを覚えていると思います。週刊少年ジャンプのコメディものであればあるあるのリアルなキャラクターが急にコミカルキャラに変わる演出です。
スラムダンクを見ているとそのコミカル演出がかなり出てきます(漫画でも実際にたくさんありますが・・)。イメージとしては(本編の映像はないのでファンアートから取りますが)下記のようなものです。
アニメを見ていると、この演出を出す緩急が非常にうまいです。そしてとにかく出てくる。また同じゴリや流川でも毎回パターンが異なっている気がします。
一体こうした演出はいつから始まったのだろう・・スラムダンクの連載が始まったのが1990年です(アニメは1993年から)。1980年代のジャンプ作品を思い返しました。有名なのは、「ドラゴンボール」や「キャプテン翼」がありますが、それらには思いつきません。その中で唯一あるのは「ハイスクール!奇面組」などでしょうか?とにかく、バスケストーリーでありながら、実は初期はバスケット恋愛コメディだったのかもしれません。普通スポーツ漫画といえば試合にならないと盛り上がらないのですがこうしたやり取りがあるので、全く苦にならず見ることができました。
一方で補足を加えておくと、こうした演出の多様(Dr.Tの説明)は、何度も作品を見たり、バスケアニメを純粋に見たい人たちにとっては、テンポ感が遅いと感じられる人もいるかもしれません。ただしこの作品自体、当時はバスケットボールがメジャーじゃない時期に作られた作品であるので視聴者は初心者やバスケの楽しみがわからない人を想定しているので致し方がないのかなと思いました。
■モブ演出の繊細さ
本作のモブのこだわりもすごいです。試合といえば観客の声なのですが、
試合途中にすごいシーンがでると、それに合わせて歓声が湧きます!そして観客の試合シーンにおける観客のセリフや群衆の取り方のタイミングも非常に観ていて気持ちがいいです。ちなみに、出演声優が声色を変えてやっている場合もあるので、観客やモブの声を聞きながら、”あっ!これ水戸くんと同じ声!?”なんて言うのもあります。個人的には高宮くんの声が特徴あり、すごくよく発見しました。
その背景としては収録方法の違いがあります。コロナ禍になるまで、アニメの収録といえば、主要声優が同じ時間に一同に集まって一斉に収録するというのが主流でした。その中で、観客の声援やこの学生の声を撮りたいからやってみてということで、出演声優が声色を変えてやっています。それゆえ、モブの実力も非常に高いのです。しかし、残念ながら20年のコロナ以降一斉収録は無くなりました。声優の掛け合いはせず、ほぼ個別に抜きどりと言う形が取られています。それゆえ、コロナ禍以降で作られた作品は、モブが少ない/または全くないか、若手の子が呼ばれて撮っているので、かなりこの領域でのレベルは下がってしまったと言わざる追えません。そして声優同士による掛け合いのグルーブ感も落ちてしまっています。
■オリジナルストーリーについて
アニメの話の中盤を超えてくると、尺調整か話調整かオリジナルストーリーが増えてきます。特にインターハイが決まった後は多かったです。残念ながら、そこだけは過去にアニメであったシーンの焼き直しだったりして、とても残念でした。もし井上先生がストーリーに入っていたらもっと面白かったのかなぁと。
例えば、花道がミドルシュートの練習の合間に晴子さんと屋台へ行ったシーン。不良に絡まれた際に”桜木軍団登場!!”といって戦えない花道をヘルプします。これは、三井くんとの乱闘シーンや、決勝リーグの武里戦で三井と花道が遅れた際に出てくるところの定番シーンです。また、静岡の常誠高校との試合の様子もそうでした。流川が、陵南戦でやった仙道のシュートの真似をしたり、やや既視感が漂った展開でした。
■最後に・・・
最後に、井上先生の電子書籍化の反対という点についても触れたいと思います。例えばチェンソーマンやSPY×FAMILY、まして、鬼滅の刃でさえ、電子コミックで気軽に本が読めます。しかしながら、スラムダンクは電子で一切観ることができません。コミックのみです。多くの人は、書庫整理の際に売ったり捨てたりしてしまったのかもしれません(自分は実家に置かれています・・)。それゆえに、漫画を読み返すことができず、本アニメが神格化され、大事にされている所以なのかもしれません。
(映画鑑賞後・・・)
映画について思ったこと
<以下作品の内容に触れますので・・知りたくない方は閉じてください>
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公開日に早速見に行きました!まず最初に思ったのは”井上先生がやりたかった映画はこれだったのか・・”と。いくつかの観点から考えていきたいと思います。
■ ストーリー
今回の話はファン待望の山王戦を描くと共に、今まで描かれなかった宮城にフォーカスされた作品でした。確かに赤木、桜木、三井と漫画では既に人物像が深掘りされているため、このアプローチは面白かったです。陽気な強気キャラで、今までずっと謎に包まれていた人物。彼がなぜ湘北高校に来て、全国制覇(山王を倒すこと)を目指すのか・・。
これは、井上先生が漫画を終わった後にさまざまなキャラについて推敲し、向かい合っていった際に今にしてようやくできたストーリーなんだなと思いました。そうした意味で、今までのスラムダンクファンが持っていた世界観をグッと広げてくれて、より胸熱にしてくれました。
■ 宮城を視点に置くことの意義
様々なキャラクターが活躍する山王戦ですが、そこに、PGでありゲームのコントロールをする宮城の視点を重点におくことにより、試合を俯瞰してみることができて、視聴者に映画としての観やすさ、没入感を与えてくれました。スラムダンクを初めて(ないしはなんとなくキャラを理解している)観る人にとっても、ただの試合を見せられるより感情移入がしやすかったです。
そして、山王戦といえば・・やはり各選手のスキルの高さもさることながら、絶対に抜くことができない”ゾーンプレス”でした。そして(※漫画でも海南はこの対策を徹底してやったと言っていました。)、それを抜かなければ山王戦の勝利は掴めなかったのです。そうした意味でも山王戦の特徴を出すには、宮城にフォーカスすることが重要だったのだと思います。
■ 賛否両論のコメディカット
今回の映画はあくまでも山王戦の手に汗握る熱さ!を描きたかったのかと思いました。そのため、河田弟(みきお)と花道のやりとりや、魚住の板前で赤木を叱咤するシーン、花道の晴子さんへの告白シーンなど多くの原作ファンを魅力した名シーンがカットされていました。また、花道のプレイを見た安西先生が「おい……見てるか谷沢……お前を超える逸材がここにいるのだ……!!」というセリフもカットされています。
またそのほかの細かい見所も試合の時間の流れの中で、時間を止めることなく表現していたので、漫画を期待していた層にははっきり言って物足りなかったと思います。
これについてなぜかな?と思いましたが、おそらくあくまでも今回の主役は”宮城”であり、他のキャラのエピソードは抑えめにされ、また試合の進行スピードを止めてしまうような演出、コアな原作ファンにしかわからない演出はカット対象になっていったのだと思います。
■ モーションキャプチャーを活用した本物の試合演出”ライブ感”
ゲームはまるで実際の試合のような感じで、宮城がディフェンス時にバックステップで戻ったりと、実際にプロの選手たちがモーションキャプチャーでやってることもありリアルでした。これが現代のアニメの技術かと驚かされました。
カメラワークが漫画では存在しない俯瞰視点を多用しており、本来は寄りで一人一人が対決しているものを、コート上の10人がそれぞれの動きをしています。宮城がボールを付いているときも、ゴール下でポジションを争う赤木とか・・。そうした意味で、漫画では描かれない試合の全貌というのが体験できました。
ちなみに、いくつかのコメディカットも試合の流れの中でやっているので、笑いというよりも、そんなのもあったね!これぞスラムダンクという感 じで体験できます。
また井上監督も全てのカットに自ら修正を入れたと言っている通り細部のこだわりはすごかったです。
■終わりに
ということで、
正直、漫画も良さがあり、アニメシリーズも良さがあり、今回の映画も良さがあるので、どの観点から評価するに賛否は分かれる作品だなと思いました。ただし、井上先生の才能の凄さには本当に圧倒されました。
今回の作品が大いにウケたことの要因に、現代の人たちのトレンドの一つとしてライブ感への渇望があります。例えば「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」「ボヘミアン・ラプソディ」「アリー/ スター誕生」のようなライブ作品が人気を博しました。今の技術だからこそできる生の体験。それをスラムダンクはリアルなアニメで表現しました。観た人は、まるで”スラムダンクの試合を観に行った”と感じたかもしれません。
そうした観点において考えると、作品の中身をずっと隠し通すことも鑑賞後の高揚感を一気に導かせることに貢献したのかなと思いました。
余談1
googleトレンドで宣伝の様子1ヶ月前の比較しました。スラムダンクは青い線ですが、公開後の伸びが異常です!いかにファンが待ち望んでいたのかというのがよくわかります。
余談2
スラムダンクはどの世代まで人気あるのかということについて考えていました。知り合いのバスケ部の子供は、テレビアニメを見たそうですが、挫折したそうです。時代の古さを感じ、共感できなかったことが理由だそうです。それもそのはず、現代の部活では”怒る”ことがかなりデリケートになっています。普段、よほどのことがない限り怒られません。例えば、田岡さんのように毎日怒鳴るなんてのはもってのほかです。
当時のバスケ部の人たちにとってはスラムダンクはある種のリアル性を帯びたことにより共感されましたが、現代の子たちにとっては、ただの昔の熱血バスケ漫画としてしか見られていないのかもしれません。
以上、長文となりました。お読みいただきありがとうございました。