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買えないチケット <インド #1 デリー>
10月のデリー。気温40℃とか50℃とか地獄のような暑さはなく、35℃くらいの常識的な暑さである。
ニューデリー駅にアグラ行きのチケットを買いにいった。事前に調査した情報によると、外国人向け窓口はニューデリー駅の中ではなく、駅から南に少しいった場所に移っているとのことだった。
窓口はニューデリー駅にないことを事前に突き止めていたし、ニューデリー駅は詐欺師が多いことも聞いていた。
だから、ニューデリー駅の南にある窓口に直接向かった。Google mapではIRCTCの場所あたりにある。駅から完全に出て歩くので少し不安になるが、ちゃんとある。
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これでチケットを買えると思い安心しそうになるが、外国人専用窓口があると思しきカウンターに行くと、以下のような案内がある。
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窓口は移動している。元々あったニューデリー駅に戻ったらしい。詐欺師の巣窟のニューデリー駅に行かなければならない不安感とともに、インド独特のチャレンジへの興奮もあり、少し体温が上がった気がした。
ニューデリー駅の方に戻り、「Auto!」と話しかけてくる人々(詐欺師ではなくただの勧誘だが煩わしい)をひたすら無視して、駅の構内に入る。
今までのインドでの経験としては、インドならでは体験を旅行者にさせるため、わざと案内を出さなかったり、物事の難易度をあげているのではないかと思った節もあった。オーセンティックなインドの経験をあえて提供しているのではと思っていた。しかし、ここでは、旅行者の利便性をちゃんと高めようとしているらしい。外国人専用窓口はニューデリー駅に入ってから簡単に見つかった。
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朝の9時だからか窓口には1人のスタッフしかおらず、既に1組の旅行者の対応をしていた。アジア系の女性と欧米系の男性のカップルだった。
その辺に座っていると、チケット申し込みの紙を書くように言われ、紙を渡された。ペンを持っていなかったのでペンを貸してもらい、用紙に記入した。このときに、列車の番号やクラスを記入する必要があるので、申し込む内容を事前に調べておく必要がある。列車の検索は、ixigoがUIもよく便利。
利便性に関しては惜しい点もある。スタッフからしか用紙をもらえなかったり、ペンが置いてなかったりするシステムは、例えば、英語で用紙の場所を案内したりペンを置いておけばもう少し利便性が上がるし、オペレーション負担も下がるし、よさそうなのにと思った。この日は人が少なかったので、毎回、用紙を手渡ししてもいいのかもしれないが、客が増えたら大変だろうなと思った。
事前に調べた列車の情報を用紙に記入し、自分の順番が来た。ここまで来たら、ここから想定される問題は、①列車の空きがない。②クレジットカードが使えず現金も足りない。の2つ以外にあり得なかった。①については、ここに来る直前に空き情報を確認し大丈夫そうであることを把握していたし、最悪、出発時間を若干ずらして購入できればいいと考えていた。②については、十分な現金を持っていた。
ここまで準備してきたので、これで買えるはずと思い、再び、安心モードになった。何より外国人専用窓口のエリアには地元の人がおらず、落ち着いたスペースに外国人が数人だけいるという環境だったので、緊張感を感じる必要はなかった。
ところが、スタッフから思いがけない言葉が出てきた。
「学生ビザの場合、ここではチケットを買えない。」
この課題は全くの想定外だった。駅を出て南側にある窓口に行って買ってくれと。そこはさっき行ったところなのだが。もし外国人窓口に行けと言われたら、学生ビザであることを伝えてくれと言われた。たしかに、スタッフの後ろの壁にある案内には学生ビザでは買えないと書いてある。
仕方なく、さっき行った駅の外の窓口に再度行くことになった。
窓口に再び着き、用紙をもらうと今度はペンを貸してくれない。周りにいる人にペンを借りようかと一瞬思ったが、自分の中の典型的な日本人気質が邪魔をして、誰かにペンを借りるのが憚られた。ここから宿までは5分くらいなので、ペンを取りに帰ってもいいかと思い、ペンを取りに戻り、また窓口に戻ってきた。
「Auto」と勧誘してくる人たちは、何度も同じ道を通る外国人をどう思っているのだろうか。今回は駄目だが次は乗ってくれると思って声をかけるのだろうか。それとも、とりあえず外国人が通ったら反射神経で声をかけることにしているのだろうか。たしかに、声をかけてみて無視されても失うものは何もないので、とりあえず全員に声をかけるという戦術は合理的である。しかし、ローカルの人には声をかけていない場面も見られ、やはり乗りそうな人を選んで声をかけているのであろうか。彼らの中の線引がローカルな人か外国人かというところにあるのかもしれない。なるほど、獲得確率を踏まえると、外国人旅行客というセグメントに営業努力を集中させる戦術は有効なのかしれない。
窓口で用紙に記入し、順番を待っていると、「ペンを貸してくれないか?」と話しかけてくる若者が来た。インドでは他者への関わりを簡単に発生させようとする人が多いように思う。インドにいると、外国人をカモろうとしてくる人も多いが、明らかに外国人であることが見ればわかるのに、道を聞いてきたりする人もいる。また、外国人に対して写真を一緒に撮ろうとする人も多い。
道を聞くときなどは、外国人ということを特に意識していないと思われる。インド自体が多民族国家なので、そのあたりは中と外をあまり分けてなく、気にしていないのだろう。オープンな姿勢はインドの好きなところである。
一方で、外国人とわかると金を取る相手と見てくる人もいる。また、写真を撮りたいなどは、単に物珍しさからの行為な気もする。
このような他者への関わりが善意によるものか、悪意によるものか、今日を生きるためのお金を稼ぐためのものか、単なる好奇心によるものはわからないし、当然に人によるだろう。インド人は・・・と一般化するのも到底不可能である。
けれど、一般的な日本人に比べると、他者への関わりが積極的であるということは間違いなく言えそうだった。
自分の順番になったので、記入した用紙を提出すると、行きのチケットはConfirmできるが、帰りはWaiting Listと言われた。その日にデリーに帰らないといけないので、時間をずらしてもいいので別のチケットはないか聞いてみる。どうやら購入する出発地を変更して、アグラで乗る設定にすると空きがあるらしい。自分の理解では、アグラより先にある地点から乗るチケットを買っておいて、実際はアグラから乗車するといったパターンだと思うが、これで席が確保できるなら、アグラからでも確保できるのではと思った。もしかしたら料金設定で買える席が違ったりするのかもしれない。仕組みはよくわからないし、若干高くなってもチケットが買えるのであれば、それで問題ないので、チケットをようやく買えた。
ここまで8時半くらいからスタートして既に10時半くらいである。オーセンティックな体験としては面白いのかもしれない。
次の日は、苦労して購入したチケットを使って、アグラに行った。定番のタージマハルとアグラ城を見て、カフェで暇つぶしをして、デリーに帰った。
タージマハルはもちろん綺麗なのだが、THE・観光地というかんじであった。旅の醍醐味は観光地を見ることではなく、やはり体験である。タージマハルも後になって写真を見れば思い出すだろうが、写真という情報なしに純粋に思い出す体験としてはニューデリー駅でのチケット購入の方かもしれない。
最後にタージマハルの写真を載せて、一応フォトアルバムっぽくしておく。
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